23 この度はご苦労。後は担当の者の指示に従ってくれ
中央の町にある程度近づいところで、魔導力車から降りる。
辺境であるセービルの町からやって来た俺達が、車に乗ってるのを知られると面倒事になるそうだ。
恐らく、中央の町でも特権階級ぐらいしか乗れない代物なのだろう。
そんなこんなで、無事に町の外壁門を通り抜けて到着した。
勿論、門兵による審査があったが、ギルドの親書を持参していたので、難癖を付けられたりする事もなく入れた。
もっとも、獣人であるミユを見て眉をひそめる門兵はチラホラいたが。
辺境の町ですら獣人差別があったのだ。
中央の町なら、差別がもっと酷い事になるかもしれない。
「ミユ、これを羽織ってフードを被っておけ」
フードのついたローブをミユに手渡す。
これで少しは誤魔化せるといいのだけど。
「ありがとにゃ」
受け取ったミユは少し悲しそうに笑った。
どうにかしてやりたいけど、今の俺にはこれが精一杯である。
「おとうさん、そこまで心配しなくても大丈夫ですよ」
「どういう事だ、エーシャ」
「流石に中央の町では種族差別は法律で禁止されています。完全に無いとは言えませんが、面と向かって差別してくる人はいませんよ」
「だったらいいのだけどな……」
こういうのに限って、次のシーンでは思いっきり差別の洗礼を受けるのだ。
そんな展開をマンガやアニメで散々見てきたからな。俺は詳しいんだ。
「大丈夫、この私が無いと言うのだから、絶対に差別なんてされませんよ!」
おい、フラグ立てんな!!
まあ結果としては、俺の杞憂であった。
町中の往来も獣人が普通に行き来していて、傍から見る分には獣人差別のような物は見なかった。
「だから言ったじゃないですか。ただ、エリート層が住む地域は駄目ですけどね」
選民思想ってやつか。どこの世界にでもあるんだな。
「それで、アタシ達はどこに向かってるにゃ?」
安心したのか、フードを脱いだミユが辺りをキョロキョロと見回している。
大きな町なので、見るもの全てが珍しいのだろう。
「向かうのは、この町の冒険者ギルドですよ。もっとも、こちらではハンターギルドとも呼ばれていますけど」
うむ。横文字にすれば、格好よくなるって感じのやつだろうか。
そんな事を考えているうちに、大きな建物の前に到着した。
「ここがハンターギルドです」
「……大きいな」
「大きいにゃ」
「それは中央の町ですからね。これから私は所用がありますので、一旦ここでお別れさせてもらいますね」
「え? 一緒に中に入らないのか?」
「だって、私は冒険者じゃないですからね。それと、本業もありますので。ついでに今夜の宿も取っておきますから、後で迎えに行きますよ」
そう言い残して、エーシャは行ってしまった。
彼女が冒険者ではないって事をすっかり忘れてたな。
「エーシャが行ってしまったにゃ。残念だにゃ……」
「ま、あいつも本業が商人だからな。仕入れや挨拶回りとか色々あるのだろう」
慰めるようにミユの頭を撫でる。ふわふわしてて、いい撫で心地だ。
気づくと、ミユは驚いたような顔をしている。
……あ、思わず普通に撫でてしまってたな。
これセクハラとか言われたら、弁解の余地も無い。
「すまん、嫌だったよな?」
「う、ううん。ちょっと驚いただけにゃ……」
ミユがモジモジしている。
いつもは平気で抱きついてきたりするのに、妙な反応するなよ。調子が狂うだろう。
なんとも居心地の悪い空気が流れる。
「えっと、そろそろ中に入るか?」
「は、入るにゃ……」
互いに誤魔化すようにギルドの門扉に向かう。
それにしても、建物が立派過ぎて入るのに尻込みしてしまうな。
流石にいい年のおっさんがマゴマゴしているのも格好悪いので、意を決して扉を開いた。
なんて事はない。
内部はセービルの町のギルドとそう大差は無かった。
ただ、規模が全然違うだけで。
「……広いな」
「広いにゃ」
完全にお上りさん状態である。
入口で突っ立っったままだと迷惑になってしまうな。
ええっと、受付けカウンターはあそこか。
並ぶ冒険者の人数も多いが、窓口の数も多いのでサクサクと列が進む。
「今日はどういったご用向きですか?」
金髪碧眼の受付嬢がニッコリと営業スマイルを浮かべる。
流石は都会だ。受付嬢のレベルも高い。年齢的には二十代半ばに差し掛かるぐらいだろうか。
少々気が強そうだが、普通に美人である。
……身内びいきではないが、個人的にはアイニの方が上だと思うぞ。
