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14 いざエルフ村⑤

「よいな、皆の者。この者、実音殿は本日只今を持って、我々の友人となった。

 決して失礼のないように。

 粗相などしようものなら打ち首に処す。

 我々、一人一人の行いが、我ら種族の存亡に関わっているのだ。良いな!」

 そう言って村人を見回すエルフ村の村長。


 そして、ちらっと私とぬし様に視線を向ける。

 うん、まあビシッと決まったと思います。ただ独創性が足りない。70点。


 村人の方は、と見てみると、流石にこの状況で調子に乗った発言をする者もいないようで、皆神妙にしている。

 口は災いの元とも言うし、そうやって黙っていれば間違いは起きないだろうね。


「では、今後の我々の友好が末永く続く事を願って、乾杯」

「乾杯!」

 と言って、一斉に杯を空ける一同。

 エルフ達は、木製のジョッキに注がれた葡萄酒を飲む。

 私達は、残念ながら葡萄ジュースだ。

 私は未成年だし、ぬし様は、万が一酒乱の気とかあったら危ないしね。


 そのまま飲み食いしながら交流という流れになった。

 と言っても、恐れ多くもぬし様に語りかけるものなど、村長をはじめ極少数。

 他のもの、おおよそ250名近くは遠巻きに眺めてくるのみ。

 私は同時通訳兼、鳥の丸焼き作成係として大忙しだった。




 あれから村に入った後、歓迎会をしてくれると村長が言ったので私としては大喜びだったのだが、ひとつ心配毎があった。

「あの、ぬし様はお肉しか食べないようなのですが、エルフ村にお肉はありますか?」

 その後の村長の顔と言ったらなかった。

 タイトル『この世の終わり』と名付けた肖像画にできる表情だった。

 今から狩猟に行くか、狩猟に行くとしてぬし様を満足させられる大きさの獲物を、どうやって村まで運んできたものか…。緊急会議が開かれた程だった。

 そこに紫蘭がひとこと。

「あの、鶏舎の鳥、もうすぐ寿命でしたよね」


 あの時の会議出席者の様子も凄かった。

 タイトル『天啓』と名付けた絵画にできる光景だった。


 それにしても紫蘭の空気の読めなさっぷり、いや、空気に流されない性格は凄い。

 再度、評価を上方修正してもいいかもしれない。

 まだまだマイナス方向だけれども。


 それはさておき、エルフ村では鳥を飼育していて、羽は衣類や寝具に利用。

 卵はエルフ達は食べないものの、周辺の多種族との交易に使ったりするそうだ。

 もちろん、歳を取り卵を産めなくなった個体も交易に使われる。


 鳥、と言うから鶏サイズを想像していたのだが、実物を見てビックリした。

 ダチョウ、というより人間に近いサイズをしていた。

 背中に乗る事もできるそうだ。

 その鳥の名は陸ハーピー(・・・・)と呼ばれていた。

 うん、何と言うかダチョウと同じように、飛ぶ能力が退化して、代わりに走る能力が強化されたハーピーだった。

 ふ〜ん、食べるんだコレを。そっか〜、まあぬし様が食べるんだしな〜。ははは〜。


 何とも言えない抵抗感を感じていると、ぬし様からのリクエストが入った。

「実音、道中話に聞いた丸焼きにできるかコレ?

 生で食べるよりおいしいかもしれないし、作ってくれんかのう?」

 しまった、余計な知識を与えてしまっていたぁ!

 数時間前の迂闊な自分に文句を言いたい。

 お前、調子に乗って料理の話をぺらっぺらと話していたけど、結局それ作るのお前だからな!と。

 えぇえぇ〜、料理するの?コレを?


 助けを求めて、葵や紫蘭達を見る。

「私達に、肉類の調理は、ムリです」

 断られてしまった。

 いや、ここは頑張ってよ。ぬし様の高感度上げるチャンスだよ?

「ムリなものは、ムリなんです。不可能なんです」

 仕方がない。意思は固いようだ。


 調理のために、とエルフから刃物を借りた。

 包丁もそうだし、鉈も借りた。

 鉈を手にして、陸ハーピーを見る。

 調理する?今から、(なた)で、陸ハーピー(あの子)を解体して?

