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また輝かしい明日の朝がやってくる  作者: 藤田大腸


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神城朝水の家でライブの練習をした

 翌朝、あたしは『エン』に向かったが葛兄貴はジャージに着替えてサッカーボールを持ってどこかに行ってしまった。何でもたまたま、県外のシニアサッカーチームが慰労会でこの宿に泊まっているらしく、温泉で仲良くなって急遽指導を頼まれたとのことだった。


『エン』の玄関には閉店中の看板が立てられている。アサに裏手から入って構わないと言われたから、今回は裏手にある玄関のインターホンを押した。


「あすかあああ!」


 ドアが開いてタックルを食らわされた。昨日と全く一緒のシチュエーションだ。


「お前、朝から元気だな……」

「早く練習するぞ!」


 グイッと中に引きずり込まれる。連れて行かれたところは広い一室で、楽器や器材がズラリと置かれている。


「おー、結構いいドラムがあるじゃん」

「気に入ってもらえたかな?」


 声をかけたのは板野さん。朝歌さんの姿もある。


「防音室だからどれだけ音を出しても外に漏れないぞ」


 板野さんはギターの準備をしだした。


「あれ、板野さんギターもできるんスか?」

「こなす程度にはな。シンセは朝水にやらせる。ベースは妻が担当する」

「へー、朝歌さんも音楽やるんだ」

「覚えたのは朝水が空の宮に行ってからなんよ。あんまり上手くないけん笑わんといてな」


 アサがあたしの肩に手をやった。


「神城家バンドに君が加わることで、年越しライブは賑やかになろう。よろしく頼むよ」

「おう!」


 年越しライブの内容は、日付をまたぐ前とまたいだ後それぞれ数曲演奏する構成になっている。日付をまたぐ前は昔の曲を流し、後では最近の曲を流す。毎回こういう年越しライブの構成らしいけど、板野さん曰く大晦日と元日は過去と未来との境目という考えに基づいてのことらしい。


 本番はもう二日後しかないが、実はアサから事前にこの曲をやる、というのを聞かされていた。だから個人練習である程度は仕上げてきている。ちゃんと前準備はしておかないと板野さんに失礼だしな。


 こうしてリハーサルが始まった。前半は主に板野さんが所属していた「東洋科学技研」の曲を演奏するが、特に最後の『Crystal World』という曲はシングルランキングで8位に入ったことがある代表曲だ。冬に降りしきる雪の結晶、というのが曲のテーマだと板野さんは言った。


 冒頭のシンセサウンドをアサが奏でる。アサの言葉を借りれば「ぽわんとした柔らかいマシュマロのような」サウンドだが、これは雪雲をイメージしている。


 それから一転して激しいギターサウンドに入り、シンセが重なる。朝歌さんは謙遜していたけどベースのリズムもぴったりハマっている。あたしはドラムでテンポを刻みながら、どんどん積もっていく雪の様子を頭に描いていた。


 この曲がリリースされたのは確か33年前。音色はレトロチックなのに古臭さは感じられない。まさに、未来の境目に向かうのにふさわしい曲だ。


「思っていた以上にスジがいいな」


 いったん休憩に入ったところで、板野さんに褒められた。あの板野さんに。


「い、いやー……まだまだっスよ」

「小さい頃から叩いてるだろう。ドラム歴十年といったところか」

「はい、幼稚園の頃からドラムやってます。そこまでわかるんスね……」

「スティック裁きや叩き方を見ていたらだいたいわかる」


 さすが。


「パパに褒められたことを誇りに思いたまえよん」


 アサが頭を犬を相手するみたいに撫でてきた。


「『Crystal World』はパパの傑作の一つだ。昔、なにかの雑誌で冬のドライブデートで聞きたい曲ランキング1位を取ったこともあるらしい」

「そうなのか? 曲調が若干ハード寄りだけど、まあ高速道路走るんだったら合うかもな」

「デートか、ふふふ」


 板野さんが不意に笑った。


「この曲はカップルのために作ったわけじゃない。むしろ逆だ」

「逆?」

「もう時効だから話すが、当時付き合ってた女が二人いた」

「ブッ!」


 飲んでいたジュースが鼻から出そうになった。アサはびっくりしたような顔をしたが束の間で、ゲラゲラと笑い出す。朝歌さんは顔つきが鬼みたいになっていた。


「あんた、二股かましとったんか……」

「もう遠い昔の話だ。まだ身も心も若くて過ちを犯していた頃だ。二股がバレて、修羅場が繰り広げられて、結局二人とも失った。泣きながらトボトボと夜道を歩いていたらシンシンと雪が降ってきて、そのときに曲のインスピレーションが浮かんできた」

「調子こいた破局した哀れな男の曲なんじゃな」

「違う。みじめな思いをさせやがって死ね、という怒りを込めて作った呪いの曲だ。周りには言ってないがな」


 知りたくないエピソードだ。


「はあ~!? あんた、いろんなところから言われとったけどクズだったんじゃな~……結婚する前に聞いとったら別れとったよ」

「事実だから言い訳しようがないな。朝水が生まれてからようやく人間として成熟できた気がするよ」

「ボクは昔の尖ったパパも好きだぞ。尖ってなかったら名曲ができてない」

「ああ、良い娘を持ったな……」


 板野さんは眼鏡を外して袖で拭った。ちょっとしたファミリードラマを見せられたあたしは感動よりも先に不快感を覚えた。


 アサは命を落とすかもしれない状況だ。それなのに人の死を願う曲を演奏してしまった。とても縁起が悪すぎる……。


 早くどうにかしてアサと……しかしどうやってきっかけを? そもそもアサの奴がその気になるのか、なれなかったとしたら……


 リンゴーン、と鐘が鳴った。この家のインターホンの音だ。


「はーい」


 朝歌さんが迎えに行ってすぐに戻ってきた。


「ワタ婆さまんとこのヤチヨさんからじゃ。婆さまからの差し入れだって」


 朝歌さんはビニール袋を携えている。


「差し入れ? 今までしてもらったことがないのに珍しいな」

「小倉さんが遠いとこから来てくれたけん、特別じゃ言うてた。何じゃろな」


 ガサゴソとまさぐって取り出したものは、


「まあ、桃じゃが!」


 季節外れの二つの桃。

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