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『ENDガール』番外編  作者: 源 蛍
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F・L(4)

 ──守神は災厄を相手に、絶対に負けない。


 そんなルールが、この世には定まっている。災厄の力は守神の力を上回ることがないからだ。

 ただそれでも、例外は存在する。


 災厄が一切の容赦を捨て、矢継ぎ早に災いを呼び込む。そしてそれを、守神が防ぎ切れないというケースだ。

 史上にない事態だが、現状ないというだけで、有り得ない話ではない。

 守神も超常的な人間だが、災厄は最早、人とは呼べない性質だからだ。


「これまで生まれた災厄達は生温い。私は、守神を葬り世を混乱で溢れさせることが、災厄の悦び。そして愉しみであると考える」


 ヴェルの瞳が、熱を帯びたように揺らめく。

 ──直後、大きな振動が校舎に襲いかかった。


「……っ!」


「それなのに誰も守神が死なないなんて、詰まらないだろう? 結果的には人間が歓ぶなんて、少しも愉しくないだろう?」


「それは貴女達災厄だけが感じる不快。貴女達五人を除けば、世界中の人々が望む結末よ……!」


 大地震を思わせる、バランスの取れない揺れ。その中で、フェリンだけはピタリと身体を止める。

 フェリンはまだ、成長途中の守神だ。この揺れ自体を止めることは不可能。自分のみに、守神の力を纏う。


「……その結末が面白くないと言っているんだ……っ!!」


「……っ!?」


 ヴェルが怒声を上げ、その合図で砂嵐が巻き起こる。激しい風が教室の中で循環し、荒れた砂漠のような空間になった。

 砂が入らぬよう瞼を閉じ、再び、フェリンは刀を構える。


「生物じゃない災厄も呼べたのね、ヴェル」


 ──下から上に切り上げられると、そこを中心に砂が弾け飛んだ。視えない竜巻が発生したかのように、壁に打ち付けられていく。


「もう少し力をつけてから、私に挑むべきだったんじゃない……? 未熟な災厄さん」


「生憎、災厄に一人前と呼べる時期はない。誰もその域まで達したことがないのだから、不明なんだよ。つまり、使い方次第で……いつでも一人前となれるってことだ……!」


 ヴェルが大きく、翼を開く。何が来てもいいように、フェリンは刀に力を込めた。


「ふざけた理論ね。そういうことなら、『一生未熟』でいいと思うけど」


 ボソッと侮辱。振動もあってか、ヴェルには聞こえていないみたいだ。


「お望みの生物型を呼んでやろう。期待外れな動きは見せてくれるな?」


「誰も望んでいないけど」


 溜め息を零すフェリンに向かって、ヴェルは大きく羽ばたく。浮遊感を覚えたフェリンは、咄嗟に身体を丸めた。


「……」


 次の瞬間視界に入ったのは、黒く濁った空。まるでこの戦いを印象付けるためかのように、雲が覆っている。

 ──外に投げ出された。三階からの落下は、流石に耐えられない。


「本当なら落雷を突き刺すところだが、私はそこまで鬼じゃない…………ワニに食われて死んでしまえ!」


 フェリンを追って宙に飛んだヴェルの掛け声で、嫌な感覚がグラウンドから溢れ出す。

 放り出された状態のフェリンは、横目で下を確認した。数十にも及ぶワニの大群が、フェリンを目掛けて口を開けている。

 恐ろしい光景ではあるが、少しマヌケだ。


「趣味が悪いわね。人間が捕食される場面なんかの何が面白いの」


 受身を取る様子もなく、フェリンは落下して行く。群がるワニの中心へと、力なく降って行き──


「食べられて死ぬのも、転落死するのもごめんよ」


 ──ワニ達を弾き飛ばして着地した。鳩にも使用していた、視えない壁を自分の周囲に展開したのだ。

 そして、直ぐに刀で斬り倒して行く。おぞましい程の数を物ともしないフェリンを、ヴェルは上空から黙って見つめる。


「……これで片付いたかな」


 ふぅ、と額の汗を拭ったフェリンは、再びヴェルに剣先を向けた。疲労はポーカーフェイスで隠し、余裕の表情を見せつける。


「守神はいかなる災厄にも対処出来るよう、過酷な訓練を熟しているの。分かった……? 何をしようと無駄だってこと」


「何をしようと無駄……か。確かに、そうみたいだね。災厄では守神を殺すことは叶わない……か」


「ええ、だから大人しく封印されなさい」


 ガッカリといった様子のヴェルに、フェリンは目を向けない。その背後にある校舎を、気づかれないように確認していた。

 大きな揺れがあったから、全員異変を感じ取れたのだろう。フェリン対ヴェルの様子を、教師も生徒も窓越しに観戦している。

 この状況を知ったからこそ、フェリンは少し胸が苦しくなった。


「……っ」


 きっと、誰もがフェリンの勝利を願っている。

 誰もが、ヴェルが封印されることを祈っている。

 しかしそれは、フェリンが消滅することを望んでいるのと、同じことなのだ。


「分かってる……私だって、皆のために災厄を封印したいの。たとえ二度と、この世に戻ることが叶わなくても……それが、使命だから……っ」


 今になって、怖くなってしまった。手も足も震え、好機であるのに神力を解放出来ない。封印する、決心がつかない。

 フェリンはまだ、十五年しか生きていないのだ。

 自分が普通の人間であったならば、まだまだ、やれることはあった筈の人生。守神ならそれが、長くても残り三年で終わる。

 フェリンの場合はたった今、その終わりが訪れているのだ。



「──唖杉さん!!」



 不安と悲しみに意識を奪われていたフェリンを、馴染みのある声が呼んだ。

 現実へと引き戻されたフェリンと、それを見下ろしていたヴェル。観戦者達も、その声の主へと視線を移した。


「紐滝……くん?」


 一人外に飛び出して来た、クイスだった。

 ヴェルを恐れている様子ではあるものの、真っ直ぐにフェリンの目を見る。


「正直今、こんな状況で僕なんかが何て声をかけていいのか、全く分からないけど……」


「紐滝くん、危ないから……戻って……!」


「唖杉さん、無理しないでいいからね!? まだ時間はあるんだから、今直ぐじゃなくていいよ!」


「──え?」


 クイスの叫びに、フェリンの思考が一瞬止まった。それと同時に、手足の震えも治まる。


「皆は多分、早く封印しろとか言うかも知れないけど、別にあと三年生きたっていいじゃん! ね……? 唖杉さん、ここで一旦退けるだけでいいから、もっと生きて……?」


 必死に訴えるクイスに向けて、全校生徒が声を上げる。窓越しだが、フェリンはそんな状況を簡単に察せた。

 当たり前だ。誰もそんな結末を望んでいない。フェリン一人いなくなるだけで、災厄も一人消せるのだから。

 その主張は、誰も許してはくれない。


 ──それでも、フェリンにとってその言葉は、心の底から嬉しかった。


「紐滝くん……」


「──ああ、なるほど」


「……っ!!」


 クイスをじっと睨みつけていたヴェルが、邪悪な笑みを浮かべる。

 フェリンは直ぐに、彼女が考えていることを悟った。


「御霊ヴェル……」


()()()()()もありだな」


 ニタァっと笑ったヴェルがクイスに掌を向けた時には、フェリンは既に駆け出していた。


「やめて──っ!!」

次回、フェリン編完結です!

……フェリンだけではないのですが、何か、よく考えるとバッドエンドかなって、思ってしまいました。(守神の『最期』という点で)

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