指南
幾日も過ぎ、壱達は後から旅立った仲間との合流に成功する。
『今宵はこの辺りで野営でもしよう。』
壱の一言で各々が準備を始める。
『あ、私と庵で薬草でも探してくるから。ついでに夕餉に使えそうな食材も。』
『二人で行くのか?』
『竜臣殿、大丈夫ですよ。海紗と私は柔ではありませんから。』
海紗と庵が食材を探しに行った後、嶺と駿は壱と崇に稽古による指南を受けていた。
水鵺は黙って4人を眺めているのみ。
『純血だろうが、俺は貴様を倒す!』
『寝言は寝てからほざけ。』
嶺と壱は穏やかな指南光景だったのだが、駿と崇は雲行きが怪しい指南光景である。
水と油の関係なのであろうか。暴言も交えつつ、激化してゆく戦術の数々。
溜め息を零したのは水鵺。
『水鵺、俺と手合わせしてくれないか?』
突然の事に驚く彼。
『おい、水鵺との手合わせなど認めないからな。』
怒ったのは崇。
『おやおや、水鵺に手合わせを?』
微笑む壱に嶺は悪寒が走るが何も言わなかった。
当の本人は珍しく数センチ、口角を吊り上げる。
その表情を見逃さない崇と壱は、溜め息を静かにひとつ吐く。
『私はあんまり戦いを好みませんー…』
赤紫色の双眸にドキリとした駿。
このドキリ、は決して恋愛感情ではない。
『えっ……』
『…ですが、この先の戦闘を考えると、軟弱では困りますね。』
目の前に居たはずの者が、一瞬で真後ろへ。
氷のように洗練された冷ややかな空気を纏う彼に同様する駿。
その姿を見ていた嶺も同じく、唖然とする。
『水鵺は戦いを好まないだけで、ひ弱な訳ではないんだよ。』
『そうなのですか?』
『あまり本気を出さないがな。駿を不憫に思うが、自業自得か。』
二人の戦闘を観戦する中で、話を進める。
一方的過ぎて見て居られない状況。
駿が上空へと、神通力で吹き飛ばされる。
既に意識が無い彼に容赦がない。
『今日はこれで終わりですねー…』
赤紫色の瞳が光ると、駿の身体を光が包み込む。
至る所にあったはずの傷が消えて行く。
『どこかの誰かさんと違って、強いんだね~流石は水鵺だよね!』
『確かに莉咲の言う通りだな。役立たず…』
小馬鹿にした口調。
『五月蝿い!悠と莉咲は黙ってろ。』
プンプン湯気を出しながら、怒る駿に油を注ぐふたり。
『黙って聞いていれば、好き勝手言いやがって。』
『黙ってないじゃん。』
莉咲の突っ込みが入ると、きわどい表情をする。
『それは…』
『大丈夫ですよ。彼は人間にしては柔ではないですから。』
『いつかは水鵺を倒してみせるさ。』
意気込む彼に、鼻で笑うは崇。
『あぁ、水鵺を倒せないようでは俺など無理だな。』
『確かに、私でも崇には適わないですからね…』
『嘘だろ!?お前って水鵺より強いのか?信じられない。』
『いいや、彼は私よりも強い。本気など出されては一溜まりもないですよ。』
『それに戦闘においての水鵺の師範でもあったのは彼だったからな。』
衝撃を受ける面々。
『そうですね。彼のおかげで今の私があるのも事実ですから。崇は強いですよ?』
『俺もう一度、水鵺と手合わせしたいなぁ。今の話を聞いて余計に戦いたくなったし!』
『今日は水鵺との手合わせは駄目だ。』
懇願する駿に、闇属性を含ませた鋭利な刃物を投げつけ、切り捨てる。
『げっ、今の本気で俺を狙った!?』
『良いから、今日は寝ろ。それか嶺と手合わせでもしていろ。』
半ば強制的に稽古を終了させる崇に腹を立てる駿。
『それにしてもふたりは遅いですね。』
嶺が心配そうに呟く。
『何かあったのかも知れない。私が様子をー…』
『水鵺は休んでいて!私と悠で探してくるから。』
残った面々は黙って夜空を見上げた。
胸騒ぎがするのを、堪え庵達の帰りを待つ。




