【19話】アディールと街へお買い物
買い物を終えて、二人はアクセサリーショップを出た。
再び横並びになって、街を歩いていく。
「他に欲しいものはあるか? ドレスでも宝石でもなんでも言ってくれ」
「いえ、ネックレスを買っていただけで十分です」
これ以上あんな甘い言葉を言われたら、どうにかなってしまう。
もうお腹いっぱいだった。
「……そうか」
アディール声のトーンがガクッと落ちる。
露骨に残念がっていた。
「これではアピールが足りないのでは」
ボソッとアディールが呟いた。
(アピールってなんのことかしら?)
オフェリアが心に浮かんだ疑問を聞こうとした、そのとき。
オフェリアの正面から歩いてきた屈強な体つきの男性が、すれ違いざまにグラっとよろめいた。
二人の肩が軽くぶつかってしまう。
「申し訳ございません」
オフェリアはすぐに頭を下げた。
しかし男性は、
「ふざけんじゃねえぞ!」
激怒。
許してくれない。
「いってぇ……これは肩にヒビが入ったな。慰謝料払ってもらおうか!」
「そんな……! 軽くぶつかっただけですよ!」
「あぁん!? 俺の言い分にケチ付けるってのかよ!」
男性が大声を張り上げる。
オフェリアを強く睨みつけてきた。
「いいから金だ! つべこべ言わずにとっとと払えよ!」
丸太のように太い腕が、オフェリアの肩へ伸びてくる。
突然伸ばされた太い腕は恐怖でしかない。
怖くなったオフェリアは、反射的に瞳をつぶってしまった。
「薄汚い手で彼女に触るな」
しかし、その腕がオフェリアに届くことはなかった。
閉じていた瞳を開けば、丸太のような腕はオフェリアのすぐ手前でとまっていた。
アディールが横から手を伸ばし、男性の腕を掴んでくれていた。
「なにすんだてめぇ! とっとと離せ!」
男性は腕を振るが、まったく動かない。
ぶんぶんと強く振ってみるも、結果は同じ。少しも動かなかった。
アディールの力は、屈強な男性を遥かに上回っていた。
「彼女は俺とって大事な人だ。傷つけさせない」
アディールが握る力を強めた。
雰囲気は鋭く尖っている。
静かながらもその雰囲気には、殺気が混じっていた。
男性の表情が恐怖に染まっていく。
「いてぇ! 頼むからもうやめてくれ!!」
「二度と俺たちの前に現れるな。それを約束するなら離してやろう」
「わかった! 約束する!」
男性が叫ぶ。
あまりの痛みに耐えきれず、涙を流していた。
頷いたアディールが、男性の手を離す。
急いで背中を向けた男性は一目散に逃げ去っていった。
「オフェリア、ケガはないか?」
「ひゃ、ひゃいっ!」
裏返った声を上げてしまう。
返事がうまくできなかった。
男性に襲われそうになった恐怖が残っているのではない。
もっと別の理由だ。
俺にとって大事な人――アディールにそう言ってもらえたことが嬉しかった。
大切にされているということが、痛いくらいに伝わってきた。
熱い気持ちが胸の奥から溢れてとまらない。
(私、アディール様のことが好きなんだ)
以前から、アディールのことは素敵だと思っていた。
そしてその気持ちが限界まで高まったことで、オフェリアは自らの気持ちを自覚した。
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