20 本当にトラブルの女神に愛されていますねぇ
セービルの町の冒険者ギルドに登録している冒険者全員に、緊急招集が掛けられた。
一体何ごとだろうと、ギルド建物内に集まった他の冒険者達が不安そうな表情をしている。
周囲の冒険者に聞いてみると、今までこんな事は無かったそうだ。
「クラタん、何が起きたのかにゃ……?」
「さあな。取り敢えず話を聞かない事には、何も分からないよな」
ミユが不安そうにしているので、頭でも撫でてやろうかと思ったところでギルドマスターのニドアールが姿を現した。
その隣には緊張した面持ちのアイニが付き添っている。
「皆の者、集まってくれた事に礼を言う」
ニドアールが話し始めると、ざわついていた冒険者達が静かになり、全員が彼に注目する。
「今回の招集だが、中央の町にほど近い場所でダンジョンが突如発生した。当然、中央の冒険者達が調査に向かったのだが──」
まさか、全員帰って来なかったとかいうオチじゃないだろうな。
周囲の冒険者達の顔色が悪い。
隣の若者に尋ねてみた。
「なあ、中央の冒険者とやらはランクが高いのか?」
「あ、ああ……俺達より実力のある冒険者が集まっているはずだ……」
その実力者達が全滅となると、かなり厄介な話になるな。
「──その全員が逃げ帰ってきたのだ」
逃げ帰ったのかよ!
まあ、生きていて良かったけど。
「調査に向かった冒険者達によると、ダンジョンの奥にドラゴンがいたそうだ。無論、冒険者達は戦いを挑んだが、返り討ちに遭ったとの事だ。そこで、中央のギルドから協力の要請を受けた。このセービルの町から勇気ある冒険者を募りたい」
……ドラゴンか。
もしかすると、この前の魔族が言っていた災厄ってのはこの事だったのだろうか。
「俺達にそのドラゴンを倒してこいとか、ふざけた事を言わないよな!?」
「そうだ! 中央の冒険者が歯が立たないなら、俺達がどうにかできる訳が無いだろ!!」
「私達に死んで来いって言うの!?」
途端に周囲の冒険者達がざわめき出した。
そりゃ、自分達より強い冒険者でも歯が立たない相手を倒せとか言われたら、ふざけるなって事になるよなあ。
「まあ、そう言わないでくれ。ギルド協会は相互扶助で成り立っているので、ウチとしても冒険者を派遣しないといけない立場なのだ。形だけでいい、セービルの町から冒険者が立ち向かったという事にしたいのだ。頼む、誰か行ってくれないと私の立場が危うくなるのだ」
とんでもねえ話だな。
こういった事は、どこの世界にもあるのだな。
「俺は降りるぜ! こんな事に付き合ってられるか!」
「だよな、ドラゴンなんて命がいくつあっても足りないからな!」
「私も推し活が忙しいので無理だから!」
集まった冒険者達が口々に文句を言い、その場を後にしようとするのをニドアールが睨みつける。
「これはギルドマスターの強制依頼だ! 正当な理由なく断ると違約金が発生するからな!」
今度は開き直ったよ。流石に違約金を盾にするとか卑怯極まりない。
気楽に見える冒険者稼業も、時にはこういった事態が起こり得るか。
案の定、冒険者達が怒り狂っている。
「まあ、落ち着け。全員が行けとは言っていない。誰かが代表して行ってくれればいいのだ。ドラゴンと戦う振りだけして逃げ帰っても良い。どうだ?」
「そんなの信じられるか! 他の冒険者と組まされて監視されるに決まっている!」
「敵前逃亡で罰せられないとも限らないぞ!」
「私が美し過ぎて、ドラゴンの生贄にされたらどうするのよ!?」
形だけ行って来いと言われても、信用ならんよなあ。
さて、俺達はどうするかな。古今東西、ドラゴンと言ったら最強の存在と言われる。
