020【移動手段の革命】
〖神暦 3240年 4月8日〗
日記の筆者『イズ』
場所「ウェイタ飛空場」
「わぁ…」
私は、目の前にある大きなガラス扉の『押してください』のボタンをツンと叩いた。
ピー
電子音がしたかと思うと、その扉が開いた。
「なにこれ? 魔法?」
「いや、科学だ。上の超音波センサーで僕たちのことを感知して、モーターで扉を動かしているんだよ。」
テオが説明してくれた。
超音波センサー?
モーター?
なんだそれ。
科学のことは私には一切解らない。
「行こう!」
テオが私の手を引っ張った。
中に入ると、そこは驚きの世界だった。
近未来的な飛空場。
天井が高く、窓が大きく、おまけに天井に液晶版がつるされている。
受付カウンターが何個もあり、小さな店がもいっぱいある。
360°キラッキラ。
「こ、ここ何?」
「何って…飛空場だよ。」
「それは知ってるよ! そうじゃなくて、何なのよここ! すごすぎるじゃない!」
窓の奥には、二機の飛空艇と、テオの言っていた『飛行機』が五、六機ほど見える。
「あの長い道路何?」
私は奥に見える、長い道路を指さす。
「滑走路だよ。」
「んだそれ?」
「飛行機を飛ばすために、一度長い道路で加速するの。そのための道路。」
「…魔法で言う、加速管?」
「ま、そんな感じ。」
…ここまで説明されても、あんな大きな白い物体が、球皮も無しに飛ぶなんて…
白い、白…白…あ、、
「ああああああ!!!!!!」
私の叫び声が飛空場に響き渡る。
忘れてた!!!
白龍!
「ちょ、シー」
テオが私の口をふさいだ。
「もごもごもごもご。(白龍のこと、忘れてた)」
「何て?」
テオが周りの人に「ごめんなさい。」といい、私に喋った内容を尋ねた。
「もごもごもご。(しゃべりたくても、口ふさいでるから、喋れないのよ!)」
「…あぁ、忘れてた。」
「プハッ…白龍!」
「白龍? あ、…白龍!」
テオが叫びそうになったが、どうにか飲み込んだ。
「完全にど忘れしてたわね。」
「スースー」
テオが考え込み、歯の隙間から息をする音が聞こえる。
「まぁいいか。 バター高原で出してあげよう。」
テオが開き直った。
「…そうそうイズ、昨日ギルマスがさ、飛空艇のチケットを予約してくれたんだよ。」
「マジか、ギルマス神さま? けど、飛行機乗りたかったな~」
「ねぇイズ、飛行機の値段知ってる? 金貨1枚と銀貨50枚だよ?高すぎるよ。」
「…金貨1.5枚…高い。」
「けど、その代わり飛行機はもすごく早くて安全。」
「…飛空艇でいいや。安くて銀貨20枚、高くて80枚くらいで済むものね~」
『ピンポンパンポン 7番ゲートの「バター高原行き、サンダーセイル736」の受付を開始します。』
天井らへんから、女性の声が聞こえた。
魔力は感じないから魔法ではない。
科学か?
「あ、イズ、この船だよ。早く7番ゲート行こう。」
「は~い。」
数分後
「ここか?」
大きく7と書かれた看板を見つけた。
その近くの窓の奥には、少し小さめの飛空船が停泊しているのが見える。
飛空船の大きな特徴は二つだ。
一つめは、船の帆の代わりに付いた皮球。
大抵細長い形状をしているが、この飛空船はバター高原という高い所を目指すので、高度を上げるのに特化したまん丸の形をしている。
もう一つは、プロペラが付いていることだ。
船の前方と後方に二つずつ、計四つ付いている。
これは船の進む方向を決める重要なものだ。
「すいませーん。バター高原行きの飛空艇乗り場ってここですよね?」
テオが受付のお姉さんに質問した。
「そうですよ。」
「あ、じゃあ…どうすればいいんだ?」
テオが人差し指と親指を顎に当てた。
…いつもなら、チケットの紙が手元にあるのだが、今は違う。
確かにどうすればいいのだろう。
「…チケットがないから入れてって言ったら入れてくれる?」
私は受付のお姉さんに尋ねた。
恐らく答えはNOだろう。
「ちょっとそれはルール上難しいわねぇ…」
…どうしよう…よし、ギルマスを頼ろう。
私はギルマスに電話をかけた。
「もしもし?もしもし?」
まぁすぐに出るわけはないか…
『ん?なんだ?イズか?』
おお、出た。ギルマスだ。
「あのさ、チケットがないから入れないんだよ。」
『…どこに?』
「ああ、言ってなかった、飛空場でね、いまから飛空艇に乗るんだけど…」
『チケットがないから乗れないと、…じゃあ受け受けの人にこの通話が聞こえるようにして。』
「は~い。」
私はその通話を、半径5m以内の人に全員聞こえるようにした。
『あ~もしもし?係員さん?』
魔法越しギルマスが受付のお姉さんを読んだ。
「なんでしょう?」
『俺だ、ギルマスだ。』
「…?ギルマスさんがどうして?」
…なるほど、飛空場は大抵、冒険者組合が管理してる。
まぁ、だから、なんやかんやで特権が使えるということか?
『その飛空艇のA―3、4の席が予約されているだろう?』
ギルマスが言い、受付のお姉さんがモニターを触った。
「…ええ。」
『その予約した人の名前がクロキになってるか?』
「ええ、」
『で、パスワードが33492640、あってるか?』
「ええ、」
『俺がこの子たちのために予約した席だ。』
「なるほど…」
『あ、時間だ、またな!』
電話がブツっと切れた。
「なるほど…そういうことね、わかったわ。入っていいよ。」
受付のお姉さんが言った。
と、同時に窓の奥に見える飛空艇の球皮の根元がピカリと光ったように見えた。




