第12話:義弟ハンス2
「それでハンス、お屋敷を燃やしたものは何なんだい」
ハンスはよくぞ聞いてくれたという顔で答えた。
満面の笑みだった。とっても楽しそうだった。おいおい屋敷燃やしたのに、この笑顔かよ。俺はちょっとあきれたぞ。
「それがですね、錬金術師とも相談して作ったんですが、硫黄、木炭、窒素肥料、油を混ぜたものに、火をつけたんです。そしたら予想以上に燃え上がりましてねえ」
それ火薬にあと一歩だぞ、本当にすごく危ない奴なんだな。この世界に火薬はまだ早い。人権も確立していない、戦闘員と民間人の境界もあいまいだ、そこに爆発物を導入したら、本当に悲惨なことになる、こいつの才能は危ない、少し抑えなければならないなあ。
「それを屋敷の中で燃やしたと」
「はい」
「アルキメドロスの火を家の中で燃やしてどうして無事にすむと思ったんだ」
「まだ、試作品ですから」
ハンスは全く悪びれず答えた。ぜんぜん悪いと思っていない。俺は頭を抱えた、危機管理が全くできていない。
「よくケガしなかったな」
「ええ、運はいいんです」
運でかたずけるか。これは根本的に問題があるな。このままではどこかで大変なんことになるぞ。
「安全管理を徹底しろ、じゃないと研究させない」
「えーそんな」
「そんなじゃねえ、アルキメドロスの火を研究するときの安全策を文書にして提出
しろ、俺がそれを見て、合格を出さない限り研究は不可だ」
「エー面倒な」
「そこを面倒と考えるなら研究は諦めろ。あんたに怪我されたり、ましてや死んだりしたら、こっちが困るんだよ」
「安全対策もせず、そんなことしてたの」
ユングが愕然とした顔でいった。いや、あんたその時屋敷に居たんだろう。知らなかったんかい。だいたい火事になってる時点で察しろよ。
「それは絶対無理よ、ヨハンの言うとおりにしなさい、これは姉としての命令です」
なんか自分は全く関係ないという風にユングが命令した。本当に知らなかったんかい。
「わかりましたー」俺とユングに怒られ、やっとハンスは納得したようだ。
「それでヨハン、他には何を作ったんだ」
「投石器を作りました」
すんごく目を輝かせながら、ハンスがいった。もう立ち直ってやがる。
「で、それはどうだったんだ」
「木でできた全体がしゃもじ型をした部分が投石器の主体となります、それの中央に軸を置き、車台の軸受けに固定します。下部の大きく広がった部分の端は歯車になっていて、それを巻き上げた状態にして固定します。反対の端に縄をつけ、その先に籠をつけ、そこに石を置きます。そして支えを外すと、しゃもじが元の位置に戻ろうとしますので、その反動で石が飛びます」
「なんかさっぱり分からんが」
「言葉で理解するのが難しいかもしれません、これが絵図です」
「あーなるほどこうなっているのか。なんか役に立ちそうなんだが」
「一応石は飛ばせます。しかし、石の大きさや、重さが一定ではないため、目指すところに当てるのが難しいいんです。広い城壁なんかに当てるのはいいんでしょうけど」
「城攻めには使えるか」
「それから、とんでもなく重いです。輸送が大変です」
「無理かな、うーんじゃあ何か使えそうなものを考えてくれ」
その後俺は、安全管理の計画書を3回却下した後に、承認した。
「シュバルツ様から書状が届いた」
俺のまえには、リュウ、フィヨルドがいた。
「何が書かれていたんです」
「冬用の軍服、冬季用天幕が六千人分、それに見合うキッチンカーをこの冬までに用意せよとのことだ。もちろん費用は全額用意するそうだ」
「これは、何かありますね」
「どうみても冬季に戦争するつもりだろう」
「この間の戦でシュバルツ様が何か作戦を思いついたんですかね」
「わざわざ冬に戦しなくてもいいのにな」
「この前の戦の仕返しかも」
「六千人分は大量です、領内の工房全てを使って突貫作業をしませんと間に合いません」フィヨルドが憂い顔で割って入った。
「その通りだな、頼めるか、これはこの領地の利益にもなる。あるだけの毛皮、羊毛を出してよい。報酬は出すので、手の空いている人を大量に集めるのだ」
「即刻手配いたします」フィヨルドが一礼して退席した。
「何が起こるんだろうな」俺はため息をついていった。
この時点ではまさかあんなことになるなんて予想もつかなかった。