83 おまけ 温泉へ行こう・4
ソウジ達一行が温泉地へ旅立ってから約半日後────
クラタ家で飼われているキジトラ猫が、リビングで大きく伸びをしている。
伸びきったところで、キジトラ猫の体が光り輝き出した。
しばらくすると光が収まり、キジトラ猫はどこかSF風な服装の猫耳の少女の姿に変化していた。
「うーーーーん。やっぱり原住生物の姿から戻るのって、結構疲れますね」
再び体を伸ばしながら、空間にいくつも浮かんだステータス画面のような物を確認する。
「やはり、返答はありませんか。この星の大気構成等、私達が生活するには全く問題が無いのですが……」
落胆の溜息を吐くと、少女は気持ちを切り替えるように自分の両頬を叩く。
「いけません。私は母星からの使命を受けて移住可能な惑星を見つけて調査するのが仕事です。余計な事を考えていないで、集めたデータを送信っと……」
いつも通りに母星にデータを送るのだが、通信エラーと表示される。
「あれ? 通信エラー? 宛先がありません……? どういう事ですか?」
少女は初めての事に戸惑っていると、突然背後に気配を感じた。
(いつの間に!? 私が背後を取られるなんて……!!)
慌てて振り向きながら銃を構えた途端、銃が叩き落された。
「手荒な事して悪いね。こういうのは、ここに持ち込んで欲しくないんだよ」
少女から叩き落した銃を見知らぬ青年が拾う。
(え!? 今の何!? まったく動きが見えなかったのですけど!?)
「あなた、異世界からきた方ですよね?」
青年の他にもう一人。
どう考えても、人間ではない存在オーラを放つ美女だ。
(なんなの!? こんな存在、集めたデータには無かった!!)
「驚いているところ、申し訳ないのですが、あなたの母星とやらとの交信は不可能ですよ」
「え?」
(この女性、一体何を……。そもそも、なんで私の母星の事を知ってるのですか!?)
「あ、あなた達、何者ですか!? それ以前に不法侵入ですよ!!」
「えー、それを君が言うの? 君だって、不法侵入みたいなものじゃないか。姿だって偽ってさ」
「ぐぬぬぬ……」
呆れた様子の青年にツッコまれると、少女は何も言い返せなくなってしまった。
「とにかくです。あなたの母星とやらとは交信できないので、あきらめてください」
「あ、あなた達は、一体なんなんですか!? なんで私の事を知っているのですか!? この星の住人に正体が分からないように完璧に変身していたのに!!」
少女は訳が分からなくなって、つい大声を出してしまった。
このような状況の時こそ落ち着いて行動しなくてはならないのだが、母星と通信できない上に武器も奪われ、そんな余裕は無かった。
「……そうですね。名乗りもせず失礼しました。私はエルファルド。この世界の女神です」
「そんで、俺は不本意ながらこの女神の使徒をやっている者だ」
「女神に使徒……。あ、ええっと、私はネティです」
猫耳少女のネティは、思わず名乗って頭を下げてしまう。
本来は、とても礼儀正しい少女なのである。
「そんなにかしこまらなくていいですよ。こっちの使徒なんて、失礼にも程がありますから」
「やかましいわ! ポンコツ駄女神!」
「ほら」
女神と使徒とやらのやり取りを見て、ネティは呆気に取られてしまう。
そんなネティの視線を受け、女神はこほんと小さく咳払いをした。
「ええと、お見苦しいところをお見せしましたね。話を戻しますが、あなたの母星とはもう連絡が取れません」
「そうでした! なんでその事を知っているのですか!? それに、連絡が取れないって……」
「私は女神です。ネティさんの世界の神ともやり取りがあるのですよ。その神に、あなたの事をお聞きしましてね」
「そうでしたか……」
完全に納得はできないが、ネティは取り敢えず頷いた。
「それでですね、あなたの母星は争いが起きていませんでしたか?」
