第181話 朝起きたら、店の前に泥棒たちが転がっていました。……えぇぇー! どうしよう!?
リズが言い放った瞬間。
床の魔法陣から天を衝くような光の柱が立ち上り、女将の霊を完全に飲み込んだ。
「ぎゃあああ! 私の店ぇぇぇ!!」
女将の霊は、断末魔のような叫びと共に光の粒子となって霧散し、完全に消滅した。
後に残ったのは、静寂と、薄汚れた木箱だけ。
「……ふん。せいぜい我が主の安眠を妨げたことを地獄で悔やむがよい」
リズは木箱を抱え、テーブルの上に置いた。
(さて、これについては、我が主に対応を任せることにするか。我は、この世界に悪人がはびころうが知ったことではないが、あの地縛霊が言っていたことが事実であれば、今後ダマール商会とやらが我が主の商売の障害になる可能性もあるからな……)
◇
朝日が差し込む室内。
「ん~……よく寝たぁ」
通販で買った最強の耳栓のおかげか、私は爽快な目覚めを迎えていた。
さて、今日も一日頑張りましょうか!
「ん……。朝か……。ふわぁ……」
隣で寝ていたリズちゃんも今起きたようで、背伸びをしている。
「リズちゃん、おはよう」
「おはよう、主……。昨晩は大変だったぞ」
「え?」
昨晩何かあったの!?
「客じゃないのに、この屋敷に侵入した不届き者がいたのだ」
いやいや、お客さんでも閉店時間に侵入するのは困るんですけど!
私はリズちゃんから昨夜あったことを聞くや否や、慌てて上着を羽織って、リズちゃんとコロを連れて一階に降りて店の入り口のドアを開けた。
「……」
そこには、異様な光景が広がっていた。
店の前の路上に、数人の男たちが衣服やベルトで拘束された状態で、蓑虫のように転がっていたのだ。
男たちは、ぐったりとして動かない。
そして、その周りには、すでに数人の人だかりができていた。
近所のおかみさんや、仕入れに向かう商人たちが、ざわざわと噂話をしている。
「おい、なんだこいつら……?」
「ヤマネコ商会の前だぞ。泥棒か?」
私が顔を出すと、近所の八百屋のおじさんが気づいて声をかけてくれた。
「あ、コトリちゃん! 無事かい!?」
「おじさん……! ええ、私は大丈夫ですけど……」
私はリズちゃんに小声で尋ねる。
「リズちゃん! この人たち、い、生きてるのですか……!?」
「安心しろ、手加減したから生きている、と思う……。だが、早く何とかせんと、通行人の邪魔になるぞ」
リズちゃんが他人事のように言う。まぁ確かにリズちゃんは、どうしていいかわからないだろうし、私が対処するしかないけど……。
でも……。えええ……ど、どうしよう……。
「そう、衛兵さん! 衛兵さんを呼ばなきゃ!」
私が慌てていると、遠くからピーッ! という甲高い笛の音が聞こえてきた。
「あ、来た来た! さっき通報しておいたからね!」
八百屋さんのおかみさんが教えてくれた。
「ありがとうございます!」
人波を割って現れたのは、数人の衛兵たちと、息を切らせたギルドマスターのバルガスさんだった。
「コトリ君! 無事か!」
「バルガスさん!」
「朝一番で『ヤマネコ商会の前で事件だ』と通報があってな……。飛んできたんだ」
バルガスさんは額の汗を拭いながら、転がっている男たちを見下ろした。
その目は、商人の温和なそれではなく、街の治安を預かる責任者の鋭い眼差しになっていた。
この街ハルモニアは「自治都市」なのだ。
特定の貴族の支配を受けない代わりに、商業ギルドが実質的な行政機関として機能しているらしい。
そのため、街の治安維持や犯罪者の処罰に関しても、ギルドマスターであるバルガスさんは衛兵に指示を出せる強い権限を持っているのだろう。




