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大岩を投げる少女

 チュンチュン、チチチチ……



 早朝。目覚ましの音で目を覚ました。

 これはエル兄さまが作った魔道具で、セットした時間になると鳥のさえずりで起こしてくれるものだ。


 顔を洗い、歯を磨き、シンプルな黒いズボンと白い長袖シャツに着替える。


 朝食を取りにいき、食べ終えるとまた自室に戻った。

 長い髪を後ろで一纏めにし、ゴーグルを付ける。

 首にチョーカーを付け、胸当て、ローブを身に付ける。


 エル兄さまにお願いされたものを全て身につけ終わると、鏡には別人のような自分がいた。


 準備を終えて荷物を持ち、皆が集まっている居間に向かう。

 私の姿を見ると、エル兄さまとライ兄さまは満足気ににんまりとし、リーンちゃん含むその他の人達は目を見開いた。


「……アリアちゃんだよね? すごい、別人みたいだよ」

「完璧だねぇ。これなら心配いらないねー」

『キュキュー!』


 小福ちゃんも驚いているようだ。エル兄さまの頭の上で興奮ぎみに飛び跳ねている。


 ライ兄さまがすぐ目の前まできて、うんうんと頷いている。


「よし。これなら大丈夫だ。さすがだ。よくやったエル」

「でしょー」


 何が大丈夫なんだろう。聞いてもいつものように兄バカな答えしか返ってこないだろうから、聞かないけど。


 しばらく談笑していると、ライ兄さまが宝珠で白さまを呼んだ。

 キラキラと輝く白い光と共に、白さまが目の前に現れた。

 白さまは、誰? というような目で私を見たので、経緯を説明する。


 今魔道具を身に付けているのは、皆にお披露目するためだけなので、ゴーグルとチョーカーは外し、ローブで隠していた口元も出した。


『なるほどのぅ。可愛くなくなるけど仕方ないことじゃな。アリアちゃん、ワシのせいですまんのぅ』


 そう言って抱きついてくる白いもふもふを堪能する。仕方ないだなんて、白さままで兄さま達に毒されているようだ。


『コレ、ワシの宝珠じゃ。持って行ってくれんかの。困ったことがあったらいつでも呼んでくれてかまわんぞ』


 どこからか取り出した、キラキラと真珠色に輝く丸い珠を渡される。まさか宝珠なんて、そんな大それたものを渡されるとは思わなかった。


「白さま、これライ兄さまにも渡していましたよね? そんなに軽々と渡して大丈夫なのですか?」

『ダイジョブじゃ。まだまだあるし、渡してもすぐに増えるからのぅ』

「そうなんですね……では遠慮なく頂きます。ありがとうございます」


 宝珠ってもっと貴重なものなんだと思っていたのに、増えるんだ。



 しばらくしてから、皆で玄関へと向かった。

 荷物は肩から下げられる大きさの鞄一つだけ。空間魔法を使えるエル兄さまが作った魔道鞄なので、見た目の数十倍の荷物が入る優れものだ。


「アリア、頼んだよ」


 ライ兄さまが私の頭をなでながら、少し寂しそうに眉尻を下げた。


「はい。たくさん稼いできますね。領地のことよろしくお願いします」


 寂しいけど、皆の役に立てるのは嬉しい。私は私にできることを精一杯頑張ろう。


 皆と挨拶を済ませ、三人で馬車に乗り込んだ。

 不安な気持ちもあるけど、今まで領地の外に出たことがなかったので、旅をするのは今回が初めて。

 だから楽しみな気持ちもいっぱいである。



 東聖領までは、馬車で三日ほどかかる。


 この国には、中央に王都がある。その周りにいくつかの町や村があり、国境には山脈が続いている。


 国の最北端、最東端、最南端、最西端には、それぞれ聖獣が棲む聖なる山があり、その周辺に魔獣の棲む山や森、ダンジョンが存在する。


 最北端の北聖領の領主を務めているのが、我がノースフィル家だ。


 北聖騎士団と北聖ギルドに所属する冒険者達が討伐することで、魔獣の増殖や内陸部まで入り込むことを防いでいる。




 休憩をはさみながら馬車の旅は続く。

 あと一日で到着というところで、険しい岩場を走っている途中で馬車が急に止まった。

 馬車の扉を開けて外に出ると、道を塞ぐように大きな岩が無数に積み重なっていた。


「崖崩れですね……迂回路を通るとなると、到着まであと三日かかると思います……」


 行者さんのせいではないのに、額に汗を浮かべながら申し訳なさそうに言った。


「リーン、よろしくねぇ」

「了解です。ちょうど体を動かしたいと思っていました」


 エル兄さまに頼まれると、リーンちゃんは焦げ茶色のポニーテールをゆらしながら岩へと近づき、積み重なった岩へぴょんと飛び乗った。

 そして自身より大きな岩を両手で掴んだ。


 ぽーいっ

 ぽーいっ


 リーンちゃんは岩を軽々と横へ投げ捨てていく。投げられた岩はドスンと音を立てた。


「これは凄いですね。あのお嬢さんは身体強化の使い手でしたか」

「そうですよー。リーンは騎士団長に次ぐ馬鹿力の持ち主なんですよー」


 エル兄さまは、けらけらと笑いながら言った。

 人と話すのが苦手なエル兄さまだけど、一対一なら普通にコミュニケーションがとれるようだ。


 リーンちゃんは絶え間なく岩をぽいぽいと投げていく。いつ見ても気持ちのよい投げっぷりだ。

 数分で大きな岩はすべて道の端に避けられた。


「エルさん、あとお願いします」

「はいよー」


 エル兄さまは風魔法で残りの小さな石を道の端に寄せ、土魔法で地面のでこぼこをきれいにした。


「リーンちゃん、ありがとう。お疲れさま」


 空のコップに水魔法で冷たい水を入れて渡した。今、私にできることはこれくらいしかない。


「ありがとー。体を動かしてすっきりしたよ。馬車の旅って思った以上にしんどいね」

「そうだね」


 確かに座りっぱなしは疲れる。

 リーンちゃんは岩をどける前よりも元気そうだ。

 

 再び馬車にゆられ、三時間ほど経ったところで馬車を止め休憩することになった。広い草原にシートを広げ、行者さんも一緒に座って休む。


「ここには二十六年前までは山があったんですよ。勇者と魔王の戦いで山は吹き飛び、更地になり、今の草原になったんです」


「うわぁ……さすがだねぇ。ほんと半端ないわ、あの人」

「おじさま手加減を知らないもんね……私も人のことは言えないけど」

「ふふっ。そうだね」



 風がそよそよと気持ちがよく、草花も風に揺れている。


 父さま達、今はどこで何をしているのかな。周りに迷惑をかけていないと良いけど、それは無理だろうな。

 遠い異国を旅する両親に思いを馳せた。


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