029【透明な破片】
〖神暦 3240年 4月 8日〗
日記の筆者『イズ』
場所「バター高原&セレスタル地方」
あ、セシリアさんだ!
私はやっと思い出した。
遺跡で会ったエルフの王族の、セシリア・ベルカント
「ねぇテオ、貴方のお母さん、エルフ?」
「えぇ、なんでわかったの?」
「で、テオの、本名何?」
「テオドア=ベルカント だよ。」
テオが言う。
「アリス=ベルカント よ。」
空気を読み、アリスが言う。
「エリザベス=ベルカント じゃ。」
これまた空気を読み、エリザベスが言う。
まじか、これは何かありそうだな。(複線回収早くね?)
…ってか、テオって『テオドア』だったんだ。
「な、なんでお母さんが、エルフだってわかったの?」
「あのね、事の始まりは、二日程前…」
私は遺跡、(正確には違うが)でセシリアさんに会い、そこで話した事を皆に伝えた。
「…つまり、うちのママが王様の血を持っているってこと?」
アリスが首を傾げる。
「まぁ、結論から言うとそういう事…かもという事ね。」
「なるほど…」
エリザベスが首を縦に振る。
「…ところで、その…アレナさんってどんな魔法が使えんの?」
私が皆に聞いた。
「…よくわかんないけど、綺麗な魔法を使うわ。」
アリスが答える。
「ふ~ん。」
私は何故か妙に納得する。
「じゃ、私は帰るぞ。よいな?」
エリザベスが言い、ガラスの扉を開き、ターミナルから出て行ってしまった。
しまった? いや、くれた…だな。
「じゃ、行きましょうか。」
アリスが言う。
「行くか。」
テオが答えた。
数分後
すごい。
と、しか言えない。
飛行機の外側は真っ黒で堅そうだったが、内側にはいろいろある。
操縦席の後ろには、ソファーやテーブルあと、冷蔵庫がある。
中はやや狭く、縦長だが生活するには十分な広さだ。
「みんな、椅子…そこのソファーに座って~」
アリスが操縦席から、顔を出した。
「は~い」
私は返事をした。
「よいしょ」と、言いながらテオも座った。
「とりあえず、上空に出るから、しっかりつかまってて。」
アリスが言った。
――刹那、重力の方向が変わった。
下ではなく、後ろだ。
は?
何が起こっている?
外は…
私は窓へ視線を移す。
景色が物凄い速度で、下に落ちていっている。
どういう事…?
そんな事を思っていると、急に重力が戻った。
…雲を抜けた。
「よいしょっと」
ドォォォ
飛行機が近くの平原に降り立った。
「ついたわよ」
「早すぎるだろ!!!!」
私は、叫んだ。
「これで行けば、晴れの森から一日もかからんかったわ!」
「まぁ、イズ…落ち着いて?」
「じゃ、行きましょうか。 お兄ちゃん達、村に行くんでしょ?」
アリスが言った。
「…じゃぁ行くか。」
私の話を聞かずに、二人で話している。
数分後
「お兄ちゃ~ん。 疲れた。おんぶして~」
アリスが言った。
飛行機を私の魔法空間にしまい、私達は村へ歩いている。
(私は、飛んでいる)
「無理だよ。リュック背負ってるから。」
「じゃぁ、お姫様抱っこ。」
「はいはい。」
テオが言い、アリスをお姫様抱っこする。
…あの二人、双子なんだよな。
高校生の兄と、小学校低学年の妹、くらいの精神年齢の差があるように見えるのだが…
私の言えたことでは無いのは、わかってますが…
もしくは、あの二人、は恋人だと言われたら納得できる。
にしても、テオって意外と力持ちなんだな。
背丈もほぼ一緒の同年齢の男子を軽々と持ち上げる(飛空場のターミナルの高い高い)アリスにも私は驚いているが…
「というか、思ったより寒くないわね。」
アリスが言った。
「まぁ、季節が春だからね。 冬はもう寒くて寒くて、お湯も凍るらしいよ。」
「へぇ…」
すると、私の魔力探知に、影が映りこんだ。
――っ早い。
「みんな、にげ…」
ドシュ
私が言う間もなく、鈍い音がした。
は?
私は急いで振り向く。
「…たぶん黒凶狼の一種ね。」
アリスが、テオの腕に抱かれたいまま言う。
「ワタシが倒したから、大丈夫よ。」
私はとっさに振り向いた。
そこには、首に穴が開き倒れている黒い狼が見えた。
「すご…」
私は言葉を漏らす。
すると、アリスの手の中に、なにか太陽の光を反射し、輝くものが見えた。
…ガラス?
「それなぁに?」
私は尋ねる。
「硝子の破片よ。 ワタシの得意な攻撃魔法。 硝子の破片を出現させ、飛ばす。っていう魔法よ。」
テオは「アリスなら、いつものことだよ」と言わんばかりの、平然とした顔をしている。
けれど、硝子の破片を飛ばすというのは、すごいことなのだ。
まず、そもそも硝子は非魔伝導体だから、鉄などと違い、魔力を全く通さない。
非魔伝導体なら、敵の防御魔法をかいくぐる事が出来るから、恐らくアリスは硝子の破片を武器に選んだのだろう。
しかし、非魔伝導体は魔力を通さない、すなわち魔法によっての制御が不可能なのである。
「あ、あのさ、アリス、 その硝子、どうやって操ってんの?」
私は、尋ねる。
「うん? …あのね、ワタシは…」
アリスが言いかけた、その瞬間、あの影をまた捉えた。
しかも複数。
…視界に入った。
「あ!」
テオがアリスを抱いたまま、声を荒げる。
「た、倒すわよ!」
私は叫び、魔法を発動する。
ジャラッ キィィィィィ
なにか、物凄い数の硬い物がこすれあう音がした。
「なっ…!」
私の目の前には、透明な物体が集まり、構成されている一種の液体のような物があった。
その物体に、西日が差し込みキラキラ輝いて見える。
よく見ると、小さな『破片』が一つずつ単独で行動している。
…魔力を感じない。
ピキッ
音がした。
ダダダダダダダダダダ
なにかを連射する音だ。
その塊から発射された、無数の硝子の破片が黒凶狼一匹一匹に突き刺さっていく。
ガガガガガガガガガ
目の前で、黒凶狼が血しぶきを上げ、倒れていく。
こんなの戦いじゃない。
――ただの蹂躙だ。
その時、目の裏にあの光景が浮かんだ。
…この硝子で形成されている物体は、目がくらむはど美しい。
それは、認めよう。
ただ、けっしてこの硝子は美しいものではない。
殺意と、憎悪と、嫉妬と、執着と、怒りと、恐怖と、絶望と、落胆と、不安と、哀と、愛の、混ざり合った、究極の作品。
…この攻撃を、私は昔見たことがある。
発射している『物』は違うが、ハッキリとわかる。
これは、この魔法は、人類の領域をとっくに過ぎている。
そして、その術を行使しているのが、一人の少女だと言うのだ。
ドシャァ
その猛攻が終わり、硝子の破片が粉になり、散っていった。
その粒子に、太陽光が反射し、水面に映る光のようにキラキラと輝いている。
「ワタシが非魔伝導体である、『硝子』を操れる理由?」
テオの腕の中から降り、アリスは私を見た。
「簡単だよ、ワタシは硝子を………」
その答えは、私の想定内では収まらなかった。




