82 おまけ 温泉へ行こう・3
ガラの悪い冒険者に絡まれるトラブルもあったが穏便に解決したし、早速ダンジョンに入るとしよう。
以前に来た時よりも、入口が立派になっている。
出入りする人が増えたのかもしれないが、内部も以前と別物みたいだ。
前回の時は、岩肌が剥き出しの洞窟って感じだったが、今は立派な石造りのダンジョンである。
ダンジョンを掘った当人のガイラさんに言わせると、ダンジョンは生きているらしい……。
「ダンジョンは、日々進化しているのだ」
そう言われてもサッパリである。
入口付近は人通りも多く、危険な魔物は出現しないので、全員が広がって歩いても余裕の広さだ。
そんな中、何故か俺一人だけガイラさんから、ダンジョンのレクチャーを受ける事になってしまった。
他のお嬢さん達は面倒くさいのか、早々に俺のそばから離れていきやがったし。
あのミユですらだ。
「ソウジよ。ダンジョンの進化を分かりやすく説明すると、承認欲求だな」
「承認欲求?」
前の世界であった、SNSとかで『いいね』をもらいたいってやつか?
いいねを増やすために、どんどんエスカレートして過激な事をやからかし、炎上するのが定期的に現れていた気がする。
「ダンジョンを管理するダンジョンの精霊ってのがいてな、そいつの仕業でもある」
「はあ……」
「その精霊が、いかに冒険者達からウケが良いダンジョンを作り上げるか、日々研鑽しているのだ」
「はあ……」
「なんだ、気のない返事ばかりしおって」
「いや、冒険者ウケがいいダンジョンってなんだよ? 意味が分からないんだが」
「ふむ。簡単に説明すると、そこそこスリリングで、そこそこの見返りがあるダンジョンであろうか」
益々訳が分からなくなった。
首をかしげてると、エーシャが割り込んできた。
「おとうさん、早い話が『楽勝過ぎない敵と戦ったり、ちょっと危険な罠をかいくぐって、それなりの金額で売れる魔道具や財宝を入手する』って事ですよ」
「なんだよそれ、もはや娯楽とか遊びみたいなものじゃないか」
「そう、それを我が言いたかったのだ。ダンジョンの精霊が言うには、命の危険を冒してまで冒険するのはナンセンスだそうだ。そこそこのリスクで、冒険心を満たせるのが一番反応が良いらしい」
ダンジョンって、それでいいのかよ……。
思わず呆れていると、周囲の様子が少し変わった。
石畳の歩きやすい通路から、少し荒れた通路になる。
同時に、あれだけいた通行人の姿も減った。
「クラタん、魔物の気配がするにゃ!」
先頭でフィルデと無駄に張り切っていたミユが周囲を警戒する。
「ソウジ様と皆さんをお守りします!」
こういう時のフィルデは、とても心強い。
もっとも、こちらには最強種のガイラさんがいるんだけど。
「……俺のそばを離れるなよ」
「ええ」
ギルデオのやつ、さり気なくヴァネリーを抱き寄せている。
ああいうところが、女冒険者達からの反応がいいのだろうな。
俺もみっともない姿を見せないように、頑張るとしますか。
気合を入れていると、リグミナがすり寄ってきた。
「ちょっと、私の事をちゃんと守ってよね?」
マナシエを押し退けてまですり寄ってくるリグミナは、本当に女神なのだろうか。
守ってやる気が一気に失せた。
「わ、私は戦えませんから、お願いします!」
「ソウくぅ~ん! 私の事も守って~」
アイニは仕方がないな。
だが、ルネイアナよ、お前は駄目だ。
「ソウ君、なんで押し退けるのよ~!」
「お前は普通に強いだろうが!」
「ええ~、いいじゃないよう~守って~」
「ええい、離れろ!」
そんな攻防を繰り広げてると、新たな刺客が現れる。
「じゃあ、私もおとうさんに守られますね」
「うお! 背後から抱きつくな!」
もうこうなると歯止めが効かない。
ミユとフィルデに、何故かガイラさんまでもが。
これはどんな嫌がらせなのだ。
その一方、マナシエは居心地が悪そうであった。
「うにゃあ、マナシエもクラタんにくっつくにゃ!」
「あ、わたしは……!!」
まったくもって、お節介なミユお姉さんだな。
そんな俺達を生暖かく見守るアルジット達。
非常に居た堪れなくなってくるので、やめてほしい。
「クラタさんって、本当にハーレムなのですね」
ヴァネリーの呆れ果てた視線が痛い。
その上、通りがかる冒険者達の心無い言葉も心を抉ってくる。
「おい、あれが噂のパパ活おじさんだぜ」
「うわあ、本当に女の子達を囲ってるのね……」
「羨ましいけど、あんな金がどこから出てくるんだろうな」
「やっぱ犯罪で手に入れた金じゃねーの?」
みんな好き放題言いやがるが、ここでムキになって言い返すと逆効果なので、落ち着いて深呼吸だ。
「おい、そろそろ離れてくれ。いつまでもふざけるなって!」
最後までしがみついていたミユとフィルデをどうにか引き剥がす。
本当に年頃の娘さん達がこのままでいいのだろうか……。
この先が思いやられるなと、真面目に考えていると急に魔物の気配が濃くなった。
