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好きなら、言ってよ。  作者: ともり。


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# 第十四話 このままで

# 第十四話 このままで


雨だった。


昼過ぎから降り始めた雨は、帰る頃には本降りになっていた。


「うわ、最悪」


会社の入口で、かずまが外を見ながら呟く。


「傘持ってない」


「……天気予報見ないんですか」


「見た。忘れた」


にちかは少しだけ笑ってしまう。


すると、かずまがすぐこちらを見る。


「今笑った」


「笑ってません」


「いや絶対笑った」


そんなやり取りが、最近は少し苦しい。


楽しい。


でも苦しい。


かずまの言葉一つで浮かれて、期待して、怖くなる。


その繰り返しだった。


 


「にちか、傘ある?」


「ありますけど」


「入れて」


当然みたいに言う。


断れるわけがない。


 


外へ出ると、雨音が思ったより大きかった。


一本の傘。


肩が触れそうなくらい近い。


かずまは昔から距離が近い。


でも今日は、それを強く意識してしまう。


「……近いです」


「傘小さいから仕方ないじゃん」


そう言いながら、かずまは少しだけにちか側へ寄った。


心臓がうるさい。


「にちか、体温高くない?」


「知りません」


「緊張してる?」


図星すぎて黙る。


かずまが小さく笑った。


「最近ほんとわかりやすい」


その声が優しくて、余計に苦しい。


 


駅までの道。


二人とも、しばらく無言だった。


でも不思議と嫌じゃない。


むしろ、この時間が終わってほしくなかった。


すると。


「……俺さ」


かずまがぽつりと口を開く。


雨音に混ざるくらい、小さな声だった。


「このままでもいいのかなって、最近ちょっと思ってる」


胸がざわつく。


「え……」


「いや、だって」


かずまは苦笑した。


「にちか、怖がってるじゃん」


何も言えない。


その通りだった。


「俺、もっと近づきたいけど」


「それでにちかが苦しくなるなら、今のままの方がいいのかなって」


その言葉が、胸へ刺さる。


優しい。


優しすぎる。


だからダメなんだ。


その優しさに甘えてしまう。


今のままでも、かずまは隣にいてくれる。


だから、言えない。


言って壊れるくらいなら、このままがいい。


そんな自分が、ひどくずるいと思った。


「……ごめんなさい」


また謝ってしまう。


かずまは少し黙ったあと、小さく笑う。


「ほんと、そればっか」


その笑顔は優しかった。


でも。


少しだけ、諦めているようにも見えた。


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