「はい。母星と植民地惑星との間で戦争が始まり、母星の一部では戦いに疲弊して、移住先を密かに探していたのです。私はその調査員でした……」
ネティは調査員として、過酷な環境にも耐えられるように製造されたネコ型アンドロイドである。
同じように作られた人造生命体達が次元を超え、あちこちで移住可能な世界を探しているのであった。
「……その母星だけどさ、残念だけど滅びたらしいんだ」
使徒の青年がネティにとって、残酷な事を告げた。
「そ、そんな……嘘ですよね!?」
「嘘ではありません。これをご覧ください」
女神が空中に映像を映し出す。
そこには、巨大な隕石が母星と衝突する様子が映し出されていた。
「どうやら、植民地惑星連合の攻撃みたいです。この後、ネティさんの母星は……」
ネティに女神の言葉は届いていなかった。
ただただ、ショックである。自分を作り出して可愛がってくれた研究所の職員達と二度と会えないと思うと、目の前が真っ暗になったのである。
「気を落とすなとは軽々しく言えないけどさ、俺も元いた世界が滅んだらしいし、こういうのって割とあるそうだから……」
青年がネティを慰めるが、ネティはうな垂れたままだ。
「私、これからどうしたら良いのでしょう……他に帰る場所がありません」
「そうですね。このまま黙って、居ついてしまったらいいじゃないですか?」
女神が意外な事を言うので、ネティは思わず顔を上げて女神の顔をマジマジと見つめてしまった。
「ええと、私を捕らえてどうにかするとかしないのですか?」
「何故そのような事を言うのです?」
「だって、私はこの世界にとっての異物みたいな存在ですよ……」
女神は困った顔で使徒に助けを求める。
面倒くさい事は、全部使徒に丸投げがデフォルトなのだ。
「あなた、お願いします」
「承った。……ネティさんとやら、捕らえて色んな事をして欲しいなら、俺がじっくりと身体の隅々まで調べ──ウボァーーー!!」
途中で女神が使徒の頭を抱え込んでヘッドロックを決める。
「ギブギブ! それめちゃくちゃ痛いから!!」
「あなたって人は! いつまで経っても全く変わりませんね!!」
「頭を締め付けられる苦痛と、顔に押し付けられる胸の感触が俺の全てを惑わす!!」
「えっ!?」
女神が慌てて使徒を解放する。
「もう! もう! なんて事を言うのですか!!」
「痛い痛い! 叩くなっての!!」
そんな様子をネティは呆然として見つめる。
彼女の視線に気づいた女神は、再びコホンと小さく咳払いをした。
「ええっとですね、ネティさんは悪さをするような存在には見えませんので、このまま監視は続けますが自由にしてください。ネティさんの世界の神からも許可は出てます。さあ、あなた早く行きますよ! 温泉が私達を待っています!」
「おい、無理に引っ張るなっての!! ……ええっと、ネティさんとやら。信頼できる相手なら、事実を正直に明かすのもいいんじゃないか? 案外受け入れてもらえるもんだよ」
そう言い残して、女神と使徒は消えてしまう。
ネティは呆然として、立ち尽くすしかなかった。
一方、その頃のソウジ達一行は────
「うーん……」
「クラタん、どうしたにゃ?」
「家に残してきたキジトラ猫は、どうしてるかなあって……」
「クラタんは心配性にゃ! あんな奴、留守番がお似合いにゃ!」
「そうは言うけどさ、やっぱり一匹だけって不安じゃないかなあって……」
「んもう! クラタんは過保護にゃ! 自分はやる事があるから一人で残るんだって、言ってたにゃ!」
「言ってたって、ミユはキジトラ猫の話す事が分かるのか?」
「あいつの独り言にゃ。あいつ、時々人の姿になって何か色々やってたにゃ」
「はあ!? なんだそれ!? めちゃくちゃ重要な話だぞ、それ!!」
「あ、魔物が出たにゃ! アタシがフィルデより活躍するところを見せるにゃーーーー!!」
「ちょ、ミユ待て!! 今の話を詳しくーーーーーー!!」




