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黒炎の呪い

 

 憎い


 その笑顔は僕のものだったのに

 君の全ては僕だけのものだったのに


 どうして どうして どうして


 こんなに愛しているのに

 愛し合っていると思っていたのに

 どうして僕を拒絶するんだ


 愛する気持ちを塗りつぶすように憎しみが溢れてくる


 許さない


 僕以外を愛するなんて、そんなこと許せるはずがない


 手に入らないのなら、いっそのこと──……




 

  * * * * * * *



 


 店にセバスチャンさんと次期領主のレオナルドさんが来た。

 仕方がないので、応接室でオレが対応する。本当は部屋の隅に行きたいけど我慢だ。


「この間は私の婚約者を助けてくださったそうですね。本当に感謝しています。少しですがお礼の品を受け取っていただけますか」


 レオナルドさんがそう言うと、セバスチャンさんがオレに箱を差し出した。箱を開けて中を見ると、希少な鉱石が入っていた。


 わー、すっごいのいっぱいだ。太っ腹だなぁ。


「ありがたく頂戴いたします」


 オレは一切躊躇うことなく受け取った。断る理由なんてない。


 レオナルドさんはお礼とともに、魔道具の制作依頼をしに来たらしいので、内容を確認する。


「A級までの攻撃と呪いを防げる魔道具ですねぇ。作れますよー。回数制限有りの使いきりになりますが」


 魔道具の形や付加機能などは話し合って決めていく。


「それでは、制作よろしく頼みます」

「了解しましたぁ」


 話がまとまり、レオナルドさん達は領主の屋敷へと帰って行った。


「……あー、疲れたぁ」

『キュー』


 両手を出すと、頭の上にいた小福ちゃんがぴょんと手の上におりてきた。


 人と話すって、ほんと疲れる。だけど頑張らないと。

 オレの力が皆の役に立つのだから。






  * * * * * * *






 兄さんは先ほど帰宅したようで、居間で紅茶を飲んで休憩していた。


「兄さん、魔道具の依頼はどうでしたか?」

「ああ、無理を承知で頼んでみたのだが作れるそうだ。それに一日で完成させられるそうだよ。明日の夕方にセバスに取りに行って貰うことになった。さすがS級だよ」


 さっき依頼しに行ったのに、明日には仕上がっているなんて。フィル君のお兄さんは本当にすごいんだな。


「そうですか。では明後日からは安心して過ごしてもらえますね」

「ああ。彼は取り乱すことが増えてきたそうだから、サラも怖い思いをしているしね。アルトには面倒をかけてすまないが、明日もサラの送り迎えを頼めるか?」

「もちろんです」


 その程度のことなら喜んでしよう。



 


  * * *





「アルト君お待たせ。今日もありがとう」

「いえ。では帰りましょうか」


 サラさんの勤務が終わったので、領主の屋敷へと一緒に帰る。一ヶ月前からサラさんは領主の屋敷で一緒に暮らしている。

 兄とサラさんの結婚式まで、あと二週間。何事もなく無事に過ごしてもらえるよう努めるのが俺の役目だ。



 屋敷に着くと、居間で家族が集まっていた。


「ただいま。あれ、それもしかして例の魔道具ですか?」


 母さんと父さんは、それぞれ一つずつ腕輪形の魔道具を手に持っていた。


「そうよ。こんな魔道具がすぐに作れちゃうなんてね。本当に凄いわ」

「これで安心できるね、サラさん」


 そう言って、二人は兄さんに魔道具を手渡した。


「サラ、これが君を守ってくれるはずだ」


 兄さんがサラさんの両腕に魔道具を装着する。


「ありがとう、レオ」


 良かった。これで安心して過ごしてもらえる。

 ナルジャスがもしサラさんに危害を加えようとしても、魔道具が守ってくれるはずだから。




  * * * * * * *



 

 結婚式まで、あと一週間。

 私は三日前にギルドを退職した。

 仕事を続けてもいいとレオは言ってくれたけれど、領主の妻となるのだからと、きちんとけじめをつけた。近くで夫をしっかりと支えていきたいから。


 ナルジャスさんは未だにしつこく付きまとってくる。

 友人と歩いている時に腕を掴まれ、取り乱した彼の手から火が出たこともあったけれど、魔道具のおかげで怪我をすることは無かった。

 こんなにすごいものを私の為に用意してくれて、レオには本当に感謝している。



 

 夕食後、自室で寛いでいると、急に窓が燃え溶け落ちていった。


 そしてすぐに窓から一人の男が部屋に入ってきた。


「ナルジャスさん……」 

「サラちゃん、君が悪いんだよ」


 不気味な笑みを浮かべながらそう言うと、彼は呪詛の込もった黒い火魔法を放った。

 だけど私には届かない。魔道具がバリアを発動させ、呪詛を消し去った。


 ナルジャスさんの顔は悲愴に歪んだ。

 

