表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/29

【22話】裏切られて初めて気付いたこと ※ルブリオ視点


 ルブリオは私室に戻ってきた。

 

 机の上には、さっきまでなかった書類が積み重なっている。

 作業室へ行っている間に、臣下が置いていったのだろう。

 

「またか……」


 書類の山を見たルブリオは、大きなため息をつく。

 

 机の上に置いてある書類は被害報告書だった。

 魔物の襲撃が発生したみたいだ。

 

 被害報告書を見るのは、今月に入ってもう何度目だろうか。

 いい加減見飽きた。


「失礼いたします」


 初老の男性が部屋に入ってきた。

 彼はベルクの側近だ。


「父上の側近が僕になんのようだ?」

「ベルク様からご伝言を預かっております」

「父上から?」

「はい」


 側近は懐から、折りたたまれた書状を取り出した。

 それを広げて読み上げる。


「『身勝手な理由でオフェリアを追放し、国を危機に陥れた過失は重大。お前には責任を取ってもらう。処罰が決まるまで部屋で静かにしていろ。不要に出ることは許さん』、以上です」


 ベルクの側近は手に持っていた書状をルブリオに渡した。

 お辞儀して部屋を出ていく。

 

「なんだよそれっ!!」


 腹の底から上げた怒号が、ひとりきりの部屋に響いた。

 机の上に置かれていた被害報告書を手で払う。

 

「僕は悪くない! 全部ルシアが悪いんだ!」

 

 払い除けた被害報告書が宙を舞う中、ルブリオは叫んだ。

 

 悪いのはルシアで、ルブリオはかわいそうな被害者だ。

 それなのにどうして罰を受けないといけないのか。

 

「……クソッ、信じていたのに」

 

 ルブリオはルシアのことを信じていた。

 本気で愛していた。

 

 ルシアもまた、同じ気持ちを抱いてくれているものだと思っていた。

 

 でも違った。

 ルシアの愛は嘘だった。

 

 オフェリアを国外追放追放するために、ルブリオに取り入ったにすぎない。

 完全に裏切られてしまった。

 

「クソッ……! どうして僕はあんな女を信じてしまったんだ!」

 

 下を向いたルブリオは、拳を強く握った。

 

 瞳からは涙が流れている。

 後悔の涙だ。

 

 床に散らばっている被害報告書が、ふいに目に入る。

 そのとき、ルブリオの頭の中に過去の出来事が浮かんだ。

 

 

 

 その日。

 ルブリオは、婚約者のオフェリアに仕事が終わらないという愚痴を言っていた。

 

「書類仕事が終わらない? ……仕方ありません。私もお手伝いしますから一緒に頑張りましょう」


 オフェリアは呆れ顔をしながらも、書類仕事を手伝ってくれた。

 

 

 

 思い出したのは、そんなどうでもいいことだ。

 

「どうした今さらになって、そんなことを思い出したんだろうな」


 ルブリオはフッと笑う。

 どうして思い出したのか、自分でもよくわからなかった。

 

「彼女のことなんて大嫌いなのに」

 

 オフェリアのことがずっと嫌いった。

 

 美しくて、頭もよく、そして大聖女の加護という特別な力を持っている。

 

 ベルクが褒めるのは、いつもオフェリアばかり。

 ルブリオには『少しはオフェリアを見習え』と、注意するだけだった。


 自分よりも優れているオフェリアのことが、ずっと妬ましかった。

 

 だから冷たい態度を取ってきた。

 欠点を無理やり見つけて、『ないないない令嬢』と罵ってきた。

 

「……でも、オフェリアは僕のことを見放さなかったな」


 呆れ顔をしながらも彼女は、ずっと側にいてくれた。

 寄り添ってくれて、見捨てることはしなかった。

 

「僕が大事にすべきだったのは、ルシアじゃない……。オフェリアだった」


 彼女の愛は嘘じゃない。

 本物だった。

 

 ルシアに裏切られたことで、ルブリオはようやく大切なことにきづけた。

 

「もう一度オフェリアに会いたい」


 会って話がしたい。そしてもう一度、彼女と最初からやり直したい。

 

 ルシアに騙されていたと言えは、きっとわかってくれるはずだ。

 オフェリアは優しい。

 被害者であるルブリオに同情し、受け入れてくれるだろう。

 

 とにかく、彼女と会いたい。

 その思いが、ルブリオの胸を駆け巡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