いやいや、ここは現場で戦いの最中ですが?①
サラさん達は翌日昼食をとった後、中央へ帰ることとなった。その前にキーファさんとカイルアさんは海と陸に魔障の巡回スケジュールについて話をしているようだった。
やっぱり海も陸も討伐には参加だそうで、中央の動向を聞くため二人に聞いている模様。
ちなみにサラさんは女子会でテンション上がりお酒を飲み過ぎて二日酔いでダウン中。
海は魔法剣士で中央にいる部隊とは所属が違うそうだ。(あと光の魔力も持っているから、自己申告通り上級神官の資格もあるそう)
海が所属しているのは西方公爵が抱えている騎士団で、長男、次男辺りは自分の出身地に入ることが多く、中央にいるのは希望した者、次男以下の子息が入る。
まあ、後継者が一番稼働率がある中央部隊に所属するのは稀だそうで、例えいたとしても前線には行かせないそうだ。……だよね。跡取り問題があるし。
言い方はそれぞれなんだけど、中央は特殊部隊と派遣部隊。この二つは戦闘部隊ともいう。警ら部隊(警察官みたいなもの)、それを管理、支援しているのが中央文官。その中に法務局みたいなのもあるのだけど、これは神殿が兼ねている。
ラノベによくある中央と神殿の癒着どうのこうのは無い。そもそも王様がいない時点で、王族と神殿癒着なぞ起こりようもない。
民主主義に近い体制なので、起こるとしたら種族争いと、領地戦のような小競合いはある。
それに対し、各領地を治める四方公爵は、土地が広大なため、自領で騎士団を設立し第一から第五と騎士団を分けて、それぞれの治安を守っている。
四方の名を冠する公爵家は自治領となるため、それぞれ統治方法も違ってくる。
例えば、西方の鳥族はその習性柄、自分が作った巣(家)への侵入を過度に嫌う。それに対する暗黙のルールがあるとか。
もともとある公爵邸等ではなく、自力で作り上げた家がそれに該当する。
ま、それぞれ鳥族達は家の大小はあるかもしれないけど、実家以外に自分の別荘を持っている、と言うことだ。本邸には当主と後継者一家が住まい、あとは来客用、その家に仕える者達、騎士団の寮や本部、それに付随するもの等、これに関して四方公爵家は同じような仕様となっている。
本邸の裏には騎士団の宿舎や訓練場等があり、けっこう規模が大きい。
南方公爵邸でも思ったけど、スケールがデカい。
他の公爵邸もそんなんだろうな……と、カルティア様から魔法を習いつつ、思考に耽っていた。
「あらら?ルティアちゃん、考え事かしら?」
「あ、すみません。二人が討伐隊に参加するんだ、とかいろいろ考えちゃって」
含んだ笑いをしたカルティア様は、揃えた指を口元に当てると可愛らしく首を傾げた。
「ルティアちゃんも一緒に行きたいの?」
確かに心配だし、新たな還り人が気になるところだが、今のところ私の治癒力や防御に関する魔力が安定していないので、無謀なことは言えない。
「知ってる人達が行くみたいだから、気になりはするんですけど……」
それにカルティア様は同意するように頷く。
「ふふふ。私は昔婚約者候補時代に、旦那様が心配で討伐隊にこっそり付いていったことがあるのよ」
「えっ!」
「あの頃は若かったわね。孤軍奮闘しているつもりが皆さまにご迷惑をお掛けしちゃって。でもそれから悔しくて情けなくて……。それをきっかけに頑張って魔力操作の鍛練をしたわ」
のほほんと何でもないような言い方をされているが、可憐で小柄なカルティア様からは想像できない行動力だった。
「でね、その後子供達を授かるまで、騎士団と共に現場に居続けることができたのよ」
「……」
驚愕で口がパカッと開いてしまう。
まさかまさかのアグレッシブなカルティア様だった。
でも確かに彼女は魔力操作の教え方がとても上手くて、躓きそうなところを先回りして教えてくれる。どれだけ努力してきたかが分かる繊細さもある。ましてや研鑽を積み重ねた結果、主力の風属性だけでなく土、水の属性も修得していた。
魔力量の問題もあるが、主力の属性から更に増やすにはかなりの鍛練が必要で、カルティア様はもともとそんなに多くなく、中くらいの魔力量だったそうだ。
彼女曰く、根性で練り上げた魔力だと笑って話してくれた。
なんとその出来事が切っ掛けで、ガルレイ様の婚約者筆頭にのしあがり、正式にその立場を手に入れたそうだ。
見た目を裏切る気概と好戦的な女性、カルティア様。
でもガルレイ様を大切に想う力で、自分の限界をも越えて側にいたかったと言う姿がとても素敵だと思った。
「もし行きたいのなら、頑張りましょうね、ルティアちゃん」
にっこりと笑ったカルティア様はちょっと恐い。
そして両手をがっしり掴まれて、こてりと首を傾げてこちらを見る様は端からみると慈愛の笑みだが、私には別ものに見えた。
「えっ」
「大丈夫よ、私に出来たのだもの。ルティアちゃんは魔力量が多いから、いろいろ目覚めさせてあげる」
え?なにを目覚めさせられるの?
