涙
暗雲立ち込める城の前には、壱の一行の影。
『やっとこの城に到着だね!』
『海紗はいつも元気だな。そういう性格が好きなんだけどさ。』
『また冗談ばっかり。』
しれっと駿が告白染みた事を云うも、淡白な反応をする海紗。
仕方がない事だが、駿は結構なプレイボーイでもあるのだ。自業自得だとその場にいる仲間は心の内で悟る。
『僕が思うに冗談は顔だけにしておくべきですね。』
『確かに……』
嶺と庵は有りのままの意見を述べる。
『さて、気を引き締めて先に進もう。警戒は怠るな。』
壱の言葉に各々(おのおの)が頷く。
『二人は無事かな?』
『どうだろうか。何も無ければ良いが。』
莉咲の呟きに、壱が返答した。
城門には見張りの兵は居なく、城内を暫く歩くも人の気配が全くしない。静寂が辺りを包んでいるようだ。
『不法侵入も大概にして頂きたいですわ。幾ら王子と云えども許されませんわよ?』
突然の見に覚えのある声に壱達は構えた。仮面を付けた魔族の女が姿を現す。
『真夜、仮面を外したらどうだ?』
『壱。やはり気付いていましたのね。』
『当たり前だ!』
珍しく壱の声色が変わる。
『俺とお前は兄弟の如く育った仲だ。気付かないなど、そんな腑抜けではないぞ。』
『壱……』
『悠、皆を連れて嵩を探せ。水鵺も見付かるはずだ。早く行け!俺は真夜と話してから行く。』
壱の覇気に、真夜は何も出来ないまま悠達を見送る形となる。
『壱、私には話す事などありませんわ。』
悠を追いかけようとする真夜の手首を掴む壱。
『真夜、俺にはあるんだ。もう罪を重ねてはならない。まだ引き返せるから、戻るんだ……。』
『貴方に云われる筋違いはな……!』
突然、壱が手首を自分側へと引き寄せた為に彼女は足が縺れて倒れ混みそうになる。そんな彼女を支える壱。
『真夜。』
名前を呼ばれて真夜は壱を見つめた。壱の真摯な眼差しに時が止まる。
『真夜、俺は君が苦しむ姿を望んでいないんだ。君が幸せなら、それで構わない。だから今からでも正すんだ。魔族の純血に恥じない生き方をしよう……』
『壱、どうして私にそれを云うの……?』
真夜の翡翠色の瞳からは大粒の涙が零れ溢れ出す。
『分かっている。それ以上は云わなくて良い。本当はただ見守っているだけにしようと思っていたんだ。愛しい娘の恋路が辛そうだったものだから、馬に蹴られようかとね。』
遠回しな壱の告白に真夜が目を見開いた。真夜が心の底から欲しいと願う言葉を壱が贈っている。本当は嵩の口から聞きたかった台詞。嵩から愛されたかった彼女。
『蓮王が約束をして下さったの。嵩の心を……。』
ぽつりと呟く彼女。
『でも心は簡単には束縛出来ないのね。ごめんなさい、壱。』
声を殺して涙を流す姿が痛々しく感じる壱。