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13 いざエルフ村④

「もうすぐ村に着きます。まずは私が先に行って、事情を説明してきますね」

 と、紫蘭が振り返って声をかけてきた。

 やれやれようやくか。体感では2時間ちょいの行軍だったかな。


「そうねお願い」

 紫蘭の腕をガッチリ掴んだ状態で、葵の目を見ながらそう告げる。

 紫蘭は口下手。繰り返す、紫蘭は口下手。こう言う状況で送り出すのは危険すぎる。


「しっかり説明してね。この後の対応次第では、エルフ村は消滅する事になるんだから!」

 さらに釘を刺しておく。

「お任せください、必ずや説得してみせます!」

 覚悟の決まった目をして答える葵。

 そのまま、村に向かって駆け出していった。


「なんで私では駄目なんですか~?」

 不満の目でこっちを見てくる紫蘭。

 いやだってさ、妹相手の予行演習がアレだとね。不安。

「ほら、周囲の警戒をして。村の連中との交渉に失敗して、襲い掛かってくるかもしれないでしょ」

 とりあえず仕事を与えておく。

 まだ不満げな顔をしているが、木によじ登り始めたので、まあ良しとするか。


「ぬし様、向こうから攻撃してこない限り、こちらから攻撃しないで下さいね」

 ぬし様にも待てと告げる。

 第一印象は大事。エルフとは穏やかな関係を築きたいのだ。

「分かったのじゃ。じゃが、奴らから奇襲を受けた時、実音が危険じゃな。

 よし、(ちこ)う寄れ」

 と言ったぬし様に引き寄せられた。

 ぬし様の背中に隠された私を、さらに4枚の羽で隠してくれる。

 私の背中には木があるし、確かにこれなら初撃は防げそうだ。

 ぬし様の身長は私より低いので、視界も良好だ。

 いや、待てよ。この状態、最悪額を打ち抜かれるような…。



 警戒して待つ事しばし、村の方が騒がしくなり、3人がこちらに向かって走ってきた。

 もちろん1人は葵だが、あとの2人は何者かな?


 近づいてくるにつれ、格好がよく分かるようになってきた。

 紫蘭や葵と同じように茶褐色の肌。そして笹穂状の耳。

 エルフである事は間違いない。

 2人とも金の髪をしているので、金髪が多数派なのだろうか。

 銀髪、あるいは白髪という状態の紫蘭は少数派か。


 そういえば、今近くにいるエルフ4人、皆同じような服装をしているな。

 上半身は和服、あるいは道着等のように、襟を前で合わせる形で、腰の帯で留めている。

 丈はそんなに長くない。腰より少し低い程度か。

 袖は七分袖程度。模様は人それぞれのようだ。

 下半身はハーフパンツのようなものを穿いている。上着と同じ素材だろうな。

 あぁ、雰囲気としては甚兵衛そっくりなんだ。何か見覚えがあると思っていたが合点がいった。

 男の人が着ているのを見て、父さんの事が思い浮かんだよ。

 まあ、人によっては肩に切れ込みが入って動かしやすいようになっているし、色々個性があるようだ。

 一人だけ浴衣のように裾の長いものを着ている者がいる。帯も立派だ。偉いんだろうか?


 そうこう観察しているうちに、エルフ達が目の前までやってきた。

 そのままスライディング土下座という、無駄に洗練された、流れるような動きをみせる。

 只者ではなさそうだ。


「はは~、ぬし様、よくぞ、よくぞお越し下さいました。私がエルフ村の村長です」

 そう口を開いたのが、肩より少し長い髪を、一房後ろで束ねた状態にしている方のエルフ。

 なんだか時代劇の浪人のような髪型だ。

 この人だけ服装が着流し風だし、ますます浪人っぽい。

 髭があったら完璧だったのに。もったいない。

 武器は持ってないようだ。まあ、ぬし様相手に戦いになるワケがないし、賢い選択と言えよう。


(ワタクシ)が、貴方様に無礼を働いた、この愚かな娘の父で御座います。

 どうか、どうかお怒りをお沈め下され」

 力の限り地面に額を押付けているのが、こちらのエルフ。

 父、というとそれなりの歳なのだろうか。

 年齢を感じさせるものを見せ付けてくれているので、そんな事を考えてしまう。

 いや、あのね、土下座姿勢だと良く見えてしまうというか、見せ付けているのかと言うべきか?