「セービルの町のギルドから派遣されてきました」
ギルドマスターのニドアールから預かった親書を手渡すと、受付嬢から営業スマイルが一瞬消え、鼻で笑われた気がした。
「……承りました。お呼びいたしますので、あちらで掛けてお待ちください」
なんとなくだけど、小馬鹿にされたような感じがする。
もしかして、辺境から来た俺達を田舎者だと思ったのだろうか。
モヤモヤしながら、指定された椅子に腰掛けて呼び出されるのを待つ。
「クラタん。今のお姉さん、感じ悪かったにゃ」
「分かってても口に出すなよ。誰が聞いてるのか分からないから」
「……うん」
気持ちは分かる。
特にミユは感受性が強そうなので、他人の悪意といったような事が直接ダメージになるのだろう。
悲しそうに視線を落とすミユの頭を撫でてやる。
またもや驚いた顔をしたが、すぐに目を細めて大人しく撫でられている。
なんだか、昔飼っていた猫を思い出してしまった。
「ここでいちゃつかれるのは、ご遠慮願いたいのですが……」
目の前で咳払いがしたのに気づくと、先程の受付嬢が俺達を冷めた目で見ていた。
美人が凄むと迫力があるな。
「あ、すみません」
「にゃにゃ!」
何もやましい事はしてないのに、思わず謝ってしまった。
「まったく、こっちはいい出会いなんて全然無いのに。やっぱり男って、若い子ばかり狙うケダモノね……」
受付嬢がなんかボヤいてるけど、聞こえない振りをしておく。
ツッコんだら絶対に面倒になる。ミユには視線で黙っておくように伝えた。
そして、ボヤき続ける受付嬢に案内された先は、ギルドマスターの部屋だ。
受付嬢は俺達を残して、さっさと戻ってしまった。
まったく歓迎されてないなー。
一応、俺達って要請されて来たんだよな?
仕方なしにドアをノックすると、入れとの声が。
「よく来てくれたな。セービルのハンターよ」
俺達を出迎えたのは、何やら思いっきり見覚えのある男だった。
「クラタん、あの人ってニドアールさんにゃ!」
ミユが指摘すると、ギルマスの表情が不機嫌そうに歪む。
「その名は出してくれるな。私を愚兄と一緒にされては困る」
どうりで似てると思ったら、うちの町のギルマスの弟だったのか!
「私はサンドアール。中央の栄えあるハンターギルドマスターだ」
格好つけて言ってるけど、俺にとっては、どちらが兄で弟であろうと興味無いのだが。
それにしても、ニドアールとサンドアールか……。
「あのう、一番上のお兄さんとかっていますか?」
「何故それを知っている!?」
まあ、なんとなく予想がついただけだ。
「クラタん凄いにゃ!」
ミユ、そんなキラキラした目で俺を見ないでくれ。
「えっと、改めて。セービルの冒険者ギルドから派遣されてきました、クラタ・ソウジです」
「アタシはミユにゃ」
「そうか、この度はご苦労。後は担当の者の指示に従ってくれ。もう下がって良いぞ」
遠方から呼びつけておいて、これだけかよ。
後でお前の兄ちゃんに言いつけてやるからな。
もっとも、兄の方が辺境にいるって事は弟の方が強い権力を持ってるのだろうけど。
まあ、ここでキレて食い掛かる程、俺も若くない。
さっさと、お暇させていただきますか。
俺達がギルマスの部屋を出るのと同時に、無駄にゴテゴテした装備をした成金っぽい冒険者グループと入れ違いになった。
そいつらは、俺達を馬鹿にするような目で見て行った。
扉が閉まる前に、背後から『ようこそ、おいでくださりました!』とギルマスの歓迎する声が聞こえてくる。
相手によって態度を変える小物か。
うちのギルマスには申し訳ないけど、あんたの弟さんも大概だな。
「クラタん、ここって感じ悪いにゃ……」
「そうだな。早く要件を済ませて出よう」
慣れない場所に来たせいなのか、先程からミユの元気が無い。
元気づけるために頭を撫でてやっていると、またもや咳払いが聞こえた。
「まさかですけど、私に見せつけてるんじゃないですよね?」
さっきの受付嬢が思いっきり睨んでる。
もうこうなると、被害妄想のレベルだろう。
「勘違いしないでくださいよ。俺にとっては、この子は娘みたいなものですから」
「確かにそうですね。親子程の年齢差もありそうですし。すみません、変な事を言って……」
俺が指摘すると、受付嬢はバツが悪そうな顔をして謝った。
根は悪い人では無さそうだな。
「違うにゃ! アタシはクラタんの愛人にゃ!」
ちょいと、ミユさん!?
