11 少女と子供
戦後、敗戦国の尻拭いをするのはいつだって若い世代、すなわち若者と子供だ。戦争を引き起こした大人らは首を斬られても、贖罪の義務と非難は残り続ける。誰もが望まない立場を、責務を、重荷を背負って生き続けなければならない。目の前の小さな子供でさえも、未だ生まれていない新たな命も、そして私も…
「な、なんか用があるのか…ありますか?」
子供がやや緊張しながら聞いてきた。しまった、子供を見ながらボケっと考えていた。
「いや、なんでもないよ」
ヴァネッサはそういって子供から目を話すが、子供をよく見るとティーンエージャーになるかならないかといったぐらいの顔立ちで、身長が150cmはあった。そういえば前にあったときはもう1人いたなあと思い、
「ねえ、家族はほかにいるの?」
ときいてみた。
「弟が一人と母さんがいる。…父さんは徴兵されて死んじゃった」
「そう…ごめんね、聞いて」
ヴァネッサは予想通りの答えを得て満足した。ただ、知ったからといって何かするわけでもないが。
「…おねーさんの家族はどうなんですか?」
「どうって、どういうこと?」
「その…みんな無事なんですか?」
気まずそうにしながらも勇気を出して聞いてくる子供に、ヴァネッサは驚いていた。まさか聞かれるとは思ってもいなかった。
「私も同じ父親を戦争でなくしているよ。君と同じく」
ヴァネッサの返答に子供は少し考えるように下を向き、そして勇気を出して聞いてきた。
「…あの、寂しくないんですか?お、俺は父さんはいなくて寂しいけど、その、おねーさんは平気そうにしているから、どうやったらおねーさんみたいに平気でいられん…いられるのですか?」
子供の質問にヴァネッサは考える。慣れているから、と正直に答えるのは子供には酷だろうか。それとも、実は悲しいけど顔に出ないようにしているとするか。はたまた、逆切れをして怒るか…流石に大人げないのでしないが。
ヴァネッサが悩んでいると店のドアが乱暴に開いた。入り口を見ると元気な若い男が2人いた。
身なりが良く、元気にあふれている。何よりご飯を満足に食べているであろうおなかが彼らが貴族であると物語っていた。
帝国には、上から皇族、貴族、平民と身分が分かれていて国民の90%以上はは平民だ。領地を統治して税を取り上げるたり政治をすることが貴族の主な仕事が。徴兵の対象は平民で貴族は志願制となっている。
ヴァネッサも戦場で貴族がいたことを思い出した。ただ、総じて使えなかったが。貴族はプライドが高く平民の上官の命令を聞かなかったり、理想と現実の乖離に悩み苦悩するのほとんどどちらかの人材しかいなかった。ただ、どちらも長生き出来ないことは共有しているが。
「おいおいなんだこの店の服はよ。こんな服じゃ恥ずかしくて外に出られりゃしないぜ」
男の一人、身長が170㎝で金髪の小太りな男は嫌味臭く言いながら、店にある服を1つ取り、床において踏みつけた。
「ほんとその通りですな、兄さん」
身長160㎝、金髪でふくよかな体の持ち主が続けて言い放つ。
「このやろう!」
子供の顔は赤く見ただけで怒り狂っているのは分かる。
「貴様、貴族に向かってその態度は何だ。反抗的なガキにはお仕置きが必要かな?」
「ええ、全くもってその通りですな、兄さん」
ヴァネッサは、弟さんよ、お前はイエスマンかと聞きたい所だが、いまはそれどころではなかった。子供は貴族を睨みつけたまま、何も言えずただじっとしている。だが、手は怒りで震えていた。
「まだ、立場が分からないようだな、このガキは。愚かで無知なお前に我々が特別に教えてやるが、貴族に立てつけばこの店はすぐにでも無くなり、お前は路頭に迷うことになるんだぞ。」
子供の顔は青ざめるが、目は怒り気持ちで満ち溢れていた。しかし、これ以上は逆らえないことを分かっているのか、または自分のせいで店を潰すわけにはいかないと思ったのか
「先ほど、失礼な態度を取ってしまい大変申し訳ございませんでした。」
子供は頭を下げ謝罪する。
「最初からそうしておけばよいものにな!」
そう言って小太りの貴族は杖で子供を殴った。子供は壁に当たりそのまま倒れた。カウンターで倒れた子供は見えなくなった。
「そこのお嬢ちゃん、こんなみすぼらしい服よりもっといい服を与えよう。さあ、我が家に来なさい」
小太りの貴族はイヤらしい目でヴァネッサを見ながら言った。
「この子には悪いことしたなあ」
ヴァネッサは誰にも聞こえないような声で呟いた。この子はとばっちりでケガを負った。あれほどいきよいよく頭を打ち、そのまま壁にぶつかっているためすぐにでもケガの具合を確認したいが、貴族が邪魔で何もできない。
ヴァネッサも家に何かされるのはイヤだけど家にお持ち帰りされるのは御免だった。どうするか少しだけ悩み、殺さない程度に脅せばあっちから近づいてこなくなると思いヴァネッサは小太りの貴族を鋭く睨めつけた。
戦場帰りの元軍人の凄みに驚いたのか、一歩、また一歩と後ずさりした。
「な、な、なんだその目つきは!、わっ、私は、きっ、貴族だぞ!わ、分かって、ひっ!」
ヴァネッサがさらに鋭く睨みつけると、さらにヴァネッサを恐れ、尻もちまでついてヴァネッサをみた。まるで、何かおぞましいモノを見るかのように。弟の方はすでに商品の裏に隠れて、怯えながらヴァネッサのことを見ていた。
「どうかしましましたか?」
ヴァネッサが優しく声をかけるが、それが余計貴族たちを怖がらせた。もっとも、今どんな言葉をかけても結果は同じだったが。平和な暮らしを送っているボンボンはこういったことに慣れていないのだろう。きっと軍隊に入り教官にでもにらまれたら、即おもらしでもするんじゃないのかと思うほどに。
「お、お前!今に見てろよ!か、必ず痛い目にあわ…」
小太りの貴族が言い終わる前に店のドアがゆっくりと開けられ男が1人入ってきた。
「ごめんください、誰かいらっしゃいますか?」