 うん、正直見たくなかった。知りたくなかった。


 エルフも、歳を取るとハゲるんだね。


 頭頂部が砂漠化し、周囲に広がっている状態だ。

 前髪は既に全滅し、残る髪を精一杯伸ばしている感じが、更に物悲しさを誘う。

 うん、落ち武者みたい。


 名前を名乗ってくれないので、とりあえず浪人の1号、落ち武者の2号と呼ぶ事にする。


 とりあえず同時通訳者の如く、ぬし様に言葉を伝える。

 私の能力の事は葵から伝わっているようだ。

 1号、2号も特に驚いた様子はない。


 さて、次はぬし様からの言葉を伝える番だ。


「妾が来たのはそんな用事ではない。

 葵の事は、実音が許したので妾ももう怒ってはおらぬ」

 その言葉に、ほっとした雰囲気を出す土下座3人衆。

 続いての「面を上げよ」という言葉により、正座姿勢になる。

 そこですかさず、

「じゃがの」

 と言葉を伝える。

 1号と2号がビクッと震えた。何だろう、まるで悪人を追い詰める将軍様を見ている気分になってきた。ここがお白洲でないのが残念。


「聞くところによると、その方ら、ここにいる実音の事を殺害しようとしていたようじゃな?」

 切り込むぬし様。

「め、滅相も御座いません。誤解で御座います」

 躱そうとする1号。

「黙れい!」

 そうはさせじと一喝するぬし様。

 1号は威圧され、黙り込んでしまった。呼吸も忘れていそうだ。


「お主らの企み、既にそこにいる葵から聞きだしておる。

 言い逃れできるとは思わぬ事じゃ」

 獲物を捕らえ、今にも喉元に喰らい付かんとするぬし様。

 1号、呼吸、呼吸忘れてる。

 顔の色が何か青いどころか白くなってるよ!

 ほら、深呼吸しなさい、深呼吸。

 葵、死んだような目をしてないの。むしろあなたのお陰で、エルフとぬし様の全面戦争は回避されたし、私の命は助かるしで良い事尽くめだよ。胸を張りなさい。


「よいか、もしも実音の身に、お主らの手により傷でも付こうものなら…」

 そう言って睨みをきかせるぬし様。


 ゴクリ、と唾を飲む1号。額から大洪水が発生している2号。

 2人がぬし様の口から発せられる次の言葉を逃すまいと、全力で集中しているところに、最後の言葉を投下する。

「皆殺しにするからの」

 そう、最後通告だ。


「もちろん、致しません。皆に伝えます、緊急招集をかけて全員に通知致します。

 ですから、何とぞ、今後とも我らエルフと良好な関係を保って下さいませ」

 再び土下座する1号。2号なんか、額が地面に同化したかのような密着度を見せている。


「のう、実音。何なのじゃ、こやつら。なんでこんなに地面が好きなのじゃ?

 この前のトカゲ共もそうじゃったが、地上で暮らすと皆こうなるのかのう」

 土下座を全く意に介さないぬし様。

 う~ん、どう説明したものやら。

 敬意を示しているのをどう伝えたら分かってもらえるのやら。


 とりあえず、ぬし様の希望を酌み、エルフ達に告げる。

「ぬし様は土下座を好みません。話をする時は、相手の目を見て、はっきりと告げるように!」

 すると、エルフ達は皆ぽかんとし、どうすれば良いか分からないと言った状態になった。


 どうしよう、誰がこの空気を動かしてくれるんだろう、と困っていると腐っても村長。1号が「お」と声を出す。

 よしよし、流石は村長だ。人の上に立つだけはある、と感心すると、

「恐れ入りまして御座います」

 と言って土下座してしまった。

 もうね、体に染み付いてしまったものは仕方がないよね。

 こら、2号に葵、「ははぁ~」とか言って1号に続くんじゃない。ぬし様が呆れてしまったじゃないか。


 その後、ぎくしゃくしたやり取りを続けたものの、私達はエルフ村に立ち入る事を許可された。

 まあね、私の顔をエルフの皆に覚えさせないとね。

 知らなかったという言い訳は通じないんだし、間違いの起こりようのない対応をお願いしたい。


 さてエルフ村に移動、という所で、ふと思い出して上を見上げる。

 そこには完全に出るタイミングを逃し、困った顔で木の枝に正座している紫蘭がいた。

 本当に残念な奴だよ、君って奴は!

 と思いつつ、下に降りてくるように声をかける。

 すごく、ほっとした顔をしていた。

ぬし様の声(想像)に、松■健さんを当てるのはおやめ下さい。

偉ぶった子供みたいな声を想像して当てて下さいませ。なにとぞ、なにとぞ~。

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