覚悟
『俺は……』
呆然とし、言葉を失う彼に誰も声をかけれずにいた。
『俺が、水鵺を殺した……のか……。』
両手に残る鉄の臭いが鼻についた。仄かに薔薇の香りも混じる。
蓮王の気配が消えた後に真夜と共に駆けつけた壱。
『父王に殺られたのか。だが、お前の責任ではない。』
何の返答もせずに俯く彼に壱がため息をつく。
『ならば、お前が弱いから彼女を護れなかった迄だ。』
壱の言葉に嵩の瞳から涙が流れ落ちた。
『暗示に何ぞかかり、挙げ句にお前は欲望のままに彼女を貪り尽くして、弱らせた。そして鎖でつなぎ止めて苦しませた。最期は盾として死なせたのだろう。何を泣く事がある?』
嵩の胸元の衣をつかみ上げる。そして容赦なく頬を殴った。
殴られても反撃をしない嵩。
『すまない……』
『誰に対しての謝罪だ。謝るべきは彼女にだろ!』
怒りを露にする。壱にとっては珍しい事であった。
『嵩、此処で嘆いている場合ではありません。私は貴方に力をお貸し致しますわ。ですから彼女を蓮王様から取り戻すのです。貴方の婚約者として、我が家の名にかけて誓いますわ……。』
『真夜……?』
『この戦いを終える迄は婚約破棄出来ませんので、最後に貴方の婚約者として恥じない生き方をさせて下さいませ。私は私がした事の代償を自ら償いますわ。』
微笑む真夜。
『嵩、これは俺の予測にしか過ぎないが水鵺と殺し合いは出来るか?』
『壱、それはどういう意味だ……』
『父王が連れて行ったのは、水鵺を蘇生させる為だ。蘇生された死人は傀儡でしかない。傀儡である彼女は間違えなく敵となるだろう。嵩、お前は戦う覚悟は出来ているか?』
壱は予測を話した。嵩には命を無駄にする生き方をさせたくないが為に。水鵺ならそう願う筈だろうと。
『俺の婚約者だったから解る。水鵺ならお前に生きて欲しいと願う。そしてそんな表情をさせたくはないだろう。』
『あぁ……俺は戦うさ。』
嵩は思う。彼女の亡骸であろうと彼女を取り戻したい。
彼女は誰よりも争いを好まず、殺生を哀しんでいた。だからこそそんな彼女が他者を傷付けてはならない。それは彼女自身が一番、望んでいない事。
『水鵺、君を想う……永久に。そして願おう、安息を。だからこそ、戦おう………君を我が手に取り戻すが為に。』
闘う覚悟が出来たと云わんばかりに、目を開く。その瞳には強い光が宿っているかのようである。
そんな嵩の様子を見て壱は軽く頷いた。




