# 第十二話 好きなやつ
# 第十二話 好きなやつ
「好きなやつに嫉妬されるの、普通に嬉しいんだな」
その言葉が、頭の中で何度も響いていた。
真っ白になる。
呼吸の仕方までわからなくなる。
かずまは、今なんて言った?
好きなやつ?
それって。
それって――。
「……っ」
にちかは慌てて視線を逸らした。
無理だ。
顔なんて見れない。
心臓がうるさすぎる。
すると隣で、かずまが小さく笑った。
「そんな動揺する?」
「……し、しますよ」
声が震える。
かずまは少しだけ困ったように頬を掻いた。
「まあ、俺も結構勢いで言った」
勢い。
その言葉に、少しだけ安心してしまう自分がいる。
冗談だったのかもしれない。
勘違いじゃないかもしれない。
期待と不安がぐちゃぐちゃになる。
「……仕事戻ります」
逃げるみたいにパソコンへ向かう。
すると。
「にちか」
低い声で名前を呼ばれた。
その声だけで、体が止まる。
「逃げんなって」
優しい声だった。
責めるでもなく、怒るでもなく。
ただ、少しだけ寂しそうだった。
にちかはゆっくり振り返く。
かずまが真っ直ぐこちらを見ていた。
「俺さ」
その目が、いつもより真剣で。
にちかは息を飲む。
「わかりやすくしてるつもりなんだけど」
胸が痛い。
そんなの、とっくに気づいていた。
気づいていたから怖かった。
「にちかといると落ち着くし」
「一緒に帰りたいし」
「LINE来ると嬉しいし」
「他のやつより特別だし」
一つ一つ言葉が落ちるたび、心臓が締め付けられる。
やめてほしい。
そんなふうに言われたら、もう誤魔化せない。
「……なんで」
やっと出た声は、小さかった。
「なんで、そんなこと言うんですか」
かずまは少しだけ目を細めた。
「言わなきゃ伝わんないと思ったから」
その瞬間。
にちかの胸が、強く痛んだ。
言わなきゃ伝わらない。
まるで、自分へ向けられた言葉みたいだった。
でも。
怖い。
今ここで何かを返したら、本当に変わってしまう。
同期じゃいられなくなるかもしれない。
今の関係が壊れるかもしれない。
そう思った瞬間、また喉が閉まる。
「……すみません」
結局、それしか言えなかった。
かずまは数秒黙ったあと、小さく笑った。
でも、その笑顔は少しだけ苦しそうだった。
「ほんと、謝るよな」
その声が、妙に胸へ残った。