こんなところで、何を言ってくれてるんですかね!?
「……娘みたいな子と言っておいて、愛人ですか! どれだけ恥知らずなのでしょうか、田舎のハンターってのは!」
うわー、これは完全に嫌われてしまったぞ。
別に好感度を上げようとか思ってなかったが。
多分だが、この人が俺達の担当っぽいので、表面上は仲良くしておきたかったのだけど……。
「お姉さん、怒らないでにゃ。クラタんと一緒にご飯食べたり遊んだりすると、とっても楽しいにゃ。せっかくなので、お姉さんもクラタんと遊びに出かけて、思いっきり走り回るにゃ。嫌な気持ちもいつの間にか無くなるにゃ!」
ちょいと、ミユさん!?
またもや、何を言ってくれてるんですかね!?
受付嬢も面食らってしまったのか、硬直している。
しかし──
「プッ……アハハハ! この子、何を言ってるのかしら。遊びに行くって、そういう……アハハハ」
いきなり腹を抱えて笑い出した。どこに笑いのツボがあったのやら。
当のミユもポカンとしている。
「あーおかしい。こんな純粋な目をしているハンターがいるなんて。ここに集まる若い子は、みんな功名心に駆られてるし、中堅やベテランは、如何に他人を出し抜こうかって考えてるのばかりで、久々にこんな純粋な子を見たわ」
なんかよく分からないが、誤解が解けて何よりだ。
「私は今回あなた達の担当になったルネイアナよ。よろしく」
ルネイアナと名乗った受付嬢が手を差し出してきたので、握り返す。
その途端、ゾクッとした。
なんだ……この感覚。
この女はヤバいと、全身が警報を鳴らしている。
「まさか……私の正体に気づいたの!?」
ルネイアナの表情が引きつり、俺から距離を取った。
それと同時にミユが身構える。
「待て、ミユ。それで、ルネイアナさん。あなたは何者なんだ? ぶっちゃけると、普通の人間じゃないだろう?」
俺が問い質すと、ルネイアナの瞳が細まった。
探知魔法に、明らかに普通の人間種ではない反応を感じる。
考えたくないが、この反応は魔族なのだろうか……。
「そこまで分かってしまうのね。正直、今までこの町で正体がバレた事は無かったのだけど……」
ルネイアナが艶めかしく髪をかき上げる。
おいおいおい、こんな場所で魔族と戦うとか勘弁してくれよな。
「私の正体だけど……単なる夢魔よ」
先程まで怪しげな雰囲気を醸し出していたルネイアナが自嘲気味に笑い、しゃがみ込んでしまった。
これまた何ごとなのだろう。
「私が夢魔なんかで、がっかりしたかしら? どうするの? 私を衛兵に突き出すつもり?」
「えっと、申し訳ないけど……夢魔って何?」
ミユも同感なのか、頷いている。
「え? そこから!?」
「悪いな。知識としては知っているが、具体的にどんな種族なんだ? というか、あんた魔族なんだよな?」
思わず矢継ぎ早に質問してしまったが、俺だって混乱しているんだ。
まさか、中央の町のギルドに派遣されたと思ったら、ギルド内部に魔族がいるんだものな。
「えっと、私は男の夢に潜り込んで、少しばかり精気を頂く種族で……」
「じゃあ、特に人に危害を加えたりする訳じゃないんだな?」
「ええ、そうよ。人間がいなくなってしまったら、私も生きていけないし……」
「ならば、問題は無いな」
「え? それだけ!?」
「何か問題でもあるのか? 無害な魔族だったら共存できるのだろう? 北の大陸では普通に魔族と人が一緒に暮らしていると聞いたぞ」
ルネイアナがポカンとしている。
その彼女の肩をミユがぽんぽんと叩く。
「クラタんは優しいにゃ。獣人のアタシにも優しく接してくれたにゃ。仲良くできる魔族なら問題ないにゃ」
「アハハハ! なんなの、あなた達。無駄に身バレを心配した私がバカみたいじゃない!」
良く分からんが、予想外の魔族との遭遇による戦闘は避けられたっぽいのであった。。




