第九話
私は、直ぐにひいばぁに聞いた話を橋本にも話した。橋本は例の゛セッちゃん゛が私の曾祖母だと知って驚いていたのが電話越しにも伝わってちょっと面白かった。
橋本はその話を、残りの二人にも伝えると言っていたから、私は唯には自分で話すから橋本は遠山に伝えてと言った。その方が早いし。
「って、事なの。だからもし唯の所に赤いビー玉があったら直ぐに連絡して。」
『うん、分かった。』
どうやら話したひいばぁと透子さんの話で泣いてしまったらしい。唯の声は涙声だった。
***
五日目、残り一日。
ビー玉があったという連絡も無いまま次の日になってしまった。勿論私の所にも無い。
「どこに在るの?赤いビー玉……。」
……六日目の夜で全員死んでしまうから早くビー玉を見つけ出して白い少女――透子さんに返してあげたいのに。
私は内心焦っていた。こういう時になって見つからないって……。
そのまま時間だけが過ぎて午後になったとき携帯電話が鳴った。相手は橋本。
「!……もしもし!見つかった!?」
『ああ!今、遠山から連絡があった。今から僕が行ってビー玉を預かって来るから。』
「分かった、集合場所は……」
『今から遠山の家に行って来るとなると……三時に丘公園入り口に!』
「了解!」
電話を切って時計を見る。二時ちょっと過ぎ。
「……これで終わりにする……っ!」
この後、考えていなかった、考えたくないとこが起こるとは思わなかった。
***
side遠山登
昨日、部長から岡村の曾祖母の話を聞いて俺は舞い上がった。
翔に続き陽太、渡辺そして昨日のニュースでの大城さんの訃報。もう、駄目だと思った。外に出たら直ぐに死んでしまうと……。だから引きこもった。家の中なら大丈夫だと考えたからだ。
そして、二時になろうとした時だった。二階にある自室で寛いでいるとカツン、と俺の部屋に響いた音がした。音のした方へ向くと勉強机の辺りの床に赤いビー玉が転がっていた。
「あっ!?何処から出てきたんだよっ!!」
四人が死んだ原因が俺の部屋に現れ俺は携帯を持って何もない壁際まで下がる。本棚も無いし、物が倒れても被害が無い場所だ。
直ぐに部長へ、電話をかける。
『もしもし、どう……』
「部長かっ!?今俺の部屋にビー玉があった!」
『っ!?本当か!?分かった直ぐに行く!!』
電話に出た部長の言葉を遮って用件を伝えると、即座に部長は、待ってろと言って通話を切った。
これで助かる、俺は死ななくて済むんだ。
俺は安堵した。
その時、部屋の何処からか少女の声がした。
『カエセ……』
ひゅっと息を飲んだ。何処だ?何処に居るんだ?
部屋中を見回しても白い少女の姿はない。……幽霊だから見えないのか?でも岡村の曾祖母も吉田って人も見えていたらしいし、それはないか。
『カエセ……ワタシノ……』
再び声がした時だ、ビー玉が転がっている床の近くにいきなり白い少女が見えた。
「おいおい……ビー玉ならお前の近くに在るじゃないか……」
返す場所が違うけれど、思わず言った。足下に在るのにそれを見ないで俺を見るって……。
『……ビー玉』
っ!?
さっきまでと声の聴こえ方が変わった。本能的に何かヤバイと感じた。
そして、少女が俺に向かって近付いて来た。
『返せ、私のビー玉……私の目。』
「あ……うわぁぁぁっっ!!?」
何も無い空洞となっている右目を見てしまった瞬間、俺は堪えきれなくなり部屋を飛び出す。そして、部屋のドアを閉める!
なんだよアレは!?やばい、やばいやばいやばっ!
「っそうだ!電話をっ」
俺は混乱の中手に持っていた携帯の存在を思い出す。無我夢中で履歴の一番上にある所に電話をかけた。
一番上はこちらに向かってきている部長の電話番号。
しかし、
『……現在お掛けになった電話は電源が切れているか、電波の届かない場所に居るか……』
「っな!?」
繋がらないだと!?こんな時に部長は携帯の電源なんて切らない、さっきまで電話したんだから電波が届かない場所になんて行ってない。
……まさか、これもあの少女の仕業っ?
ともかく俺は少しでも部屋から離れるために下に行こうとする。
『返せ』
階段に差し掛かったときに後ろから声がして、そのあまりにも近すぎる声に思わず振り返ると、
「ああっ!?」
振り返った目の前に少女の顔があった。
正面の至近距離に映ったその顔に驚いて思わず一歩下がると、下がった左足が何かを踏んだ。左足の平に痛み。室内で裸足だったためそれが丸い形をしていることが感覚で分かった。
バランスを崩したが転倒を防ぐため近くの壁に手を付く。
そして、足元を見る。赤いビー玉だった。……なんでここにあるんだよ!?俺の部屋に転がってただろ!
俺は下を見たから少女から目を離していた。
だから、少女が再び目の前に来ていたのを見逃していた。直ぐにはっとして少女の方を見ると彼女は俺に向かって手を伸ばしていて、
『返してくれないなラ、』
と言って、俺に触れた。幽霊なのにさわれるのかよっ、と思ったが触れられたという感触は無かった。しかし、俺の体に少女の手が重なった瞬間、
「っうあ?」
目眩がした。そのせいで足元がふらつき、壁から手も離れてしまい……
後ろにあった階段を俺は踏み外した。
***
side橋本浩輝
ようやく登の家に着いた時、家の外からでも分かるくらいの大きな音が聴こえた。
何かが落ちたような……。
「っ!!登っ!?」
急いで玄関に向かう、幸い鍵は掛かっていなかった。
玄関のドアを開け放つと直ぐにそれが目に入る。
「おいっ!登っ!!」
登が頭から血を流して階段の下に倒れていた。
僕は揺らさないように声を掛ける。反応は無いが、まだ弱々しいが呼吸はしていた。直ぐに救急車を呼ぶ。救急車を待つ間、僕は登に声をかけ続ける。頭の何処から出血しているか分からないが、とりあえずあまり動かさないようにして持っていた使っていないタオルを頭に巻く。直ぐに赤くなっていくタオルを見て焦る。
「死ぬなよ、死ぬなよ登!……っ?」
声をかけていたら何処からか視線を感じた。それは階段の上の方かららしく、上を見た。
「っ!君がっ」
白い少女が居た。少女は何も言わずにすぅっと空気に溶け込むように消えた。
僕は立ち上がって階段を上がる。
階段を上がった所や以前遊びに来た時に入った登の部屋、何処を見渡しても、赤いビー玉は無かった。
そして、二、三分した後に救急車が来た。
救急隊員は素早く登を担架に乗せ、救急車の中に運ばれていく。僕も一緒に乗る。
そして、病院に着いたがそこで登は死亡が確認された。
原因は階段から落ちたことによる数回の頭の強打と過度の出血だった。
僕は病院の廊下にある椅子に座り項垂れた。
目の前で死んでいったのだ登は。僕が到着したときはまだ息があった。
僕には怪我に対する知識などは一般的なのしか知らないし、あそこまでの怪我だと直ぐに救急車を呼ぶのが一番最善だったとは理解しているが、やっぱり後悔してしまう。……もっと出来ることがあったのではと。
「ああ、岡村さん達に知らせないと……次は彼女達が危ない!」
その後直ぐに連絡した。