そんなのを相手にして、どうにかなるってレベルの話では無いだろう。
隣のミユに目を向けたら、何やら鼻息が荒い様子。
「クラタん、アタシはドラゴンと戦ってみたいにゃ!」
おいおい、ミユさんよう。
いくら強くなったからと言って、少しばかり調子に乗りすぎじゃないかね。
普通の人類が敵う相手では無いはずだ。
「ふむ、ドラゴンですか。素材が欲しい……じゃなく、私も興味ありますね」
突然背後から耳元に声を掛けられた。
「うお!? エーシャかよ!? いつからいたんだ!?」
「うふふ。面白そうな話だったので、最初からおとうさんの背後にいましたよ」
まったく意味が分からん。
いるのなら最初から顔を出しておけよ。
「あれ? エーシャって冒険者じゃないにゃ。どうしてここにいるのにゃ?」
「ミユさん、細かい事はどうでもいいのです。素材が欲しい……じゃなく、ドラゴンの生態に興味があるのですよ」
こいつ、さっきからドラゴンの素材が欲しいとしか言ってないよな。
ドラゴンの素材はとんでもなく高価なのだろうけど、欲望駄々洩れだろ。
「そっか。エーシャも興味があるのなら問題は無いのにゃ。はーい! クラタんが代表で行ってくるのにゃ! もちろんアタシも行くにゃ!」
「は? 待てよミユ! 勝手に決めるな!!」
「よし、決まりだな。勇気あるクラタ殿達がこの町の冒険者を代表して行ってくれる事になった! みんな、クラタ殿達を称えようではないか!!」
「流石ベテラン冒険者は違うぜ!」
「伊達にオッサンじゃないな!」
「そーれ! ク・ラ・タ! ク・ラ・タ! ク・ラ・タ!」
「ク・ラ・タ! ク・ラ・タ! ク・ラ・タ!」
「ク・ラ・タ! ク・ラ・タ! ク・ラ・タ!」
申し合わせたように、冒険者達の大合唱が始まってしまった。
汚い! 本当に汚いぞギルマスめ!!
後で覚えておけよ!!
怒りに震えていると、心配する様子のアイニが近づいてきた。
誰かに縋りたいって目をしている。
「クラタさん、無理はしないでくださいね。……でも、本当に助かりました」
「……気にするな。こういうのは、誰かがやらなくてはいけないのだろうからな」
「そうにゃ! 誰かがやらなくちゃいけない事なのにゃ!」
ミユさんや、君は少し黙ってようね。
「これも全てドラゴンの素材のため……じゃなくて生態調査です!」
エーシャ、君も黙ろうね。
「実は今回の事で、私の父が各地のギルドに冒険者を派遣させろと指示を出したのが発端でして……」
自分の親の無茶振りに俺達を巻き込んでしまって、申し訳ないって事か。
この子はいつも苦労してるな。俺にできるのは、元気づける事しかできない。
「任せろ、俺が務めを果たしてくるよ。大船に乗った気でいてくれ」
「流石クラタんにゃ! 頼りになるにゃ!」
「こうまで大見得を切ったのです。もちろんドラゴンを倒して、私に素材を提供してくれますよね?」
そこの二人はいい加減に黙りなさい。
「本当に無理はしないでくださいね? 本当ですよ?」
「ああ、大丈夫だ。心配するなって」
そんなこんなで、ギルマスの部屋で詳細を聞き終えたついでにギルマスの頭を引っ叩いて自宅に戻る事にした。
◆◆◆
「ふーん。ドラゴンねえ……。まさか、ソウジは本気で挑むつもりなの?」
帰宅早々、リグミナは興味無さそうにソファーにふんぞり返っている。
ムカついたので叩き落としてやろうか。
「聞けば、ドラゴンは問答無用で暴れてる訳じゃ無さそうだし、下手に手を出さずに様子を見てくるだけだ」
「ま、それが賢明じゃない? いくらミユちゃんが強くなったからって、相手はドラゴンだしね。……正直言うと、ドラゴンの魔石が欲しいんだけど」
そうやって期待するような目で見るな。
