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旅支度

 東聖領に旅立つ三日前、持っていく荷物をまとめていると、箱を抱えたエル兄さまが部屋を訪ねてきた。


「ライ兄と話し合った結果なんだけどねぇ、向こうでは、ここに入ってる魔道具をアリアに装着してほしいんだ。東のギルドでは、アリアは男として過ごして欲しいんだよー。ギルドの男どもは荒々しくて、常に女の子に飢えてるからね」


「それって偏見では……それではリーンちゃんもですか?」


「リーンはそのままで大丈夫でしょ。見た目は小動物だけど、中身は大型魔獣だからねぇ。男どもに群がられるのは最初だけだよー。でもアリアはそうもいかないでしょ。過保護な兄達のわがままだと思って、付けてもらえるかなぁ?」

『キュキュッ』


 エル兄さまは小首を傾げて可愛くお願いする。小福ちゃんもよく分かっていないと思うが、キラキラとした瞳で見てくる。


 リーンちゃんの扱いがひどいが、確かにそうだよね、と納得してしまった。


 彼らの兄バカは今に始まったことではないし、何を言っても変わらないので、もう諦めている。


 昔から嫌な目にあうことが多かったので、家の外では黒いローブを目深く被って過ごしてきた。

 兄さまたちにお願いされたのがきっかけだ。私自身もあまり目立ちたくなかったので、丁度良いやと了承した。


 なので、ローブではなく魔道具で変装することに変わるだけ。私にとってはどちらでも良いことだ。


「分かりました。使い方の説明をお願いします」


 申し入れを了承すると、兄さま笑顔になり、箱の中から一つずつ出して説明を始めた。


「コレはね、髪の色を変える髪ゴムだよー。アリアの髪色は目立つからねぇ。聖女様を思わす色でもあるから隠した方がいいと思うんだ。コレを装着後はオレと一緒の黒髪になるんだよー」

「それはすごいですね」


 私の髪は母さまゆずりの白金色だ。ライ兄さまもお揃いである。

 髪色を変える魔道具なんて今まで聞いたことがない。さすがエル兄さまだ。


「次はこのゴーグルね、着けると瞳が一回り小さく見えるようになるんだよー。アリアの瞳はキレイだからねぇ。青い瞳の色は変えずにそのままだよ。色まで変えちゃうのは嫌かなーと思って」


「そうですか……」


 普通のゴーグルで良いと思うんだけどな。

 兄バカ全開だがいつものことなので、おとなしく説明を聞き続ける。


「コレは声を低くするチョーカーね。アリアの声はかわいすぎるからねぇ。 このローブは襟が高くなってるから、かわいい口元をしっかり隠すんだよー。 コレは防御力を最大限まで高めた胸あてね。せっかくだから手触りにもこだわってみたんだ。たくましい筋肉質な手触りにこだわって仕上げた『胸板くん理想の大胸筋バージョン』だよー」


「そうですか……」


 説明を全て聞き終え、なんともいえない気持ちでいっぱいだ。

 恥ずかしさを通り越して、兄バカもとうとうここまできてしまったか……という諦めの気持ちである。


 エル兄さまは魔道具を全て箱の中に戻し、私に手渡すと、満足そうな顔をして自分の部屋へと戻って行った。


「はぁー……」


 大きくため息をつき、荷造りを再開した。そして一段落したところで、居間で休憩することにした。



 居間のソファーではリーンちゃんとガイウスさんがくつろいでいた。二人はこの屋敷で一緒に暮らしている。


 リーンちゃんは、私と同じ17歳。

 焦げ茶色の長い髪をポニーテールにし、紫色の大きな瞳はつり目がちで猫のようですごく可愛い。小柄で元気な女の子だ。

 物心つく前に母親をなくしたリーンちゃんとは、姉妹のように一緒に過ごしてきた。


 ちなみに、リーンちゃんもガイウスさんも一度寝ると朝までぐっすりなので、白さまが酔っぱらって暴れていた時も、朝まで起きることはなかったのだ。

 

「アリアちゃん荷造り終わった? 私まだなんだ。持っていきたい物が多すぎて選べないよ」


 私が居間に入ると、リーンちゃんは立ち上がってすぐに話し掛けてきた。


「ある程度終わってたんだけど、向こうでは男の格好をすることになったんだ。せっかく用意した服を入れ替えることになっちゃった」


「え? 男の格好するの? いつものようにローブじゃなくて?」


 首を傾げるリーンちゃんに、経緯を説明する。


「……なるほど。そうだよね、どうせなら徹底した方がいいし、それすごくいいと思う!」


 リーンちゃんはうんうんと頷いている。

 私たちの会話を横で聞いているガイウスさんも、うんうんと頷いている。


「俺もそれが良いと思う。ここじゃストーキングしてきてもさすがに領主の屋敷まで入ってくる者はいなかったが、向こうじゃそうはいかないからな」


「何ですかそれ」


 ストーキングなんてされたことないのに。というか、モテた経験すら一度もない。

 私の周りの人間は、相変わらず過保護な兄たちに毒されているようだ。


「アリアさん、どうぞ」

「ありがとうございます」


 メイドのハンナさんが紅茶を淹れてくれたので、飲みながらまったりとくつろいだ。

 三日後にはこの幸せな空間ともしばらくはお別れだと思うと、少し寂しくなった。


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