【22話】裏切られて初めて気付いたこと ※ルブリオ視点
ルブリオは私室に戻ってきた。
机の上には、さっきまでなかった書類が積み重なっている。
作業室へ行っている間に、臣下が置いていったのだろう。
「またか……」
書類の山を見たルブリオは、大きなため息をつく。
机の上に置いてある書類は被害報告書だった。
魔物の襲撃が発生したみたいだ。
被害報告書を見るのは、今月に入ってもう何度目だろうか。
いい加減見飽きた。
「失礼いたします」
初老の男性が部屋に入ってきた。
彼はベルクの側近だ。
「父上の側近が僕になんのようだ?」
「ベルク様からご伝言を預かっております」
「父上から?」
「はい」
側近は懐から、折りたたまれた書状を取り出した。
それを広げて読み上げる。
「『身勝手な理由でオフェリアを追放し、国を危機に陥れた過失は重大。お前には責任を取ってもらう。処罰が決まるまで部屋で静かにしていろ。不要に出ることは許さん』、以上です」
ベルクの側近は手に持っていた書状をルブリオに渡した。
お辞儀して部屋を出ていく。
「なんだよそれっ!!」
腹の底から上げた怒号が、ひとりきりの部屋に響いた。
机の上に置かれていた被害報告書を手で払う。
「僕は悪くない! 全部ルシアが悪いんだ!」
払い除けた被害報告書が宙を舞う中、ルブリオは叫んだ。
悪いのはルシアで、ルブリオはかわいそうな被害者だ。
それなのにどうして罰を受けないといけないのか。
「……クソッ、信じていたのに」
ルブリオはルシアのことを信じていた。
本気で愛していた。
ルシアもまた、同じ気持ちを抱いてくれているものだと思っていた。
でも違った。
ルシアの愛は嘘だった。
オフェリアを国外追放追放するために、ルブリオに取り入ったにすぎない。
完全に裏切られてしまった。
「クソッ……! どうして僕はあんな女を信じてしまったんだ!」
下を向いたルブリオは、拳を強く握った。
瞳からは涙が流れている。
後悔の涙だ。
床に散らばっている被害報告書が、ふいに目に入る。
そのとき、ルブリオの頭の中に過去の出来事が浮かんだ。
その日。
ルブリオは、婚約者のオフェリアに仕事が終わらないという愚痴を言っていた。
「書類仕事が終わらない? ……仕方ありません。私もお手伝いしますから一緒に頑張りましょう」
オフェリアは呆れ顔をしながらも、書類仕事を手伝ってくれた。
思い出したのは、そんなどうでもいいことだ。
「どうした今さらになって、そんなことを思い出したんだろうな」
ルブリオはフッと笑う。
どうして思い出したのか、自分でもよくわからなかった。
「彼女のことなんて大嫌いなのに」
オフェリアのことがずっと嫌いった。
美しくて、頭もよく、そして大聖女の加護という特別な力を持っている。
ベルクが褒めるのは、いつもオフェリアばかり。
ルブリオには『少しはオフェリアを見習え』と、注意するだけだった。
自分よりも優れているオフェリアのことが、ずっと妬ましかった。
だから冷たい態度を取ってきた。
欠点を無理やり見つけて、『ないないない令嬢』と罵ってきた。
「……でも、オフェリアは僕のことを見放さなかったな」
呆れ顔をしながらも彼女は、ずっと側にいてくれた。
寄り添ってくれて、見捨てることはしなかった。
「僕が大事にすべきだったのは、ルシアじゃない……。オフェリアだった」
彼女の愛は嘘じゃない。
本物だった。
ルシアに裏切られたことで、ルブリオはようやく大切なことにきづけた。
「もう一度オフェリアに会いたい」
会って話がしたい。そしてもう一度、彼女と最初からやり直したい。
ルシアに騙されていたと言えは、きっとわかってくれるはずだ。
オフェリアは優しい。
被害者であるルブリオに同情し、受け入れてくれるだろう。
とにかく、彼女と会いたい。
その思いが、ルブリオの胸を駆け巡った。




