031【契約精霊】
〖神暦 3240年 4月 8日〗
日記の筆者『イズ』
場所「セレスタル地方」
夕暮れの村。
子供たちは「またなー」と手を振り合い、各々の家に帰って行っている。
そして、広場の市場では、店の片付けをしている。
「もうちょっとで夜だね。」
テオが、家々の隙間から差し込む、夕焼けを指さした。
「…宿に泊まるのもいいけど、お金が…」
テオが財布をひっくり返す。
「魔鋼を売った時のお金があるじゃない!」
私は、魔法空間から財布を取出し、中の銀貨を見せびらかした。
「あのさ、宿に泊まるのもいいけど、その前にワタシ、ちょっと行きたいところがあるの。」
アリスが道を曲がった。
それに私たちは付いて行く。
何分かアリスの後ろを歩き、小さな家にたどり着いた。
西洋風に、赤い屋根の家だ。
コンコン
アリスがドアを叩く。
「なによ! この、妾の家の扉を叩くのは、たとえ神でも許されなわ!!!!!!」
その家から、少女の怒鳴り声が聞こえてきた。
「…このこえ…」
テオがボソッと呟いた。
「ワタシよ~ リリー、 アリスよ。」
アリスが言う。
「…なんだ、アリスなのね? ならいいわ。」
少女の声が聞こえたかと思うと、そのドアが開いた。
そこには、8歳程の少女…幼女が立っていた。
髪は金色で、肌が白い。
おとぎ話に出てきてもおかしくないくらいの、可愛らしい見た目をしている。
バタンッ!
ドアが勢いよく閉じた。
ん?
…そして、キィと、ドアが開いた。
「…リリー?」
テオが言う。
「な、なななな、なによ、」
その幼女、リリーが目を泳がせている。
「久しぶり、元気にしてた?」
テオが笑顔で聞く。
「べ、べべべ、べつに? 妾は、大丈夫よ?」
…これは、なにかあるな。
私は、そう思った。
「…怒らないから、話して? なんで僕との契約を無視したの?」
テオが言う。
…これは怒っている。
テオが怒っているのは、初めて見た。
静かに怒るタイプだ。
「い、いいい、いや… 逃げたわけじゃないし? む、無視はしてないし?」
リリーが言う。
「ふ~ん…たしか、僕との契約は、『水の臨精霊、マリリア=アラバスターは、主テオドア=ベルカントを最大限守ることとする。そして、契約続行中はその身は主のものである。 しかし、マリリア=アラバスターは、主テオドア=ベルカントの魔力、エネルギー、霊力、生命力、の全てを利用することが出来る。』 …そして、臨精霊は、主からエネルギーを分けてもらわないと、生きていけない。…だよね?」
テオが言う。
「え、ええ…」
リリーが小さく頷く。
「つまり、僕はリリーに、僕は何の見返りもなく、エネルギーを分け与えていたという事だよね?」
「…そういうことよ… けど! 妾、ちゃんと仕事はしてた! で、逃げたくて逃げたんじゃなくて、妾は、妾は…」
リリーが少し泣きそうになっている。
…というか、テオは、リリーは『臨精霊』だと言っていた。
臨精霊、
精霊という文字は入っているが、彼らは、精霊が天使の座を奪った後に生まれた精霊を指す。
つまり、私の先祖の敵ではないという事だ。
名前の由来は、降臨、臨む、上から見下ろす、などからきているそうだ。
「だって、だって…」
リリーが泣き出してしまった。
…テオも言い過ぎなのでは?
…けど、契約放棄は、臨精霊にとっては結構なことだし…
そんな事を思い、私はどうすればいいのか考えていると、おもむろにテオがしゃがみリリーに抱き着いた。
え?
何が起こったか、まったく理解できない。
うん。
さっきまで、喧嘩してたよね?
「もう! 探したんだから、半年くらい!」
テオが言う。
半年…テオが冒険している時間と同じだ。
テオの旅の目的は、このリリーを探すこと?
「…アリスもアリスで、知ってたんだったら、おしえてよ… 僕は何のために旅をしてたと思ってんの…」
テオがアリスに向かって言う。
アリスは「え、リリーのこと、さがしてたの?」と、驚いた声を出した。
「…テオって、リリー探すために冒険してたの?」
私はテオに問う。
「そうだよ。」
テオはそう言いながら、立ち上がった。
そして、テオはリリーの頭を撫でる。
「けど! なんで、僕との契約を破ったのかは、説明してね?」
テオが両腕を腰に当てた。
すると、リリーは涙を手でふき、口を開いた。
「妾は、逃げたわけじゃないのよ。 まず、テオ…主と契約したのが5年前よね?」
リリーが言い、「とりあえず、家の中にはいれ」と、言わんばかりの手招きをした。
それに従い、私たちはリリーの家に入った。
…そこには、なにもなかった。
ただの、真っ黒な空間。
…床はある、天井も、壁もある…はず。
真っ黒で、なかに入った者だけ、薄っすらと、見える。
「[光よ]」
リリーが呟いた。
すると、その暗闇が、まるで霧が晴れるようにサァと消えた。
「…とりあえず、すわるのよ。」
リリーがソファーを指さした。
皆がソファーに座った。
「じゃ、話すとしましょうか。 妾がなぜ、ここにいるのかを。」




