SS6 ぬし様と林檎の木を探した日②
「ぬし様!第一容疑者発見です!」
「分かっておる!犯人は奴らか!?」
怒髪天を衝く状態のぬし様は、最早目に入る生き物全てを殲滅する勢いだ。
お陰でさっきから生き物を発見する度に
「待って下さいぬし様!あれはウサギです。木を運べるハズがありません。今日のお昼ご飯にしましょう」
「お待ち下さいぬし様!あれはイノシシです。木を運べるハズがありません。今日の晩ご飯にしましょう」
「どうかお待ち下さいぬし様!あれはクマです。体格的に木を運べるかもしれませんが、そんな知能はないです。明日のご飯にしましょう」
などなど、食べれない状態になるまで粉砕されるのを防ぐため、なだめてきたのだ。
大猟になってしまったので、クマはその場でぬし様が食べてしまった。
さて、それはともかく容疑者が見つかってしまったのだ。
体格も良く、知能もある。そんな生き物と遭遇してしまったのだ。
その生き物とは、2度目の登場、ゴリラである。
またお会いしましたね。お元気でしたか?
とでも言って和やかに接触を図るか…。
無用な殺生はもう結構なのだ。
どさり、と重い音を立て、背負っていたイノシシを地面に降ろしたぬし様は、既にいつでも飛びかかれる体勢だ。
「ぬし様、まずは私が話をします」
すっ、と一歩前に出る私。
だが、私が言葉を発する前に、向こうから話しかけてきた。
「雌発見〜!!」
違った、言葉を発しているが、これは私に向けての言葉じゃない。
仲間に向けての言葉だ。
ウホウホと興奮した声をあげ、胸をドコドコとドラミング。
あ〜あ、もう手が付けられないよ。
交渉不可能と、肩を落とす私の前に、ぞろぞろとゴリラが集まってきた。
「ウホッ、雌だ雌!」
「薄い身体してるな、俺はもっと爆裂ボディの方が好みだぜ」
「じゃあ俺があの金髪の方をもらうウホ」
「ふざけるな!あれは俺のものウホ」
「ウホ、ウッホ、ウホホ(興奮しすぎて解読不能)」
口々に好き勝手言うゴリラ達。
アナタ達、おふざけがすぎるのではなくて?
なんで私には誰も手を出そうとしない…ではなく、ぬし様に手を出そうとはいい度胸だ!
「ぬし様、あのケダモノ達は会話不可能ですし、食べる気にもなりません。
犯人じゃない可能性が高いですが、ぬし様に対し無礼な事を言っています。
手討ちにして下さい」
「わかったのじゃ、消えうせろ!!」
放たれた砲弾の如く、ゴリラの群に突撃するぬし様。
木を傷つけると樫王に怒られるという事を学習したぬし様は、ゴリラの懐に飛び込むと、全身のバネを使い一気に上方へと拳を突き上げた。
空を舞うゴリラ。
そのまま垂直に落下し、地面に頭を埋めるゴリラ。
あれは助からないだろうなぁ。
私が手を合わせて、黙祷を捧げている間にも、ぬし様は次々とゴリラを叩きのめしていた。
踵を脳天にくらった者、後ろから掴まれ後方へと叩き落され、地面に頭を埋める者、もうぬし様の一方的な殺戮場と化している。
ようやく勝ち目のない事を悟ったゴリラが、這う這うの体で逃げ出した。
後で仲間を回収してあげてね。
一仕事終えたぬし様は、どっこらしょとイノシシを背負いなおした。
「行くぞ実音!木はどっちじゃ!」
「あっちです」
即座に答える私。
ぬし様が攻撃の威力を抑えてくれたお陰で、痕跡は残っていた。
まだまだ、林檎の木が生えていた場所から続く、この不思議な足跡の追跡は可能だった。
あれから結構歩いたが、まだ林檎の木は見つからない。
戦闘の興奮が収まり、ぬし様は気が落ち込んでしまったようだ。
なんだか足取りも、とぼとぼと言った感じだ。
これはいけない。
「ぬし様、大丈夫です、見つかりますよ!
元気出していきましょう」
「じゃがの実音。これだけ時間が経ってしまったのじゃ…。
妾の林檎、もう食べられてしまったのではないかの…」
瞳一杯に涙を溜めたぬし様。
泣かないで、大丈夫、大丈夫ですぬし様!
仮にダメだった場合でも、私が樫王と交渉して大丈夫にしますから。
何とかぬし様を励ます。
抱きしめたり、頬を寄せ合ったり、とにかく色々な手段を試してみる。
「わかった、とにかく犯人を見つけ出して八つ裂きにしてやるのじゃ」
物騒な言葉だが、ぬし様が元気になって良かった。
よし、ここからは手をつなぎながら歩こう。
さて、ぬし様の言うとおり、林檎の木がもう無事ではない可能性もあるため、樫王にもう一本もらえないか念話で交渉してみる。
『樫王、聞こえる?』
『おぉ、実音か。聞こえるぞ』
よしよし、樫王とは念話ができるようだ。
葵とか、その辺の魚人とかは念話が通じなかった。力の強い個体でないと念話が通じないようなのだ。
『ぬし様の林檎の木が消えてしまったの。
今捜索中なんだけど、もう木は無事じゃないかもしれない。
もしもダメだった時、代わりの木を用意してもらえる?』
これでダメって言われたらどうやって交渉しよう。
でもな〜、ここで私が頑張らないと、最悪の場合、森が全焼する未来も有り得る。
どう、樫王?できるって言って。
いえ、むしろ言いなさい。
森の平和のために!
『林檎の木なら、屋敷の近くに移動したぞ』
樫王の言葉に、腰が砕けた私。
ぬし様と手をつないでいて良かった!
その後、急いで屋敷に戻ってきた私達は、屋敷のすぐ前に移動してきた林檎の木を見つけた。
早速林檎を齧ってご満悦のぬし様。
私は樫王に抗議をするのだった。
「樫王、せめて移動する前に教えてよ」
「すまんの、夜の内に移動して、早朝に知らせれば良いと思ったのじゃが。
良かれと思ってやった事が、まさか悲しませる事になるとはのう」
人生、予想のできない事だらけじゃと身体をしならせながら言う樫王。
ちょっと、怖い怖い。その身体、あんまり曲がらないでしょ?
胴体の関節少ないでしょ?
無理はしないで。
「このお詫びに、何か別の木を持ってこようかのう」
「だったら、蜜柑の木にして!」
これから寒くなるし、冬といったらコタツで蜜柑だ。
蜜柑が手に入るなら喜んで許そう。
「わかった、良い木を探しておく」
そう答えてくれた樫王を信じる事にする。
ぬし様、今日苦労した分、楽しい冬が過ごせそうですよ!
明日は投稿が遅くなりそうです。




