~メイドに休みは難しい~
「あ、キウイはこうすると切りやすいですよ」
「む、なるほど」
「トーカ!柚希だけではなくて私にも教えてくださいな!」
文化祭に備えて僕たちはメニューとして出すドリンクの作る練習をするため、家庭科室に来ていた。
放課後のため、有志だけの参加だがクラスの7割くらいは参加してくれていた。
「あ、包丁は真上から押して切るのではなく、前後に動かして切るものです」
メイドだけなら簡単なメニューなので特に練習も必要ないが、せっかくだから花嫁修業の一貫として実際に自分たちでもやってみたいという声が出たため、こうして放課後に練習会が開かれるようになった。
3日目にもなるとみんな手慣れてきて教えることが減ってきた。
「尾上料理長、これでどうでしょうか」
気がつくと僕はクラス中から料理長と呼ばれるようになってしまった。
「はい、たいへん素晴らしいと思います。見た目も綺麗です」
多少やりにくいものの反抗されるほうが手間なのでこれはこれで良しとしよう。
ぐるっとみんなを見て回ってから柚希様のところへ戻ると不満そうな顔をしていた。
「灯華は私のメイドなのに・・・」
「まぁトーカは教え方も上手いですから人気になるのも仕方ないですわね。不満なら本人に言えばいいんじゃありません?」
「嫉妬なんてする性格じゃないはずなんだがな・・・」
何かをヘレーネ様と話し合っているようなので一旦戻ろうかな
「すいません戻りました。あ、とても上達してますね。美味しそうです」
僕は柚希様が作ったパインジュースはとても美味しそうにできていた。
「・・・不思議だな。君と話してるとさっきまでの馬鹿らしい想いが霧散してくよ」
「何かお悩みですか?相談があるのでしたら話し相手にはなりますよ」
「いや、大丈夫だ。君が居てくれればそれでいい」
いつもどうりで良いということだろうか
文化祭2日前、最終確認のため、放課後にクラスへ集まっていた。
「灯華、絵は?」
「はい、さきほど福田先生に渡してきました」
今日は木曜日だが、金曜日が祝日のため、明日と土曜日は学校がない。
だから今日が準備期間の最終日ということになる。
もちろん終わってないクラスは金曜日土曜日に自主的に登校することが許可されている。が、僕たちのクラスはきっちりと期間までに準備が終わった。
元々用意するものは少ないというのも大きかったが、クラス長や仕切りを取った柚希様、ヘレーネ様の尽力が大きかったように思う。
驚くべきなのはこの準備期間、クラスでの作業をしながら数名は新しい絵を描いていたということだ。
7割以上の生徒が授業の作品を提出する中、このクラスでは柚希様、ヘレーネ様、神林様、それからクラス長の佐瀬さんも空いた時間を作っては制作の時間に当てていたのだ。
「ならあとは当日を迎えるだけだな」
「はい、今から楽しみです」
今度の日曜日は暑い日になりそうだ。
お祭りの前日、土曜日ということで朝からお庭の掃き掃除をしていたところ、藤田さんがやってきた。
「本日はお休みにしたと思ったんですが・・・」
「はい、なので部屋に居たのですが何もすることがなくてつい・・・」
「はぁ・・・」
なぜか深いため息をつかれてしまった。
「灯華さんはとても良く働いてくれています。男性でなかったら卒業後も是非といいたいくらいです」
珍しく藤田さんに褒められたので照れてしまう。
「ですが!この前の休日も結局休まずに琴山さんの手伝いをしていたそうですね」
確かに庭担当の琴山さんが資材運びで大変そうだったので、最初は運ぶだけのつもりだったのだが結局最後まで手伝ったことを思い出す。
「休みの日は休むのが仕事です。まして明日は文化祭なのでしょう?倒れたりされたら一大事です。学校ではフォローできないんですよ」
「すいません・・・やりかけなのでこれだけ終わったら部屋に戻ります」
「働いてくれるのはとても嬉しいですが、自分の体にも気を使ってください。あなたの代わりはいないんですから」
優しく諭して藤田さんは屋敷の中へ戻っていった。
庭掃除を終わらせた僕はとうとうやることがなくなり、とりあえずベッドに倒れ込んだ。
時計はまだ1時。夕食の用意までは5時間もある・・・あ、今日は用意しなくていいんだ・・・。
お昼寝でもしようと思って布団を被るが全く眠くならない。1時間くらいは経ったかなと思って確認すると5分しか経ってなかった。
それを4回繰り返したところでお昼寝は諦め、別の何かを探すことにした。
アトリエの掃除でも・・・あぁダメだった。また藤田さんに怒られちゃう。
部屋の中をウロウロ歩いていると突然スマホが鳴って思わず飛び上がってしまった。
『アトリエに来てくれ』という内容のメールが柚希様から来ていた。
用があるなら内線で呼べばいいのに・・・。スマホだと気づかない可能性だってあるのな。
「お待たせいたしました」
アトリエの鍵は空いていたのでそのまま中に入る。
「ん?あぁ来てくれたのかありがとう」
「何か御用でしょうか」
「いや、特に用事があるわけじゃないんだ。ただ藤田が珍しく私に愚痴をこぼしたんだ」
「藤田さんがですか?」
「あぁ、灯華が休日なのに休まないってな」
藤田さん、なにも柚希様に言わなくても・・・。
「どうせ暇を持て余して部屋をウロウロしてると思ったからこうして呼んだんだ」
「うっ」
まるで僕を見ていたかのようだ。
「図星だろう。私も今日は筆が乗らなくて描くのをやめたところだったんだ。だから暇同士、適当に遊ぼうかと思ってな」
そうか。だから僕を内線ではなく、メールで呼び出したんだ。
使用人としてではなく、友人として僕を呼ぶため。
「わかりました。でしたら何をしましょうか」
「君は絵を描いたことがあるか?」
「いえ、一度もないです」
「ならそれにしよう。画材は使っていい。絵を描こうじゃないか」




