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桜並木を、あなたと共に  作者: 真祖しろねこ
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~本当の理由と本当の名前~

 結局、放課後になっても雪は止まず、僕たちは帰りも大雪の中を歩くことになった。

「あーさぶかったですわ。灯華、温かい紅茶を用意してくださいな」

 無事に屋敷まで帰ってきた僕たちは分厚いコートを脱いだ。

「はい、かしこまりました。すぐにご用意しますので食堂でお待ちください」

「灯華、私のも頼む」

「はい、柚希様とユリアさんの分もご用意しますね」

 僕は3人分の紅茶を用意するためキッチンへと向かった。

 以前に藤田さんから教わったジンジャーティーを用意して食堂へ行くとヘレーネ様とユリアさんしかいなかった。

「お待たせいたしました。柚希様はどちらに行かれましたか?」

「あぁ柚希ならフジタに呼ばれて行きましたわよ。どうやらトーカのことも探していたみたいですから探しに行ったほうがいいかもしれませんわ」

「わかりました。ありがとうございます」

 僕はとりあえず3人分の紅茶を置いて柚希様と藤田さんを探しに食堂を出た。




「あぁ灯華、ちょうど良かった。少し話があるんだ」

 2階の柚希様の部屋に向かおうとしている途中でちょうど柚希様と藤田さんに出会った。

 そのまま僕たちは藤田さんの部屋へと行き、中へ入った。

 藤田さんの個室に入るのは初めてだったので少しわくわくしたが、内装はやはりというか藤田さんらしい感じだった。

 物は最小限の物だけ。生活できればいい、まるでモデルルームのような感じの部屋だったが、ベッドの上のぬいぐるみを見つけて少し頬が緩んだ。

「とりあえずそちらに座ってください」

 藤田さんに促され僕と柚希様は1つのソファーに隣合って座った。

「んで、それが手紙か?」

「はい、そうです」

 藤田さんは柚希様に便箋を渡す。

 既に開封されているそれを読むと大きくため息をついた。

 あまり良くない内容だったのだろうか。

「どこから話すか・・・」

 柚希様は僕の顔を見て決心されたようだ。

「縁談の話が来た」

 と、端的に述べた。

 もちろん藤田さんではない。柚希様に、だ。

「そうだったんですね、あまり良いお話ではないのですか?」

 縁談なら普通は嬉しいことなのではないだろうか。もちろんほかに恋人が居たりする場合は別だが・・・。

「最近成川家の存続が危ういくらいには財政の危機だ。だから良いところに嫁がせようとしてるみたいなんだ。政略結婚という言葉すら甘い」

 それはもちろん知っていた。最近低迷している家系なのは美羽様から聞いていたから。

「私自信、収入があるし軌道に乗っていて成功といっても過言ではないくらいには稼いでいる。だからあんな家どうなろうと構わないし、さっさとあんなのと関係を断ちたいからこんな縁談に乗るつもりはない」

 別に縁談云々ではなく、嫌いな本家のためになるなんて御免、ということだろう。

「なるほど・・・。私は柚希様の使用人ですからお考えに口出ししたりはしません。ですが私をこの場に呼んだということは何かすればいいのでしょうか」

「まぁ早い話はそうだ。一旦縁談の件は破棄してもらう。でも最もらしい理由がないとな。ただ嫌だからと理由では向こうも納得しないだろうからな」

 ということは僕の役目は1つ。

「悪いんだが私の恋人役を頼む」

 



 縁談自体は柚希様の関係ないところでどんどん話が進んでいるらしく早急に破談したいとのことで次の休みの日に成川家の本邸に行くことになった。

 もちろん行くのは柚希様、それからメイド長の藤田さん・・・そして恋人役の僕の3人だ。

「君には言ってなかったんだが・・・。私はこの日をずっと待ってたんだ」

「と、言いますと?」

「縁談の話がいつか持ち上がってくるのは分かってた。だからそれを破談にするのがずっと目的だったんだ。そうすれば間違いなく父は激怒するだろうし、上手くいけば勘当してくれるかもしれない。一応まだ未成年だからな。向こうから出て行ってくれと言ってくれないと不都合があるんだ」

 やはり柚希様は成川家の総裁殿とあまりうまくいってないみたいだ。

「破談する際には彼氏役が必要だろう?でも急に口裏合わせの男を雇っても話で間違いなくボロが出る。だから私のことをよく知る男性を用意しておく必要があったんだ」

 僕がずっと疑問に思っていたことがようやくわかった。

「君を男性と知りながら雇っていた理由はこれだ。今まで騙していて済まない」

 そう言って柚希様は頭を下げた。

「いえ、とんでもないです!頭を上げてください」

 柚希様は確かに学校へ通うためのお付を探していた。もちろん女性で探していたのだろう。

 でも気難しい柚希様に合う人が中々見つからず困っていたある日、仲の良い美羽様からちょうどいい人が居ると僕を紹介された。

 家事ができて、男性、女装すればお付もできる。

 男性というリスクは抱えるが1人で2役できる僕に白羽の矢が立ったというわけだ。

 隠していてごめんなさい、と藤田さんも謝るので僕は心が痛くなる。

 僕もまだ2人に隠していることがあるからだ。

 美羽様が紹介した際、柚希様には長光家で雇っている使用人、というふうに伝えたはずだ。

 だからまだ僕が長光家の一員であることを知らない。

 僕だけ隠し事をしたままなのは耐えられなくなってしまい、口を開いてしまった。

「・・・私も皆さんに隠していたことがあります」

 2人が頭を上げて僕の話を聞く。

「実は私、長光家の使用人ではないんです」

「え?使用人じゃない?」

 これにはさすがに柚希様も驚いたようだった。

 僕はお財布から運転免許証を取り出す。

 まだ誰にも見せたことがなかったその免許証には『長光瑞樹』という名前が記載されていた。

「黙っていてすいませんでした。私、長光家の次男なんです」

「あ・・・え?だって・・・」

 藤田さんも免許証と僕を交互に見て驚いているのが見てわかった。

「でも家事だって完璧だったし・・・どうりで立ち振る舞いが良いはずだ・・・」

「庶子ということで本家からはあまり良く思われていないため、次男ではなく使用人として過ごしてきましたので家事はできます」

「庶子・・・なるほど、美羽が隠してたわけだ」

 僕は長光家にとって身から出た錆でしかない。恥なのだろう、だから隠しておきたいとみんなが思ってる。

「長光家の者とは知らず済まなかった。とりあえずお付は続けて貰わないと困るが家事は他の人に--」

「いえ、やらせてください。確かに僕は長光瑞樹ですがここに居る間は尾上灯華として扱ってください」

「・・・いいんですか?」

「はい、これからもよろしくお願いします」

 藤田さんの問いかけに即答した。




「とりあえず君の正体は私達だけでの話だ。内密にしよう。末永はやらかしそうだ」

「ですね。ただでさえ男性という秘密を隠してもらってますのにその上上流階級の人だということも隠すのは彼女的には厳しそうです」

 ひどい・・・。

 僕は同僚の悪口を聞かされてしまった。

「まぁそこが彼女の良いところだし、だから雇ってるんだが・・・。まぁとりあえずこの件については置いておこう。私もまだ混乱してる」

「ですね・・・。とりあえずは灯華さんとして扱いますね」

「あ、はい。今までどおりでお願いします」

「じゃあもう1つの方の話を具体的に詰めよう。おそらくこの縁談は--」

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