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好きなら、言ってよ。  作者: ともり。


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# 第四話 名前

# 第四話 名前


「おはようございます」


朝のフロアへ入った瞬間、にちかは少しだけ視線を巡らせた。


まだ始業十分前。


社員は半分くらいしか来ていない。


その中に、探している姿を見つける。


かずま。


席に座ったまま、眠そうにコーヒーを飲んでいた。


その姿を見ただけで、少し安心してしまう。


自分でも単純だと思う。


「お、にちか」


かずまが気づいて手を上げた。


「おはよ」


「……おはようございます」


「また敬語」


「会社なので」


「二人しかいないじゃん」


言われて、にちかは少しだけ周囲を見る。


確かに、近くには誰もいなかった。


でも、会社は会社だ。


気を抜くと、変な顔をしてしまいそうで怖い。


「にちかってさ」


かずまが椅子をくるりと回す。


「俺のこと、全然名前で呼ばないよな」


「……呼んでますよ」


「苗字じゃん」


図星だった。


かずま。


名前を口にするだけで、妙に特別な感じがしてしまう。


だから避けていた。


「別に、普通じゃないですか」


「え〜?」


かずまは不満そうに頬杖をつく。


「俺は、にちかって呼んでるのに」


その声が少しだけ甘く聞こえて、にちかは視線を逸らした。


そんなふうに名前を呼ばれるたび、心臓が落ち着かなくなる。


「……慣れてないので」


小さく言うと、かずまが首を傾げた。


「何に?」


「……名前呼び」


「ふーん」


かずまは数秒考えたあと、急に笑った。


「じゃ、練習する?」


「は?」


「俺のこと、名前で呼んでみて」


無理だ。


無理に決まってる。


そんなの、好きって言うより恥ずかしい。


「……嫌です」


「なんでだよ」


「無理なので」


かずまはしばらく笑っていたが、やがて小さく息を吐いた。


「にちかって、ほんと逃げるよな」


その言葉に、胸がざわつく。


逃げている。


それは、多分その通りだった。


好きだと気づかれたくない。


でも、嫌われたくもない。


だから、近づいては離れてを繰り返している。


かずまはそんなにちかを見ながら、ぽつりと呟いた。


「俺はもっと近くなりたいんだけどな」


心臓が、強く跳ねる。


でも。


その言葉に返事をする勇気は、まだなかった。


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