魔石を欲するリグミナだが、先日の魔物討伐の際に入手した魔狼とゴブリンキングの魔石を与えたら、そこそこ女神の力を取り戻した模様だ。
本人曰く、フルパワーには全然足りないとの事だが。
「私が力を取り戻したら、ソウジの力も強くなるのよ。悪い話じゃないよね?」
ちなみにだが、リグミナに魔石を与えたら地味に俺の能力も上がったのだ。
敵を倒してレベルが上がらない代わりに、こうしてレベルアップするしかないのだろう。
「ふふふ。ソウジさんは本当にトラブルの女神に愛されていますねぇ」
いつの間にか湧いてきた奴隷商のアルジットが訳知り顔で頷いている。
こいつも女神本人が目の前にいるなんて、夢にも思わないだろうなあ……。
「べ、別に愛してなんかいないからね!」
リグミナは、トラブルの女神って自覚はあるんだな。
「ところで、クラタの旦那。こちらのべっぴんのお嬢さんは、どちらさんで? 新たな妾ですかい?」
失礼な事をほざくのは、アルジット同様に湧いてきた情報屋のオヤジだ。
そのオヤジが気にするのがエーシャの事である。
「私、魔道具店を営むテルエーシャですよ。何度もご贔屓にしてもらってますけど、分かりませんか?」
そういいながら、エーシャはマナシエを膝の上に乗せて抱きしめる。
マナシエもすっかり懐いてるな。最近ではエーシャの事を『先生』と呼んで慕っているのだ。
言っておくが、断じてジェラシーを感じている訳では無いぞ。
「いやはや、これはたまげたなあ! あの店主がこんなに変わるものですかい」
情報屋のオヤジがエーシャを見て絶句している。
確かに、あのだらしのない姿を知っていたら誰だって驚くわな。
「そんな事よりさ、中央の町ってここからどのくらい掛かるんだ? 交通手段とか考えないといけないだろ」
徒歩で行ける距離なのか、馬車を使うのか。
それによって、旅支度だって考えないといけない。
「ふむ。少々長旅になるようですから、うちから護衛として手練れの奴隷を同行させましょうか」
「それは助かる。アルジット」
「いえいえ。私お気に入りの奴隷でして、胸板がとても厚いのですよ。寝る時に抱きしめられると、それはそれは天にも昇る気持ちになりましてね」
「……いや、今回は遠慮させてもらおう」
「遠慮なさらなくてもいいのですよ、ソウジさん」
護衛と言いつつ、就寝時に一番身の危険を感じる奴なんて要らんわ。
そもそも、ミユとエーシャがいるのだし、その辺の盗賊風情では彼女達に敵わないだろう。
「クラタの旦那! 交通手段なら、あっしの方でご用立てしますぜ?」
「それは助かる。オヤジ」
「いえいえ。少しばかり乗り心地の悪い馬車ですが、速さだけは折り紙付きですぜ。時々、旅人を撥ね飛ばしてしまうのが玉に瑕ですが」
「……いや、今回は遠慮させてもらおう」
「旦那、遠慮なんてしなくていいんですぜ」
旅人を撥ね飛ばす時点で大惨事だろ。
目的地に着く前にお縄になるわ。
まったく、俺の周囲にはまともな協力者はいないのかよ。
「交通手段ですか……。そういえば、良い物があったはずです」
エーシャが何やら思い出したようにつぶやいた。
魔道具店を営んでるぐらいだから、何か良い物の一つや二つぐらい持っているのだろう。これは期待していいよな?
それはそうと、腹部のポケットをまさぐっているのだが、それは異次元に繋がっているのですかね。
「あった、あった、ありました! 大きいので家の外で出しますね」
言われるまま、全員で家の外に出ると、エーシャが腹部のポケットから車を出した。
……車!?
思わず二度見した。
どう見ても、四人乗りのオフロード車である。
異世界人、仕事し過ぎだろ!!




