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20/28

20,初めての魔法の授業。

天川のクラスの教室。


『時の試験』の影響か、『無』属性の生徒…ていうか天川のクラスの生徒全員そうなので(他の属性を持つ生徒は他教室で各属性魔法の補講授業を受けている)全員ストップウォッチに夢中になっていた。

『時の試験』の内容それは。


ストップウォッチで10秒を誤差1秒以内で止めること。それだけ。


まあ、あくまで『現段階』ではあるが。

時属性顧問である『六文銭舞雪ろくもんせんまいゆき』は上記ができるようになったら試してやろうと言っただけで、それが出来たら合格とは言っていない。

天川はそういう考えのもとで動いているので割と無感情でその練習をしていたが、他の生徒たちは自分が魔法の才能のない『無』属性だったこともあり、新たな希望ができたせいか無邪気に楽しそうに練習していた。


「よーし!10回中8回は成功できるようになったぜ!」


「すごいねー、これ簡単そうで意外とむずいよ。私はまだ3回に一回くらいしか成功しないなー」


クラスメイトの楽しそうな声が天川の耳に入ってくる。

一方の天川は孤立気味で練習をしていた。それもそのはずで仲の良かった前後、右側の席にいた望月、海野、三好が今はいない。

天川以外属性持ちだったので、今は補講授業を他教室でしているから。


《…寂しいですか?天川》


天川以外視認できないアルマが、そう微笑みながら問いかけてきた。

この日は出会った日に着ていたフランス人形のようなデコレーションドレスにヘッドドレスの出で立ちだった。


《違うと言ったら噓になるな。ただ『こういう』状況に陥るたび、俺は強くなっていった気もする…一応そう強がっておくよ》


と、ストップウォッチ測定を無表情で繰り返す天川。天川の返答を聞き、アルマは満足そうに頷きそれ以上は何も言わなかった。


(…頑張ってください。天川)


と、ここで。

天川のクラスの顧問である蓮沼先生が入室してきた。

紺色のジャージ姿である。

ロングヘアーを後ろでまとめており、いかにも動きやすいといった出で立ちだ。



「みんな。初めての魔法の授業は外で実施するから、体操服に着替えて校庭に集合よ!ほらほら、ストップウォッチはしまって早く準備なさい」



そうぱんぱんと手を叩く蓮沼先生だった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


校庭。


蓮沼先生の前にクラスの30名程度が広く整列している。


「さて。先ずはこのタブレットを一粒飲んでみて。魔力を可視化できるようになるわ」


蓮沼先生は白い錠剤が詰まった瓶を一番前の端にいる生徒に渡した。

生徒は瓶から一粒取り出すと次の生徒に瓶を渡す。しばらくすると天川にもタブレットが回ってきた。


「『本当は』座学から始めるのが魔法学なんだけど、まあ『色々』あってね。実践で先ずは魔力を肌で感じてもらうわ」


蓮沼先生の思わせぶりな言動に天川は疑問に思ったが、取り合えず考えることをやめタブレットを飲む。

正直、良くも悪くもこの世界における『魔法』とやらをいきなり実体験できるのはありがたかった。

少なくとも…いやかなり興味があったから。

当然ながら転生前の天川の世界に魔法という概念はなかったから。


「……!?」


天川…いやクラス全員、蓮沼先生も同様にかなり薄い緑色のオーラ?のようなものがぽわあと全身にまとわれているのが見えるようになった。

他の生徒も同様に驚いているが、蓮沼先生ははいはい、みんな落ち着いてーと宥める。


「この全身に纏われている薄緑色に発光している『これ』が魔力よ。これを源にして魔法を放つことができるわ…こんなふうに」


蓮沼先生は言いながら指をパチンと鳴らすと、鳴らした右手の上にぼっ!と、ゴルフボールくらいの火の玉が発生し、手の少し上でふよふよと浮かんでいる。

クラスメイト達のおー!という歓声が上がったが、蓮沼先生はすぐに火の玉を消してしまった。


「…ああ、簡単そうにやって見せてるけど『こんなの』すら結構しんどいのよね。まあやってみればわかるんだけど…ね」


そう言いつつ、蓮沼先生は大きく深呼吸した。クールな表情は崩していないが本当にしんどいっぽくみえる。

そういえば、無属性がどんなに努力してもライター程度の炎くらいしかだせないんだっけ?

