(番外編3)領主は癒されたい
エルから残念すぎる報告が届いた。
アリアが闘技場のイベントとやらで素顔を曝してしまったそうだ。
なんてことだ。今ごろ大勢の男どもに言い寄られているに違いない。
心配で仕事が手につかない。いっそのこと私も東に行くか? いや、そんなの無理に決まっているが。
しかもアリアが一人の男と特に仲良くしていると言う。どこの馬の骨だと尋ねたら、東の領主家の男だと言うではないか。
エル曰く、穏やかで優しく非の打ちどころのない男だそうだ。しかも容姿端麗ときた。
エルは、アリアの幸せが一番だといって見守っているそうだ。それはもちろんそうなのだが、納得はできない。
まだ俺達だけのかわいい妹でいてほしい。切実に。
だめだ。仕事が手につかない。かわいい妹が目の届かないところで他の男と親しくしているだなんて、そんなのつらすぎる。
「はぁ……癒しが足りない……」
圧倒的に癒しが足りない。心に潤いが欲しい。
『なんじゃ? 癒してほしいならワシをかわいがるか? ホレホレ』
どこからともなく白狼様が出てきた。
「……白狼様、今までどこに行っていたんですか?」
木を運ぶよう言いつけたはずなのに。
『え?……いや、その、目の前を蝶々がな……』
「頼んでいたことが一つも終わっていないようですが?」
『まぁ、そうカリカリせんと。ホレ、ワシに癒されるがいいぞ。可愛いじゃろう』
そう言って、バカ犬はその場にごろんと仰向けになった。
ビキッ
ビキビキビキッ
また魔力が暴走し、地割れを増やしてしまった。
父母譲りの魔力の多さは復興に役立っているが、冷静さをを欠くとどうしても漏れでてしまう。
領主たるものいつでも冷静沈着でいなくてはいけないのに。
それもこれも、このバカ犬のせいだ。
復興作業は困難をきわめていたが、少しずつ確実に進んでいる。
毎日現場に顔を出し、騎士団員や冒険者達と交流し、うまくやれていると思うが、最近少し困っていることがある。
「ライアン様ぁ、お疲れさまですぅ。その荷物お運びしますねぇ」
「今何かご用はありませんか? 肩もみでもなんでも言い付けください!」
「私さっきまであそこの修復してたんですよ。すごくきれいになったので見てください!」
何だか女性達の距離感が近くなり、ギラギラとした目で私と接してくることが多くなった。
正直すごく疲れる。
私もそろそろ身を固めなければいけないと思っているが、今はそれどころではない。
* * * * * * *
黒龍を討伐しに東へ行っていたという両親が、二年ぶりに北聖領へ帰ってきた。
白狼様がやらかした件を報告した時に、すぐ帰ってこようかと言っていたが、父が役に立つとは思っていなかったので断っていた。
今回は近くまで来ていたので、せっかくだからと寄ったそうだ。
おそらく無理だと思いつつ、あまりにも作業が進まないので、ダメ元で父にダンジョン入り口の瓦礫を消せないか頼んでみた。
結果はといえば、散々だった。手前の岩は消し去ったが、奥を破壊し新たに崩落した。
ダメだ、父にこれ以上何もさせてはいけない。
「……すまん」
「いえ、端から期待はしていませんでしたので」
そう、最初から少しも期待してはいけなかった。
父は手持ち無沙汰にしていたので、さっさとまた母と二人で旅に出て行ってもらった。
……はあ、癒しが欲しい。切実に欲しい。
復興作業まだまだ続く。