「そうか……届かないんだ……僕の全てを捧げないと、もう届かないんだね」


 彼は懐からナイフを取り出し、自身の心臓を刺した。


「ひっっ!?」


 恐怖で体が硬直する。逃げなければいけないのに動けない。声も出ない。


 胸に刺さったナイフからは血が滴り落ちる。

 血は床に落ちる前に黒い炎へと姿を変えていき、渦を巻く。



「ずっと一緒だよ」


 ナルジャスさんは微笑み、愛を囁くようにそっと言葉を放った。


 そして私の腕は、黒い呪詛の炎に包まれた。


 



  * * * * * * *


 



 ギルドでの依頼を終えて帰路についた時には、もう外は真っ暗になっていた。


 お腹が空いたなぁ。遅くなるから、先に夕食を済ませていてほしいと通信魔道具で連絡はしたけど、多分待っていてくれていると思う。


 早く帰らないと。今日のご飯は何かなぁと考えていると、ふと頭上に気配を感じ、見上げた。

 そこには急いだ様子でこちらに向かってくるアルトさんの姿があった。


「見つけた! フィル君、説明は後でするから今すぐ一緒に来てくれないかな? サラさんを助けて欲しいんだ」


 アルトさんは私服姿で、ローブも身につけていない。すごく急いで来たようだ。


「サラさんですか!? 分かりました! 連れて行ってください」


 差し出された手を取り、すぐに飛び立った。

 話によると、どうやらサラさんが火の呪いに侵されているようだ。


 領主の屋敷に到着すると、サラさんのいる部屋へと急いだ。


 部屋の扉の前にはセバスチャンさんが立っていて、部屋に入ると中にはベッドに横たわったサラさん、レオナルドさん、見知らぬ男性と女性がいた。



「なに、これ……」


「この腕の呪印を凍らせて欲しいんだ!」


 ベッドで苦しそうに横たわるサラさんの腕には、黒い炎の呪印が巻き付いていた。ここまで強力な呪いは見たことがない。


 とにかくどうにかしないと。私はサラさんの腕に手をかざし凍らせていく。だけどすぐに溶けていってしまう。

 もっと魔力を注がないと。集中し、魔力を最大限まで込めた高密度の氷を何層にも重ねていく。

 やっとのことで何とか炎を封じ込めた。


「一旦封じ込めましたが、三十分程度しか持たないと思います。魔力を半分使ってしまったので、あと一回しか封じ込めません。これはS級かそれ以上の呪いですね。何があったんですか?」


「サラさんの部屋から異様な気配を感じて様子を見に行ったら、サラさんとナルジャスが倒れてたんだ。ナルジャスの心臓にはナイフが刺さっていて、すでに死んでいたよ」


「……自分の命を使って、より強力な呪いを発動させたのですね」


 ナルジャスさんはA級だから、S級かそれ以上の呪いになってしまったんだ。


 私はすぐに通信の魔道具を発動させた。


「エル兄さま、私は今、領主様の屋敷にいます。サラさんを助けてもらえませんか」

「なになにー? よくわかんないけど、すぐ行くねー」


 そう言ってすぐさま床に転移陣が現れ、エル兄さまが転移してきた。



「「「「!?」」」」


 急に人が現れ、アルトさん達は驚き、目を見開いた。



「兄さま! この呪い浄化できますか?」

「えっ!? なにコレ? ヤバいよ。いけるかなぁ……」


 エル兄さまは手をかざし、聖魔法を注いだ。白い光に包まれた呪印は少し薄くなっていくが、すぐに元に戻っていった。


「あー……コレは母さんぐらいしか無理じゃない? でも連れてくることはできないし……うーん、どうしよ…………よし、とにかく何か方法が無いか聞いてくるねー」


 再び転移陣を発動させ、エル兄さまは消えた。


「君の兄さんは一体……」


 アルトさんが小さく呟く。


「説明は後でさせてください。兄さまは今、浄化する方法を探しに行ってくれています」

「……分かった」



 二分ほど経ち、エル兄さまが戻って来た。


「母さんがねー、白さんに頼んだら何とかなるかもって」

「白さまですね! 呼んでみます」


 私はポケットから宝珠を取り出し、両手でぎゅっと握りしめる。


 白さま! お願いします。来てください!


 心の中で呼び掛けるとすぐに宝珠が光輝き、光とともに白さまが現れた。


『呼んだかのー』

「白さま! 来てくれてありがとうございます。この呪いを浄化してもらえませんか?」

『……これはまた禍々しい呪いじゃのう。うーん、そいやーー』


 立ち上がり、前足を掲げた白さまから光が溢れてくる。サラさんの腕へとキラキラと光の雨が降り注ぐ。

 光が収まったころには、呪印は完全に消え去っていた。

 意識は無いようだが、サラさんの表情が和らいだ。



『これで大丈夫じゃよ』

「良かった……白さま、ありがとう」


 頬擦りしてくる白さまにぎゅっと抱きつく。ほっとしたら涙が溢れてきた。


『なかなか力を使ったからのう、これ以上はここに留まれそうにない。またのぅ』


 そう言うと、白さまは帰っていった。


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