それゆけ!奥野坂上大学オカルト研究会8
そして俺は、天女に出会った。
鬼怒川烈子──本物の神降ろしの巫女が、そこに居た。
「もう夜明けじゃい! 一日一回の縛りプレイも解禁じゃい! 見とけよ伊地知! これが鬼怒川烈子様の真骨頂!」
ガラッと豪快に窓を開け放つ烈子先輩。
「栞ぃ! アレ!」
『はい!』
窓の外から投げ込まれる大幣。
それをバシッと見事にキャッチし、頭上高く振りかざす烈子先輩。
朗々と、そして美しく紡がれる祝詞──。
「掛けまくも畏きアマテラス大神、この神籬に天降りませと恐み恐みも白す──」
──次の瞬間。
烈子先輩の背後に、神々しい後光を背負った美しき最高神・太陽神の姿が立ち現れた。
「直視するなよ伊地知、気が触れるぞ?」
「ひっ……!」
あまりの神威に圧倒され、俺はつい母親怨霊の手を放してしまっていた。放したどころか、その場に平伏し、頭を床に擦り付けて土下座をしていた。
「頼むぜ、アマテっち!」
『烈子は神使いが荒いんだから……へへっ』
そんな、信じられないほど軽いノリの会話が頭上から聞こえる。
平伏して目をつむっていても分かるほど、周囲が目も眩むような黄金の光に包み込まれた。
光が収まり、おそるおそる目を開けた時には──母親の怨霊は、跡形もなく消え去っていた。
「サンキュー、アマテっち!」
『またね烈子! 今度は『クローズ』が読みたいからね?』
「引きこもりだけに『クローズ』ってか? ガハハ! よっしゃ全巻買っとくよ!」
「掛けまくも畏きアマテラス大神、本つ御座に還りませと恐み恐みも白す! ……っと、良し!」
「お、終わったんですか……?」
「あぁ……」
「こっちも……成仏したみたいよぉ〜」
性子先輩が胸に抱いていた幼い霊体たちも、温かな光となって優しく夜空へ溶けていく。
「見ろ、朝じゃい」
「綺麗ねぇ……」
「はい……」
3人で朝日を見つめ、静かな感動に浸る──
「……じゃなくて撤収だ!! ずらかるぞっ!」
「「うわぁぁぁぁぁッ!?」」
不法侵入と器物破損の発覚を恐れ、一目散に車へ飛び乗る俺たち。
車内で待っていた栞さんも一部始終を聞き、「よかったですね」と一言静かに微笑んだ。
──その後。
俺たちは国道沿いのファミレスに寄った。
烈子先輩が「奢りじゃい!」と、ミックスグリルセットとドリンクバーをご馳走してくれた。
徹夜明けの体に染み渡るハンバーグとコカ・コーラ。
眠い目をこすりながらも、俺たちはくだらない話を笑いながらたくさんした。
無理やり拉致されて、バチボコに躾けられた感は否めない。
だけど……空手道場が閉鎖され、行き場を無くして自棄になっていた俺に、確かに新しい「居場所」が出来た気がしたんだ。
……めちゃくちゃ怖いけど。
これが、驚きと恐怖と暴力とアルコールとニコチンと笑いに満ちた──俺の大学生活の始まりだった。




