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父と母

「アリア、久しぶりだな」


 久しぶりの父さまだ。嬉しくてしょうがない。

 父さまも嬉しそうだ。いつも基本的に無表情だが、口角が少しだけ上がった。


「アリア、元気にしてた? 会えて嬉しいわ」


 白いローブの人物がフードを外し、穏やかな緑色の瞳で私に微笑みかけた。


「母さま!」


 私は母さまにも抱きついた。


「もしかして、ラドクリフさんの言っていた対策って、父さまと母さまのことですか?」


「そうよ。ラドから黒龍が出現したからとにかく来てくれって頼まれたの。さっきここに着いた時、西の空の方に穢れた気を感じたわ。あそこに瘴気溜まりがありそうね」


「ルナマリアさん、さすがですね。今、風魔法の使い手から発見の報告を聞いたばかりでしたよ。そしておそらく、今日中に一体襲来すると思われます」


 ラドクリフさんは、アルトさんからの報告内容を話した。


「……何か残すか?」


 説明を聞き終えた父さまが、言葉足らずに言う。

 いつものことなので、慣れているラドクリフさんはすぐに解釈し答えた。


「黒龍の鱗は残してください。魔石は穢れているので焼き尽くしていいです。山や町に被害は出さないでくださいね。絶対ですよ」

「……努力する。来るまで出掛けてきて良いか?」

「どこにも行かないでください。ちゃんとここで待っていてくださいね。絶対ですよ、ぜっ、たい!」


 ラドクリフさんは念押しする。放浪癖のある父さまは、気づくとすぐに居なくなり遠くの町まで行っていたりするのだ。

 黒龍が来たときに不在だったらさすがに困る。


「……わかった」

「私がちゃんと見ているから大丈夫よ」


 母さまが見ていてくれるなら大丈夫だろう。多分。


 エル兄さまとダリウスさんも後から来て、皆でギルド長の部屋でしばらく待機することになった。


「うわーすごい。本物の聖女様と勇者様だよー! 感動ー!」


 カイルさんは興奮している。


「はしゃぐんじゃないわよ。恥ずかしいわね」

「うふふ、あなた達はいつもアリアと仲よくしてくれているみたいね。ありがとう」


 待っている間、カイルさん達は魔王討伐の話を母さまから聞いていた。父さまは部屋の中をうろうろする。早く外に出たくて仕方ないようだ。


 二時間ほど過ごした後、母さまが言った。


「来るわね。西から近づいてくる大きな気配を感じるわ」

「それでは、最初の黒龍を討伐した場所へ急ぎましょう」


 最初の討伐メンバーと父さま母さまとで、草原へと移動した。



「あの、ほんとに俺らここでいいんですか?」

「この人の近くにいたら危ないのよ。離れたところで見ていましょうね」


 母さまにそう言われて、カイルさん含めた数人が怪訝そうな表情をしたが、言われるがまま従った。



 草原の真ん中で父さま一人が立ち、黒龍を待つ。


「皆、SSS級の戦いをしっかり目に焼き付けるんだよ。まぁ参考にはならないだろうけど」


 ラドクリフさんが言った。参考にならないのは間違いないだろう。


 しばらく待つと、西の空の遠くに、黒龍の姿を確認した。


「来ましたよ! ちゃんと加減してくださいね!」


 ラドクリフさんが父さまに向かって叫んだ。そして一歩前に出て、いつでも土の壁を出現させられるよう備えている。


 父さまはすっと右手を出し、掌から小さな青い炎を出す。

 大きさはそのままに魔力を練り上げていく。どこまでも魔力を吸い込んだ青い炎は、渦を巻きながら球体になる。


 黒龍が頭上二十メートル程のところに迫ったところで、父さまは黒龍の口の中を目掛けて炎の玉を放った。


 ジュッッ


 炎が口の中に入り、次の瞬間にはバラバラと鱗と灰が降ってきた。


「「「「は?」」」」


 黒龍は鱗だけ形を残し、その他は全て消滅した。

 あまりの呆気なさに、カイルさんとルルさん、アルトさん、ダリウスさんが気の抜けた声を出した。


 私とエル兄さま、ラドクリフさんは慣れたことなので特に驚きはしない。


 皆で父さまの元へと駆け寄った。


「……すまん。鱗半分は灰になった」


 父さまが申し訳なさそうに言う。青い瞳を細め、眉がほんの少しだけ下がった。


「いえ、想定内なので大丈夫です。むしろこれだけ残るとは思いませんでした。数枚残ればいい方だと思っていましたので」


 ラドクリフさんがそう答えると、父さまの目尻はほんの少しだけ下がった。ホッとしたようだ。


「周りへの被害ゼロだよー。父さんやったねぇ」

「うふふ、そうね。久しぶりね」


 本当に、周りに被害なく討伐してくれてよかった。いつもは散々だから。



「規格外にも程があるわね」


 ルルさんが小さく呟いた。



「それじゃ、私は上空の瘴気溜まりを浄化してくるわね。えっと、アルトさんだったかしら?

  連れていってもらえるかしら」

「分かりました。では、行きましょうか」


 アルトさんが母さまに手を差し出し、二人は西の空へと向かった。


 私達は鱗を回収し、先にギルドへと戻った。


 母さま達を待っている間、カイルさんたちは父さまに詰めよっていろいろ話を聞いていた。

 口下手で言葉足らずな父さまの話はラドクリフさんによって通訳されていった。


 そして、一時間程すると母さまとアルトさんが戻ってきた。



「ただいま。全部きれいに消してきたからもう大丈夫よ」

「俺もこの目で消滅を確認しました」


「ルナマリアさん、ありがとうございました。アルトくんもありがとう」


 ラドクリフさんが頭を下げた。


「どういたしまして。それにしても、あんなに気持ちよく空を飛んだのは初めてで楽しかったわ。ふふ」


 母さまは空の旅を満喫したようだ。


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