隠しごと
「サラ!」
「サラちゃん!」
後ろの方でじっと見守っていたレオナルドさん達がサラさんに駆け寄り、涙を浮かべてサラさんの無事を喜んだ。
アルトさんも一歩下がったところでほっとした表情を浮かべている。そしてその後、黙ったままこちらを見ていた。
「何とかなってよかったねぇ」
エル兄さまが小さく呟いた。
レオナルドさんは、しばらくサラさんを抱きしめた後、立ち上がり、私達の方へ向き直った。
「サラを助けてくれて本当にありがとう。君達がいなかったら命はなかっただろう。できれば、先程の白い獣や君達のことを教えてもらいたいのだが……君達は一体何者なんだ?」
レオナルドさん達の顔からは、喜びとともに困惑の感情が伺えた。
私とエル兄さまは顔を見合わせた。
「うーん……隠しててもしょうがないしねぇ」
エル兄さまは困った笑顔を浮かべ、すぐに真剣な表情でレオナルドさんに向き合う。
「私は北聖領主ライアンの弟、エルナンド・ノースフィルと申します。素性を隠していたこと、深くお詫び申し上げます。先程の白き獣は北聖山の聖獣・白狼様です」
「……っっ!! まさか北の領主家の方だったとは。それに聖獣様とは……そのような御方に助けていただけたなんて、感謝しきれません。では、聖獣様を呼び出したように見えたそちらの少年は一体……?」
レオナルドさんは私の方をじっと見つめる。
「兄さま、いいですよね?」
「うん、さすがに領主家の人達を欺くのはダメだよねぇ。いいよー」
エル兄さまの許可を得て、私は髪をほどいた。髪は黒色から白金色へと戻る。
ゴーグルを外し、ローブで隠していた口元を出す。そして首の魔道具を外した。
アルトさん達は驚きの表情で固まっている。
「北聖領主の妹、アリア・ノースフィルと申します。姿を偽り、申し訳ありませんでした」
深く頭を下げる。
「……驚いた。しかしその姿では無理もない」
「えぇ、本当に驚いたわ。あなた、昔教会で見た聖女様にそっくりだもの。……そうだわ、ご挨拶をさせてもらっていなかったわね。わたくしはレオナルドの母のクリスティーナよ。アリアさん、サラちゃんを助けてくれてありがとう」
銀髪の女性は領主婦人だった。
「私は領主のサイラスだ。君達には本当に感謝するよ」
レオナルドさんと同じ焦げ茶色の髪の男性が頭を下げた。こちらは領主様だったようだ。
私と兄さまは領主様達としばらくお話をした。
その間、アルトさんは後ろの方で固まったまま動かなかった。
「……あの、待っている人がいるのでそろそろ帰らせていただいてもよろしいでしょうか?」
リーンちゃんには何も話していないので、心配してご飯を食べずに帰りを待っているかも知れない。
「ああ、すまない。後日きちんとお礼をしに行かせてもらうよ。アル、家まで送って行ってくれ」
固まっていたアルトさんはレオナルドさんに声をかけられ、はっとなり動きだした。
「えっ? あっ、はい。分かりました」
「リーン心配してるだろうから、オレは先に帰るねー。それでは失礼いたします」
そう言うとすぐに、エル兄さまが姿を消した。
「……すごいな。まさか転移魔法の使い手が本当に存在したとは」
レオナルドさんは感心している。
転移魔法の使い手は数百年前に存在していたと言われる幻の存在だ。
「えっと、それじゃ送っていくよ」
「はい、よろしくお願いします」
アルトさんに声をかけられ、私は手に持っていた魔道具をポケットに入れた。
他の方々に挨拶をすませ、アルトさんと歩いて屋敷を出た。
歩きだしてから、アルトさんはずっと黙ったままだ。無理もない。
「あの、今まで隠していてごめんなさい。アルトさんは女の人が苦手でしたよね。私は一人で帰りますので、ここで失礼します」
頭を下げ、フードを被って歩きだそうとすると、アルトさんに腕を掴まれた。
「ちょっと待って! ごめん、びっくりしただけだから。しつこく言い寄ってくる女性が苦手ってだけで、君は大丈夫だよ。……じゃあ、行こうか」
そう言って、手を差しのべてくれた。
「……よかったです。もう一緒に依頼を受けてもらえなかったら寂しいなって思っていました」
私はアルトさんの手をとった。
「それはないよ。これからもよろしく」
「はい、こちらこそ」
すっかり暗くなり、三日月が浮かぶ空へと飛び立った。




