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【21話】怒り ※ルシア視点


 ラグドア王国の王宮にある作業室。

 そこでは今、ルシアが回復薬を精製をしていた。

 

「クソッ……なんで私がこんなことを!」


 作業する手を動かしながら、ルシアは舌打ちを鳴らした。

 

 ルブリオにお願いしたことで、ルシアはすべての仕事から解放された。

 それなのにどうして回復薬精製の仕事をしているのかというと、これには理由がある。

 

 ラグドア王国では今、魔物襲撃が頻繁に発生している。

 そのため、毎日大量の回復薬が消費されていた。

 

 当然回復薬を作るペースも、それに合わせて上げる必要があった。

 そのために、ルブリオの命令でルシアも回復薬を精製することになってしまったのだ。

 

「ルシア様! もっと作業スピードを上げてください! これでは本日のノルマが達成できませんよ!」


 同じ作業にあたっている聖女が急かしてきた。

 

(うっざ! 黙りなさいよ!)

 

 ルシアの作業スピードは遅い訳ではない。

 同僚と同じくらいのスピードで作っている。

 

 それなのに文句をつけられて、ルシアは最悪の気分になっていた。

 

「やってるわよ! これが精いっぱい!」

「ですがオフェリア様は、もっと速くできていましたよ?」


 ですから同じスピードでやってもらわないと困ります、と同僚はそう付け加えてきた。

 

 しかし、それは無理な話だ。

 

 オフェリアの精製スピードは異常だった。

 ルシアがどんなに頑張ったところで、あれにかなうはずはない。


「というより、ルシア様は大天使の加護よりも強力な、大聖女の加護を持っているのですよね。でしたらオフェリア様よりも、さらに速くできるはずでは?」


 そう言うと、

 

「確かにそうね!」「これでノルマ達成できなかったらルシア様の責任ですからね!」「パパッと作ってくださいよ!」


 作業室にいる他の同僚たちからも次々に声が上がった。

 どれもこれもルシアを煽っている。

 

(こいつら、自分の無能を棚に上げて……!)


 ブチッ!

 ルシアの中で怒りが爆発する。

 

「できるわけがないでしょ! 大聖女の加護なんてものはありはしないんだから!」


 同僚たちは愕然。

 一気に静まり返った。

 

 それでもルシアは、まだ止まらない。


「あれはバカな第一王子を騙すための嘘! 生意気なオフェリアを追い出すためにそうしただけ! ルブリオは騙されていたのよ!!」

「……嘘だったのかい」


 消え入りそうな声が、すぐ後ろから聞こえてくる。

 それはルブリオの声だった。

 

(え……嘘でしょ)


 ゆっくり後ろを振り返ると、そこには涙を流しているルブリオがいた。

 

 ルシアの首筋を、冷たい汗が流れ落ちる。

 ガクガクと震えながら、口を開いた。

 

「あの……どうしてここに?」

「君の作業スピードが遅いと報告を受けてね。それで僕自ら、急かしにきたんだ」

「……そうなんですね」

「ルシア。君はずっと僕を騙していたのかい?」

「いや……それは」


 言葉が詰まってしまう。

 ごまかさなきゃいけないのに、焦るあまりなにも浮かんでこない。

 

「おかしいと思っていたんだ。ルシアがいるのに、この国の状況はどんどん悪くなっていく。でも、大聖女の加護が嘘だったとすれば説明がつく」


(最悪だわ!)


 ルブリオは真相に気が付いてしまった。

 言い逃れしようとしても、もう難しいだろう。

 

 こうなったらもう、できることは一つだけしかない。

 

 ルシアは出口へ向かって走り出した。

 

 とにかく今はもう、ここを逃げるしかない。

 あとのことを考えるのはそれからだ。

 

 しかし。

 

「あっ」


 ルシアはすぐにつまずいてしまった。

 しかも足を強くひねってしまったせいで、うまく立ち上がれない。

 

 ルブリオが冷たい眼で見下してきた。


「ルシア・リシューム。君には罪人として裁きを受けてもらう。第一王子である僕を騙していた罪は重いぞ。死刑も覚悟するんだね」

「そんな! どうかご慈悲を!」


 そんなの絶対にゴメンだ。

 黄色の瞳から涙を流し、必死になって声を上げる。

 

 でも、ルブリオは応えてくれなかった。

 無視されてしまっている。

 

 ルブリオが隣へ体を向けた。

 そこにはルブリオの側近がいた。

 

「ルシアの身柄を収容所へ引き渡してこい」


 そう言って、ルブリオは部屋を背中を向けた。

 ドアの方へ向かって足を動かしていく。

 

「どうかお待ちを! 私たち、あんなに愛し合っていたではないですか!」


 遠ざかっていくルブリオの背中に叫ぶ。

 しかしルブリオは振り返ることなく、部屋から出ていってしまった。

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