【23話】後悔しないために
夕方。
一日の仕事を終えたオフェリアは、庭園でティグスと遊んでいた。
そこへアディールがやってきた。
いつもよりも引き締まった、真剣な表情をしている。
「オフェリア。君に話がある」
「我は外した方がいいか?」
ティグスがそう言うも、アディールは首を横に振った。
「いいや、お前にも聞いてほしい」
「承知した」
「つい先ほど、隣国、メーレム王国の王都が多数の上級魔族に襲われているという報告が入った」
「多数の上級魔族……我を襲ったヤツらと同じかもしれんな」
ティグスは以前、多数の上級魔族たちに襲われて大ケガを負っている。
その可能性は十分に考えられる。
「メーレム王国は同盟国だ。危機に陥った際には助けるという盟約を交わしている。今回の事態における『助け』というのは、応援の兵を王都に刺し向けることだ。その応援兵に、俺が選ばれた」
アディールが小さく息を吐く。
表情がより一層の真剣みを増した。
「今回の任務は非常に危険だ。ここに戻ってこられる保証はどこにもない」
「そんな!?」
オフェリアはたまらず声を上げる。
そんなのは絶対に嫌だ。もう会えなくなるなんて耐えられない。
「だから最後に挨拶をしておきたくてな。オフェリア。君と過ごした時間は俺にとって宝物だった。本当にありがとう」
「それは私もです! アディール様がいたから私は楽しく生活できました。幸せな時間を送れたのです!」
「よかった」
涙を流して叫ぶオフェリアに、アディールは優しく笑った。
「ティグス。もし俺が戻らなかったときは、オフェリアを頼む。お前になら任せられる」
「……承知した」
「これでもう心残りはない」
「待ってください!」
オフェリアはアディールの両肩を掴む。
もうこれで会うことはない。さよなら――そう言われているような気がした。
そんな一方的な別れなんて認めない。これで終わらせはしない。
だから、
「私も一緒に行きます!」
強い意志をこめてアディールへ宣言した。
「それはできない。君を危険に晒したくないんだ」
「アディール様の気持ちは嬉しいです。……でも、じっと待っているだけなんてできません!」
ここで動かなかったから、きっと一生後悔する。
そんなのはゴメンだ。
これだけは絶対に譲れない。
もし断られたとしても諦めない。どんな方法を使っても、絶対についていく。
「本気なんだな」
オフェリアは大きく頷いた。
迷いはない。
アディールはしばらく悩んでから、わかった、と口にした。
その声色にはわずかな呆れと、大きな優しさを感じる。
「なにがあっても君のことは絶対に守る」
アディールが微笑む。
その言葉には強い気持ちが宿っていた。
「ありがとうございます!」
オフェリアは深々と頭を下げた。
「我も行こう。主君が戦場に赴くというのだ。そうであれば、同行するしかあるまい」
「ありがとうね」
なんて忠誠心の高いペットだろうか。
微笑んだオフェリアは、両手を使ってティグスの体をおもいっきり撫でた。
明朝。
オフェリアとアディールはティグスに乗って、王宮を発った。
 