 私にだって出来るワケがない。


 せめて、あれが鶏とか、豚とか、牛だったら私だって覚悟を決める事ができたさ。

 でも何だよ陸ハーピーって。ほとんど人間みたいなものじゃん。

 そんなのいきなり調理しろだなんて…。

 ぬし様を恨んでしまいそうになるが、それは違うと自分に言い聞かせる。

 この世界で生きていくには、何らかの生き物のお肉を頂く必要がある。

 それを自分の手で調理するか、人にお願いして調理してもらうかの違いだ。

 生きていくには、避ける事のできない道なのだ。


 頭の中で理屈を組み立てる。

 そうだ、やるしかないんだ。いつかは通る道なのだ。

 後は、実際に手を動かすだけなのだ。


 鉈をしっかり掴み、陸ハーピーを見る。


 いや、

 見てはいけなかった。


 目が合ってしまった。

 きれいな目をしている。

 その目に引き込まれる。


 体を動かす事ができない。


 どれくらいそうしていただろうか?

 ついには地面に膝を突き、顔を伏せてしまう。

 額から零れて床に落ちる汗。

 いつのまにこんなに汗が出ていたのだろう、気付かなかった。


「できない、できないよ。私、あなたを殺す事なんてできない…」

 とうとう、泣き言を言ってしまった。

 迷惑だろう、自分を殺す相手からこんな事を言われても。

 でも、甘えだ、弱さだと言われても、できないものはできないのだ。申し訳ないが、ぬし様に正直に言おう。

 その結果、この子はどうなるのだろう?

 ぬし様に生きたまま丸のみにされるのだろうか。

 それを残酷だ、などと言う事はできない。生きるとは、つまり誰かの命をもらうという事なのだから。

 そこまで分かっていても、私は、私には…。


「気にしないでいいよ。私、もうすぐ寿命だから」

 陸ハーピーに声をかけられてしまった。

「だって、寿命って言っても、まだ生きられるんでしょう?きっとまだやりたい事とかあるんじゃないの?」

 こんな会話をして、誰が得をすると言うのか?

 死ぬ覚悟の決まった相手の心を揺さぶるようなマネをして、どうしたいんだ私は。


「いいの、もう私、満足に走る事もできないんだ。

 この村から出て、行きていく事なんてできないの。

 このまま生きていても、段々衰えてやせ細っていくだけだし。

 だったら、この世界で最強のあの方に食べてもらって、あの方が大空を飛ぶ糧となるのも悪くないよ」

 強がっている?それとも達観しているのだろうか。私とは死生観が違うのか。


「でも…」

 言いかけて、口を閉じる。

 違う、彼女にかける言葉は否定の言葉ではなく、肯定の言葉だ。

「分かった、私もう迷わない。あなたの事、ぬし様が絶対忘れられないように、おいしく食べてもらえるように、全力を尽くすって誓う」

「うん、ありがとう。えへへ、あの方の一生の思い出になるのか〜、そっか〜」

 私の一生の思い出にもなるんだけど…とは思ったが口には出さない。

 今度こそ、覚悟は決まった。

 口を開くと、その覚悟が漏れてしまうから。だから後は目で語ろう。

「いくよ」

 と目で伝えると、

「いいよ」

 と目で返ってきた。


 鉈を握る手に力を込める。


 と、そこに空気を読めないエルフが、私の横にやってきた。

 弓を構えようとしたので止める。

「大丈夫、私がやる。

 もう、やれるよ」

 私の意志を伝える。


 紫蘭は、「それなら」と言い、昨日とは異なる精霊を呼び出した。

 精霊が陸ハーピーに向かって力を使うと、

「あぅ…」

 と声を漏らし、陸ハーピーが膝を突いた。


「眠りを誘う力を使いました。寝ている間なら、痛みを感じないでしょうから」

 紫蘭が説明してくれた。

 そうか、気遣わせてしまったか。


「あなたの、次の人生に、幸せが待っていますように」

 陸ハーピーが完全に意識を無くす前に祈りを捧げる。


 そして、私は鉈を上段に構えて、躊躇う事なく振り下ろした。

 苦痛は与えなかっただろう。




 その後、葵と紫蘭とその父親を使って羽をむしり、丸焼きに不要な部位を切り離したり、内臓の処理をしたりと、一昨日まで普通の女子高生として生きてきた私にはハードすぎる過程を経て、今に至る。


 炭を動かして火を調整しつつ、2m近くある巨大な串、いや杭に刺したお肉をくるくる回して、均一に火が通るようにする。

 最高の塩加減になるように、頑張った。

 事前に手羽を使って、ぬし様の味覚と好みの塩加減は調査済みだ。


 その結果はもちろん報われた。

「うまい!」

 と、ぬし様が最高の笑顔と共に言ってくれたのだ。


 陸ハーピー、私、約束守ったからね。


異世界にやってきて3日目でのハードな体験。

どうでしょうね、他の異世界転移の方と比べて早いのやら遅いのやら?

まあ、早い子は初日から経験していたりしますし…。

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