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『ENDガール』番外編  作者: 源 蛍
3/6

F・L(3)

「はぁ……」


 電気もつけず、薄暗い特注の教室でフェリンは深く、溜め息を零す。先ほどクイスに放った言葉に罪悪感を抱き、陰鬱な気持ちになっていた。

 フェリンは決して間違ったことは言っておらず、たとえクイスと結ばれたとしても、幸福は一瞬で失われてしまう。高校を卒業するまでに災厄と心中するのだから、それは避けられない未来だ。

 だが、自分を好いてくれる人間を突き放すのは、偽りなく辛く悲しいことなのだ。


「……違う。私は本当は、独りでいたくない……」


 幼き頃、離れ離れになった両親を思い出す。


 二人はフェリンのことを、とても大切に想っていた。あまり感情的にならない彼女を心配し、代わりに目いっぱい甘やかしてあげよう……と、常にサプライズなどを考えていたり。

 決して泣いたり、怒ったりすることのなかったフェリンだが、二人の優しさに触れて行くことで、笑顔だけは表に出すようになっていった。


 ──フェリンが小学二年生に上がる頃、別れは唐突に訪れることとなった。

 守神の存在を気に食わないとする、同世代の災厄・『祀威滝イリア』から人知れず放たれた攻撃により、両親が大怪我を負ってしまう。

 その頃フェリンは小学校で授業を受けていたのだが、母は火事に巻き込まれ、父は電車の事故に遭い、致命的な重症を負った。当時のフェリンは守神として覚醒しておらず、その存在すら知らなかったため、不運だと思い込んでいる。


 そして両親はまともに立つことも叶わなくなったため、現在までずっと、介護センターで暮らしているのだ。


「私だって、独りは寂しい。けど、独りの方が苦しまずに済む……最期に悲しむことなんて……」


 フェリンは言葉を言い切れず、窓に目を向けた。

 ──そして、絶句する。


「……っ」


 ()()()()()、ようやく激しくなる鼓動。これほどまでに接近されなければ、その姿を見なければ、反応することも出来ないなんて……と、悔しくなった。

 窓に反射したその、不敵な笑み。フェリンは意を決して、感情を振り切るように()()の方を向いた。


「守神と違って、感知は出来ないのね……っ!」


 完全に敵意剥き出しのフェリン。本心は取り乱している彼女の心境を見抜いたのか、その少女は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。


「それはそれは、いいことを聞いた。闇討ちでもしたら我々の勝利だな……と言いたいが、何故かな。それは許されないみたいだ」


 女性にしては低い声で、余裕を露わにする少女。瞳は血のように赤く、肩まで伸びた髪は艶の目立つ漆黒。青白い肌は、本当に生きているのかを疑いたくなるほどだ。



「『御霊(みたま)ヴェル』──災厄の一人ね」



 守神と災厄は、世代毎にではあるものの、面識はなくても生まれた時から互いを知っている。名前も、相手が守神なのか災厄なのかも。

 簡単に言えば、直感で分かる感じだ。初対面であれ、()()()()()()()()のだ。

 ヴェルはニッと口角を上げると、ポツンと置かれた机に腰をかける。


「ご明答。君は唖杉フェリンだね、当然知っているよ。生まれた時からね」


「そこはお互い様よ。それより、一つ確認をしたいのだけど、いい?」


「どうぞ?」


 小馬鹿にした様子のヴェルに若干の恐怖を感じながら、フェリンはモバイルを操作。鳩の時にも使用した、刀を右手に出現させる。


「わざわざ私の前に現れたということは、封印されに来たってことよね?」


 殺意を込めた威圧的な目で、ヴェルに剣先を向けた。しかしヴェルは、微塵も臆せずにクスクスと楽しげな笑い方をする。


「いいや、違うな」


 机から、ヴェルは跳ぶように立ち上がる。パーカーのポケットに手を突っ込んだまま、フェリンの目と目を合わせる。

 そして、微笑む。決して優しくない笑みで、フェリンのメンタルを刺激する。


「私は君が目障りだ。せっかく生まれさせてあげた可愛い可愛い災厄(子供達)を、一瞬にして片付けてしまうのだからな」


「……それが私達守神の使命。災厄は、全て防ぐわ」


 言いながらも、フェリンはツナを思い浮かべる。唯一、消滅させていない災厄を。

 そしてまたしてもヴェルは、フェリンの心を見透かしたように、鼻で笑った。

 呆れか。バカにしているのか……そんな表情で。


「我々災厄にも使命がある。人間を苦しめるという使命がな」


「貴女達の運命は決まってる。守神と共に封印されることよ」


「不公平なものだ、守神は災厄に絶対負けない……なんてルールは」


「そうね。分かっているなら、大人しく心中でもする……?」


「ハッ……」


 苛立つヴェルの、深紅の瞳がフェリンを捉える。心臓を鷲掴みにされるような恐ろしい感覚が、強制的に流れ込んで来る。

 ヴェルから次の言葉が飛び出す前に、フェリンは刀を振り上げた。



「──ごめんだね」


「……っ!!」



 ──窓ガラスが割れ、ヴェルを守るように突風が吹く。フェリンを吹き飛ばすほどの、強烈な風だ。


「あくまで抵抗するつもりね……!」


 壁に衝突するのを脚で防ぎ、直ぐに刀を構える。フェリンの瞳には、先程までのヴェルの姿は映らない。


 皮膚は焼け爛れているようにゴツゴツしていて、上半身はほぼ露出。背中からは真っ黒で大きな翼が生えた──悪魔を彷彿とさせる姿。

 ヴェルは笑うのではなく、射殺すような目をフェリンに向けた。


「死んでもらうよ、守神」

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