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王妃は謝罪も込めて、ウィングフィールドの販売に協力するという。
国王は統治者として、一家門に肩入れするのはよろしくない。
「ですが、愛する王妃殿下への贈り物をされるのであればよろしいでしょう」
オリアーナが顎を上げて言う様は尊大さを華やかさで覆い隠しており、いっそあっぱれなほど似合っていた。
翌日、早速呼ばれたクレイトン商会の長ローラの父が同席し、オリアーナと共に決められて行く値段に、カールもクラリスも落ち着かなくなる。
王妃へのすばらしい贈り物は莫大な値段となった。
もちろん、これには魔獣素材の馬具などをふんだんにおまけにつけてそれなりに採算を取る。けれど、対外的には「国王が愛する王妃に、ウィングフィールドの新製品を莫大な金額を積んで購い、贈った」ということが重要なのだ。そうすることで価値が上がる。宣伝効果となる。
そして、それらを身に付けた王妃はウィングフィールドで大々的に催された夜会に出席する。
うつくしいドレスのアクセントとなる珍しい皮革の手袋にベルト、靴を身に付けた王妃の姿に、ウィングフィールドの貴族たちは夢中になった。もともと中央への憧れが強い者たちだ。
そこへ、スザンナとヘレナ、ローラがあれらの小物はウィングフィールドの手掛ける新事業の製品なのだと噂を流す。
それまでにまことしやかに流れていた「王都へ向けて大々的な販路を得る」という事業はこれだったのか、と腑に落ちる。
「三代の辺境伯夫人が協力し合っての」
「ウィングフィールドをあげての」
そして、国で一番の貴い女性が身に付けてのこれ以上のないお披露目となった。
その後、売りだされた商品は飛ぶように売れた。
そして、王都へ戻った王妃は、常になにかしらウィングフィールドの革製品を身につけていた。
「珍しい革ですな」
「それになんとも芳しい香りがいたしますわ」
「先だってのものとは違う香りですな。こちらも良い」
珍しいものに目がない貴族たちは、権力者におもねるのと相まって興味を持った。そんな中、目ざといものは僻地へ嫁した友人が久々に起こしたアクションと結びつけた。
「妃殿下、それはもしかして、オリアーナさまの、」
「おお、そう言えば、聞きましたぞ。ウィングフィールドでは新たな事業を打ち出したとか」
「まさか、それが?」
王妃はさすがはオリアーナ、その場にいずして多くの者を動かす、と感心しつつにこやかに応える。
「まあ、さすがはご慧眼でいらっしゃること。そうですわ。こちらはウィングフィールドで新たに扱う皮革製品ですの」
「王都でも販路を得ていると聞いておりますが、まだ手に入りませんかな」
「あら、それはどちらが取り扱っていて?」
そんな風にして、十全に興味を惹いて、満を持して王都でもウィングフィールドの皮革製品が販売されたのである。
しばらくはウィングフィールドと王都を荷車が列をなして往復したと語り草になっている。
さて、オリアーナが王妃に連絡を取ったのは、皮革製品の広告塔にするためだけではない。王妃によって国王を引きずり出し、クラリスに謝罪させるためだけでもない。
もうひとつ、大切な、大掛かりなことがあった。
オリアーナは国王夫妻を迎えた日の夜、離宮に戻らず、カントリーハウスに留まった。以前、香調のために用意された居室はそのままオリアーナ用に残されており、家族たちの温かい気持ちに励まされる心持ちになる。
そして、オリアーナはカールにアスチアンを呼び出すよう伝えた。
翌日やって来たアスチアンを含めたカールとクラリス、そしてスザンナはオリアーナから意外なことを聞いて驚いた。
「王妃殿下は大聖教司の姪御であらせられるの」
聖職者である聖教司たちを統べる大聖教司、つまりそれは神殿の長である。そんな立場の者が、とても姪を可愛がっているという。
「せっかく、王妃殿下のご協力を仰げるのです。この機を逃してはいけません」
瘴気のことが絡むので、オリアーナにはアスチアンの事情をある程度話している。彼女の言葉にカールは頷き、アスチアンを見た。
「アスチアン、君の言葉が神殿に届くかもしれない」
「僕の……。よろしいのでしょうか」
今まで路傍の石のようにどれだけ頑張ってもまったく気づかれないものだと思っていた。それが違うのだと言う。戸惑いつつも、アスチアンは己を奮い立たせる。
「そうですね。願ってもない機会です」
「では、大聖教司さまに伝えていただきましょう」
オリアーナも頷いた。
ところが、事態は思ってもみない方へ転がった。姪を通して意見が通ることはなかった。
実際に彼らが面と向かって、話すこととなったのだ。
オリアーナを伴ったカールが大聖教司さまに奏上したいことがあると懇願したところ、少し考えた王妃は交換条件を出した。
「ウルフスタンたちに?」
「はい、ぜひともお会いしたいのです」
「よろしければ、理由をうかがえますでしょうか?」
彼らは大切な盟友であり、魔獣討伐や皮革事業の頼もしい協力者なのだと言うカールに、王妃は頷いて理由を語った。そして、カールはその言を受け、ウルフスタンたちを召喚した。
少し前、例えばクラリスが嫁して来る前のウルフスタンたちならば、エルドレッドの王妃の面会など、警戒して応じなかっただろう。けれど、今はカールやクラリス、アスチアンには大恩を感じているし、信頼してもいる。その三人が同席するというのならば、否やはない。
そうして訪れたウルフスタンたちに、王妃は頭を下げた。
驚き慌てふためくウルフスタンたちに、王妃は青ざめ両手を握りしめながらも、毅然と語った。
「わたくしはあなた方が捨てた国からこのエルドレッドに嫁ぎました」
ウルフスタンたちははっと息を呑む。
カールはアスチアンが言っていたことを自然と思い出していた。
ウルフスタンたちは元々、海の向こうの島国ランバートに住んでいた。そして、確かに、王妃はランバートからやって来た。
その国では一時期、ひどい飢饉に見舞われた。どれだけ頑張って畑を耕しても、収穫したものは税や小作代として持っていかれ、飢えた。
それで、故郷を捨ててウィングフィールドの南の地にやって来たのだ。
「故国があなたたちに行ったことは赦されることではありません。かの国の王室にいた身として謝罪したく、ご足労いただきました」
五十を迎えた王妃が生まれたかどうかの折のことだ。しかし、彼女に責はないとは言い切れない。王室として生まれたからには、自分がなしたことではないことも背負う。
「あなたさまは王族だ。だから、責任はないと言ってしまえば、その誇りを傷つけることになりますな。その謝罪を受けましょう」
謝罪の言葉を受け取っただけとはいえ、なんの保証もない身の上だ。
それでも、ウルフスタンたちはいくらかは、報われた気がした。
そして、その場に居合わせたアスチアンもまた救われた気持ちになる。
この高潔で責任感のある人柄こそが、大聖教司をして惹きつけるのだと感じた。