という疑問が浮かんだが、目の前にはそれはそれは眩しい程の笑みを浮かべたカルティア様がいる。
そして問答無用で私を鍛える気満々の気迫が。
思わず後退りしてしまいそうになったが、可憐なカルティア様からは到底考えられないような力強さで、その手から逃れることは出来なかった。
その後、ガルレイ様や海、陸に微笑ましく見守られながら、スキル向上という名のスパルタがカルティア様主導のもと私に課せられたのだった。
何故、三人に微笑ましく見られてたのか後で聞いてみると、鍛えがいのある子を見つけるとスイッチが入るそうで、そうなったら誰にも止められないそうだ。
だが、実際カルティア様からの洗礼を受けた子供達は実力が上がったそうで、指導者としては有能と言われているそうだ。人は見かけによらないよね。
それからサラさんがうるうるした目でここから去ることに対し名残惜しそうにしていたが(よっぽどカリンさんが苦手らしい)、討伐隊の準備もありキーファさん達はその日の昼過ぎ帰っていった。
その時、キーファさんから言われた言葉があった。
「あのカリンって子に気をつけてね」
目を細め笑いながらそう私に耳元で囁くと、初めて会った時のチャラそうな雰囲気で手を振りながら去っていったのだ。
まあ、キーファさんに言われなくても、異世界転生用語を発している彼女にはお近づきになりたくない。
サラさんから女子会で聞いただけでも厄介そうな空気がアリアリと出ているからだ。
オマケに『巫女』なのに頭の中で自動に『聖女』へイコールされている人だよ。
ムリムリ、私とは相容れない。
いや、私以外の人でも受け入れられない人は大勢いると思う。
ご都合主義の人の疑いアリだ。
ここは架空の世界ではなく、現実なんだと受け入れてない証拠だ。
でも討伐隊に参加する予定だから、イヤでも顔は会わせるんだろうけどね。
それから間を置かず、言われていた通り海と陸に召集が掛かった。
カルティア様は突貫工事の仕上げにしたくないからと、まだ得るものを修得していない私は残ることに。
討伐隊参戦は様子見で、ガルレイ様が情報を収集したのちに私の投入は判断するそうだ。
魔障が活性化し始めたと中央に情報が集まり始めたのを機に討伐隊が出たと、あれから二週間後にその知らせが届いた。
その間着実に魔力の実力が上がってきたな、と手応えを感じ始めた。
カルティア様から教わりつつ分かった事が、私は鳥族だが神殿でミゲル様やあの三人に言われたように、還り人に現れる確率が高い『天族』と呼ばれる治癒系に長けた者だった。
何故それが分かったかと言うと、治癒・回復は勿論の事、半蘇生が出来ることが判明。
偶然、仮死状態だった鷹を蘇生出来たのだ。それは戦闘訓練が施された鷹達で、軍馬と同じく魔獣とのかけ合わせで生まれた。西方は知能の高い鳥獣として訓練し飼育をしていた。
今回の討伐隊にも同行していた鷹で、重傷を負っていたためこちらに戻ってきたところだったのだ。
これは昔、天族の一部の者が持つ治癒・回復の上位『無属性』の力だそうだ。光属性の上が無属性となるらしい。
その無属性持ちの上級者は、人の理をねじ曲げる完全蘇生を行うことが出来たらしい。ある条件下で発動されるらしいが、それは失われた知識で今は誰も知らないそうだ。
それなのに仮死から蘇らせたと言うことで、ガルレイ様の指示のもと箝口令がしかれた。
訓練していくなかで、只でさえ治癒、回復力は上位、無属性(光属性の上位のため浄化の力も付随)の開花と次々と実力が上がっていき、そして天族であることも分かり、いろいろとてんこ盛りになってきたのだ。
オマケに水属性も発現して、なかなかにチートな疑いが。それに半蘇生も無意識にやってしまったので、還り人特典なのか……。
なんだか望まない結果を打ち出しつつある私は、ようやくカルティア様からの合格を貰い、騎士団の訓練場で水魔法の練習をしていた。
水を複数矢の様に作り出すと、先にある的へ狙いを定めて手をそちらへ振った。シュッと水の矢が的へ向かい、半分が外れ半分が中心からややずれたが何とか当たる。
距離があるため目を細めて的を見ていると、上空から黒と灰色の斑模様のやや大きめの鷹が舞い降りてきた。
一度私の頭上で旋回すると、上げた左腕にスッと止まる。不思議なことにこの訓練された鷹は魔力を纏って重力操作しているのか、止まり木代わりの腕には重さを感じない。
まあ、野生の鷹ではないので鷹匠が使っているエガケを使う必要もないのは楽だった。
黄水晶のキラキラした瞳でこちらを見つめる鷹は、先日仮死から蘇生させた鷹だった。それから懐かれ、訓練場にいる時やどこの部屋にいても、ベランダの手摺りに止まりこちらを見つめていることがしばしばある。
ガルレイ様にこれは良いのか聞いてみたが、笑って許してくれた。どうもあの鷹、オスらしいのだが私に対して恩も感じており、か弱そうに見えることから庇護する対象として認識し、護衛のつもりで側から離れないそうだ。