前に魔法の教科書でそんなことが書いてあったなーと思い出す天川だった。

となると蓮沼先生も無属性なのだろうか。


「さて、実際に魔法を見てもらったところで。具体的にどう魔法を使うかなんだけど、先ずは魔力のコントロールが出来るようにならないといけないわ」


例えばと蓮沼先生は右手を大きく前に突き出した。


「属性選別で火属性だったら水晶が赤く光ったのは覚えてる?今私は右手を纏う魔力が赤く熱を持つイメージをしている…天川!ちょっとこっちへ来なさい」


ここで何故か天川が呼ばれた。最前列でもないのに何故自分なのだろうかと疑問に思いながらも蓮沼先生の近くまで来た。


「私の右手の魔力に触れてみなさい」


?に思いながらも蓮沼先生の指示通りにする天川。


「…!!?あっつ!!!??」


それに触れた瞬間、誤って熱いものに触れた時と同じ反応をしてしまった天川。

その反応に満足そうに頷いた蓮沼先生は今度は左手の魔力に触れてみなさいと続ける。


「…!…ひんやりしてる」


「『こっち』は水属性の象徴である『青色』をイメージしていたからね。これが魔力のコントロールの基礎であり、奥義でもある魔力の『属性変化』よ。私は『無』だから魔力が薄緑色のままだけど、例えば火属性持ちなら本当に魔力が赤色に変化するわ」


蓮沼先生は続ける。


「魔法の属性にはそれぞれを象徴した色があるわ。それを『属性色』という。例えば火属性なら『赤色』水属性だったら『青色』みたいにね。『属性選別の水晶』もその原理で持ち主の魔力に呼応してその属性色を発光させている」


蓮沼先生は続ける。


「つまり火を放つ魔法を使用したい場合、まず魔力を火属性に変化をさせる必要がある。それには火の属性色である赤色そして熱を帯びることを強くイメージする。それをすることで魔力が火属性に変化して行き火属性の魔法を放つ準備が整う。今日は属性変化を実際に体験してもらうわ…さあ、みんなもイメージしてみて。赤でも青でもどっちでも構わないわ」


みな一斉にイメージを始めた。天川も列に戻り試してみる。

右手の魔力?が赤く熱くなる強くイメージをする。

気のせいかもしれないが、ほんのり、暖かくなってきた気がする。周りのクラスメイトからも同様の意見がちらほら聞こえてきた。

ここで天川は思う。蓮沼先生の場合は火傷しそうなほどの熱を感じた。自分自身は熱くないのだろうかと。その疑問は他の生徒も感じていたようで蓮沼先生に問いかけられる。


「厳密に説明するのは座学でやるのだけど…わかりやすく言うとお風呂で最初熱くても段々慣れていくでしょ?魔力の属性変化に合わせて体もそれに順応していくから平気なのよ。ただ、本人は大丈夫だけど他人は当然そうはなっていないからとても熱く感じるってことね。まあ実際熱いんだけど」


そして。

一時間が経過し薬の効果が切れたのか、身体を纏う魔力が見えなくなった。

…まあ、そんなことより。


「…うふふ、疲れたでしょう?それでいて、魔力の属性変化も大して進歩していない。それだけ難しいし、大変ってことよ、魔法はね」


天川が周囲を見渡すと、クラスメイト全員がグロッキーになっていた。

なるほど。蓮沼先生が最初に『こんなのすらしんどい』って言っていたのはこういうことか。

天川もそうだし、他のクラスメイトも強くイメージを続けていたが、気のせい程度の温かみや冷たさしか感じられない程度の属性変化しか出来なかった。

蓮沼先生曰く、この程度じゃ魔法に至るのはまだまだ先の話になるそうだ。


「まあ、安心なさいな。それが『普通』だから。…天川、あなたなんだか随分と余裕そうね」


天川以外の生徒はへとへとで立っているのがやっとの状態なのに、天川だけがケロッとしているのを見て蓮沼先生は怪訝な表情を天川に向ける。


「余裕っていうか…あまり疲れてないだけなんですけど。僕、さぼってましたかね?」


正直そんなつもりはなかったが、自分以外がこんなに疲れているのに自分だけ元気なのはおかしいと思いそうばつがわるそうに頭をかく。


「いえ、見ていたけどちゃんと集中していたわ。僅かながらでも属性変化は出来ていたしね。ま『体力があるのは良い事』よ?とっても」


蓮沼先生はそういい、まあそれはそれとしてと続ける。


「魔力が見えなくても『属性変化の練習はできるからね?個人的にそれをするのは自由よ?』勿論、魔法を使用するのは厳禁だけどね。…まあ、やろうと思ってもできないけどさ」


なんかすごい不自然な感じで話を切られたなと感じた天川だった。今度は天川が怪訝な表情を蓮沼先生に向けるも、ここで一人のクラスメイトの女生徒の質問に遮られる。


「先生それって、期限までに属性変化が出来ないと魔法のテストとかでまずいってことですかー?」


不安そうにそう問う女子に対して蓮沼先生は安心しなさいと優しく微笑んだ。


「自由って言ったでしょ?そもそも魔法のテストは座学だけで実施はないわ。逆立ちとか逆上がりと同じで、練習すれば誰でもできるけどその習得速度は個人差がかなりあるから、仮に属性変化ができないから落第になるってことはないわ」


女子の質問にざわつくクラスメイト達だったが、蓮沼先生の回答にみんなほっと胸を撫で下ろす。


しかし天川の抱いた疑問は解消されてはいない。


それはさておき言い得て妙な例えだと天川は思った。

そういえばガキの頃中々逆上がりができなくて相当苦労したっけ…と昔を思い出す。それだったら魔法もかなり個人差があるのが頷ける。逆上がりにしろなんにしろ、自然にできてしまう人もいれば、時間をかけて練習してようやくできる人もいる。

天川は魔法でも自分が後者側であるとなんとなく感じた。

改めて思う。

この世界における魔法ってのは本当に夢がない…凡人に限って。

とは言え。

必修科目でもないのに蓮沼先生はなぜ、個人的に練習するのは自由などと言ったのだろう?