「前方、何か来るぞ!!」
マナシエとアイニとリグミナを背後に隠れさせ、剣を構える。
どさくさに紛れて、エーシャとルネイアナも隠れているが無視だ。
程なくして現れたのは、豚っぽい二足歩行の魔物の群れであった。
俗に言うオークだな。
物語によっては人語を理解する知能が高いタイプもいるようだが、俺達の前に姿を見せたのは目が血走っていて鼻息が荒い。
どう見ても、人間並みの知能は無さそうだ。
オーク達は前衛のミユとフィルデを見て、舌なめずりをしている。
ヴァネリーが怯え切ってギルデオにしがみついてるので、本能的に身体の危険を感じているのだろう。
ここは俺の出番だな。
そう思ったのだが……。
「ここは私に任せてください」
「あっしも役立つって、お見せしておきませんとね」
アルジットとトルゲの二人だ。
おいおい、本当に大丈夫かよ……。
どこから出したのか、アルジットが細身の剣を鞘からスラリと抜き放つ。
その姿は、どこぞの騎士かと見紛うばかりである。
トルゲは両手にナイフを持つ。かなり戦い慣れているようにも見えるな。
「いきますよ!」
アルジットが一気にオークの懐に入ると、そのまま首を刎ねる。
いきなり仲間がやられて動転しているオークの背後から、これまた首を切り裂くトルゲ。
そこへギルデオも参戦して、あっという間にオークの群れを片付けてしまった。
なんだよ。ギルデオはともかく、二人とも普通に強いじゃないかよ……。
特にアルジットは、きちんと剣術を習っている者の戦い方だった。
ミユ達も驚いて感心している。
「ほほう。ただの奴隷商と情報屋ではなかったか」
あのガイラさんまでもだ。
「ふふふ。昔、色々ありましてね……」
「あっしも、こんな商売していれば、自分の身は自分で守らないといけませんから」
二人とも謙遜しているが、護衛なんていなくても普通にダンジョンを移動できるレベルだ。
素直に驚きだが、アルジットが意味ありげに俺にウィンクしてくるのはやめてほしい。
どうでもいい事だが俺の見せ場は無かったな。
マナシエにかっこいいところを見せたかったのに……。
それから、何度か魔物の群れに遭遇した。
何故かどれもこれも、オークやゴブリンの群れだった。
しかも発情してるので、お嬢さん達を守る手前、色々厄介である。
ゴーレムや獣っぽい魔物はいないのだろうか。
「ガイラさん、他の魔物はいないんですかね?」
暇そうにアクビを噛み殺しているガイラさんに尋ねてみた。
「ああ、そういえば説明し忘れていたな。このダンジョンはパーティーに合わせて魔物が変化するのだ」
「変化する?」
「うむ。このパーティーは女子が多いだろう? 女子を狙うのはオークやゴブリンと相場が決まっておるだろう」
マジでそんな適当なのか?
ある意味、高性能なダンジョンだけど、それでいいのだろうか……。
「じゃあさ、仮に『勇者』が入ったら『魔王』が出てくるとか?」
「ふむ……そんな事は考えもつかなかったな。お主、勇者になってみないか? ダンジョンに入って魔王が現れるか試してくれ」
「はあ? そんな簡単に言うなよ!? そもそも勇者なんて、なれるものかよ!?」
勇者と魔王なんて、物語だけの世界だろうが。
「クラタんが勇者にゃ! 凄いにゃ!」
「ソウジ様が勇者……! 不肖フィルデ、この身を一生捧げます!」
ケモ耳コンビは静かにしようね。
またオーク達が襲ってくるぞ。
「ソウジが勇者か~。そうなったら、私の女神としての位も上がるわね!」
リグミナのそういうところが女神として、駄目なんだと思うぞ。
「我が町の冒険者ギルドから勇者が……! これなら父も、私の事を認めてくれるかもしれません! ゆくゆくは邪魔な姉を蹴落として、私が領主の座に……!!」
「ギルドの受付嬢が勇者の愛人って、ありよね~」
アイニとルネイアナも妄想が駄々洩れだぞ。
というか、アイニはそんな大それた目的があるのかよ。
「ふふふ。勇者との乳首のつねりあい……これは燃えますね」
アルジットがぶれなさ過ぎて怖い。
こいつの過去に何があったか知りたいけど、知らない方が幸せそうになれそうだ。
「勇者×元騎士の禁断の恋物語……!!」
マナシエさん……?
君はなにを想像しているのかな? アイデアノートに物凄い勢いで書き込んでて怖いのだけど?
「勇者様がお得意様になってくれれば、あっしも鼻が高いですぜ。ひひひ」
この状況で、トルゲが一番まともに思えてくるな。
「おとうさん。勇者って、案外簡単になれるものなのですよ?」
「エーシャ、それはどういう事だ?」
「私の父も勇者と呼ばれていました」
「我も思い出した。確かに我が父は、勇者と呼ばれていたな」
二人の父親って、何者なのだろうな。
多数の精霊を従えていたり、色々な加護を持っていたりとか……。
「ちなみにですが、人妻や未亡人を始め、精霊や妖精等の人間以外の女性を狙いすぎて勇者と呼ばれていましたね」
……本当に何者なのだろうな。