だから、好きなようにさせれば良いと言われ、せっかくだからと名前を付けることにした。
「オニキス、今日は狩りをしてきたの?」
私を守ってくれているらしいから、黒みの強い羽の色と災いから守るという漆黒瑪瑙から名前を取った。
『カァクヮッカァ(うん。さっき猪とウサギを捕まえて、調理場前に置いてきたとこ)』
オニキスはそう言うと褒めて褒めてと頭を下げた。つるりとした滑らかな羽が覆う彼の頭を撫でるとウットリと目を閉じた。
「お疲れ様、前みたいに大量に狩らないようにね。調理師さん達驚いてたから」
以前、訓練をしていた時に、風魔法で的を破壊してしまい、その破片が自分に飛んで来たのをオニキスが体を張って鷲掴みにし助けてくれたのだ。その時、褒めてあげるついでに破片で怪我した足と体力をオマケで回復させたら、喜んでお礼と言わんばかりに食料を狩りまくってきたのだ。
あれには驚いた。恩返しにしても程度があると思う。苦笑しかでなかった。
ちゃんと感謝してみんなで食べたけどね。
『そうだ、ルー。一昨日討伐隊への現状報告を貰いに行った時、またあの女がルーのツガイにちょっかいだしてたよ?』
それに苦笑。海はツガイではないよ、と言ったのだが首を傾げたオニキスはナニ言ってるのこの人、というような雰囲気で見られたのだ。
否定しても彼には理解して貰えなかったため諦めている。
『あの女、ツガってるのに何で目移りしてるんだ?不可解な奴だよね』
「んー。その人、私と同じ還り人だから、感覚がオニキス達と違うんじゃないかな?」
『ルーも還り人でしょ?でもルーの心は凪いでいて、あの女とは違う』
「凪いで?」
『そう。ルーが自覚していないだけで、ルーはツガイを定めてるはずだよ』
「そうなのかな?あんまり自覚ないけど」
『鈍いね、ルー』
どこか年上目線でオニキスから言われて、なんとなく腑に落ちない……。
今は恋とか愛とか言っていられないから、自分のレベルアップで精一杯だ。
どうも庇護する対象=妹とでも思っているらしく、私に対する態度が手のかかる子供、という雰囲気を醸し出しているオニキスだ。お世話好きなのだろう。
『大丈夫だよ、あの女は力だけ貸してくれればどうでも良いし』
なかなかに辛辣なことをいう鳥だ。
『でもねぇー、最近サボってるんだよね、お仕事』
ん?どういうこと?
『なんか小さな子供みたいな我が儘で見てて呆れるんだけど』
あら?これは海達が予感していたことが的中?
『ちょーっと腕に怪我したから力が使いにくいとか』
ほうほう。
『眩暈がするから上手く力が使えないとか』
へぇー。
『空気が合わないから力が出ないとか』
は?
『みんなが冷たいから力が出ないとか』
それは責任転嫁では?
『こんな野宿では体が休まらないとか』
え?それは討伐に行く際に説明があったとサラさんから聞いてるけど?
『アシュレイ様からの愛をもっと欲しいとか』
そんなのどうでも良くない?勝手にやってれば?
『愛が力を与えてくれるから、私を崇めるべきだと』
ワケわからん。
次々と出てくる彼女の問題発言(行動も?)に唖然としてしまう。
これは海達が苦労しそう……。
あ、私もそこに行くんだった。
わぁー、なんだかやる気を削ぐ人だな。
みんなが戦ってるのに、そんなこと言ってるの?
現場だよ?戦いの。
それが現実で起こっているのに、のらりくらりと我が儘言ってるんだ。
目の前で見てるんだよね?魔障との戦いを。
【巫女】は後方支援だと聞いている。
だから守られているはず。
よっぽど過酷ではない限り、怪我や疲労はない。
野宿を毎回している訳ではないのは聞いている。
だいたい宿を取ってるし、野宿は片手で数える程しかないはずだ。サラさんが話していた。
どちらかというと前線に出ているのはサラさんの方だ。
【戦士】としての初陣は怖じ気付いていたと聞いた。
恐怖で半泣きになりながらも頑張っていたという。
初めて生物型の魔障を切った日には恐怖で震え、嘔吐を繰り返し辛そうにしていたと、陸からオニキスを通じて知った。
それでも彼女は立ち上がり戦っている。数日間は夜によく泣いていて、夢でも魘されていることがあると、同室の陸から手紙に書いてあった。でも常に側にいる陸がメンタルケアをしているようで安心した。
それなのに光の魔力で浄化するだけで、魔障を討伐するわけでもなく、血塗れになることもない。後ろで控えている後方支援なのにそんな態度取ってるんだ。
ご都合主義でも起こることを期待しているのかな?
ここは私達には現実の世界なのに。
オニキスがぶつぶつと彼女の文句を垂れ流していたので、それを宥めながら日が暮れ始めた空を眺め溜め息を吐いた。
海と陸、サラさん達が討伐に向かって二月後、とうとう救援要請が来たのだった。