「先生、質問が…」


「ん?どうかしたの天川」


と、言いかけてすんでのところで思いとどまる。


「…やっぱいいです」


「…あらそう?」


なにか追及されると思ったが、蓮沼先生は何も聞かずそのまま退いた。


(…イメージか。それと『体力があるのは良い事』…ね)


天川は敢えてこれ以上追及することをここではやめておいた。

なぜなら。

六文銭の言葉を思い出したから。


【この試験に関して『安易に他人から助言を聞かない』ことをおすすめしておく…『答え』にたどり着きたいならな。『既存の情報に囚われず』に道中を楽しめ】


もしもこの授業も六文銭のいう所の…道中の一つだと仮定するのであれば。

ここで蓮沼先生に問うことは、他人から助言を聞くことになるだろうから。


他のクラスメイトの疲労が緩和して魔法に関しての雑談する中、天川は口に手を当てながら思考する。


(道中である確信はない…だが『時の試験』と無関係とは到底思えない)



「はいはい。みんなー教室へ戻るわよー」



天川は様々な思考を巡らせながら、クラスメイト達と共に蓮沼先生の後を追っていった。


(…『こんなん』で気づけってのが無理だろうと思っていたけども。そもそも仮に答えに辿り着けたとて……『それ』を実践できるのかどうかは別次元…ていうか無理と思っていたのだけど。…たしかに六文銭の言う通り、この『天川翔』なら…答えに辿り着き…『突破』できるかもね)


考え込む天川を見て、そう口元を歪める蓮沼先生だった。



ーーーーーーーー



放課後。

天川が部室(教室)に入るといつも通り由利先輩が将棋盤を広げ、棋譜を並べていた。


「やあ天川!今日も相手をよろしく頼むよ」


右手を上げ、素敵な笑顔で天川を出迎える由利先輩。

奇麗な黒色のロングヘアー。背は天川と同じく170くらいある。すでに女性として出るところがでており、三好とは違う、可愛いのではなく、奇麗と言える美少女。


「あー…先輩、相手するのはいいんですけど『これ』やりながらでもいいですか?」


天川は由利先輩に件のストップウォッチを見せた。

意外というかなんというか、由利先輩はその事情を既に知っていたようで


「んー?天川も『時の試験』…だっけ?それに挑戦しているのかい?」


と返してきた。相変わらず美少女なのに男らしい口調で話す由利先輩。まあ、それはそれで魅力的ではあるが。


「ええ。多分無駄に終わるんでしょうけど、やるだけやってみよっかなーって。ていうか由利先輩も知っているんですね」


「ああ。時魔法の権威である『六文銭舞雪』がこんな名もない中学にきたらそりゃあ話題にもなるさ。上級生の中でもその試験に参加させてくれって生徒が続出しているよ。…合格できるわけないのに」


最後の、合格できるわけないのに、で笑いながらため息をつく由利先輩。察するに由利先輩も天川と同様な考えをしているのだろう。


「まあ、そんな連中は当然門前払いを食らったそうなんだけど。それよりその『時の試験』ってのはどういう内容なんだい?ストップウォッチを使うまでは知っているんだけど」


そう天川に問いながらも機嫌よさそうに駒を並べる由利先輩。天川が事情を話すと不思議そうな顔を見せる由利先輩。


「…個人的な感想なのだけど、それってどう考えても裏がありそうだね。少し練習すれば誰でもできるようなことだし」


ふむ。由利先輩とは最初印象最悪の出会いだったが、今ではよき理解者になってくれそうで素直に嬉しい(可愛いし)それと自分と似た思考をしてくれているのも好感が持てる。


「…まあ、それはさておき…だ」


ここで由利先輩の表情が変わった。一気に顔が険しくなり天川を睨みつける。

突然の変化に天川はど、どうしました?と若干動揺しながらもそう尋ねる。


「君の将棋が強いのは当然知っている。しかし時の試験の練習の片手間で、私相手に勝とうなんていくらなんでも不遜すぎるんじゃあないのかい?」


ここで天川の返答を待たず、由利先輩が一手目を指した。将棋では弱い方や格下が先手を指すものだから。

ああそういや、考えてみたら舐めた発言だったなと思ったものの、天川の口元が少し緩む。

この挑戦的で素敵な美少女の顔を醜く歪ませてやりたいと考えてしまった。


《…アルマ》


《なんですか》


《ぼっこぼこにしてやれ》


《…はあ、まあいいですけどね》


由利先輩の鋭い眼光を無視しながらストップウォッチ片手に駒を動かす天川。


数十分後。


部室(教室)に由利先輩の発狂が響いたのであった。










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