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魔力の均衡  作者: 酒酔
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欲望の鉱坑

「魔晶石一つで夢が叶うはずだった——しかし、世界はいつも代償を求める。」

鉱山街ガルドリアでは、魔晶石を動力とする「欲望感知の指輪」が密かなブームとなっていた。

この指輪をはめると、周囲の人間の「強い欲望」を色や強さで感じ取れるという道具だった。鉱夫たちは同僚の「もっと稼ぎたい」という欲望を察知して競争を激化させ、商人は客の「欲しい」という欲望を先読みして高値で売り、貴族たちは相手の野心を読み取って策略を巡らせた。

街は欲望に満ち溢れ、誰もが「自分の欲を満たす」ために動き、鉱山の生産は飛躍的に上がった。

ある敏腕鉱山主Fは、さらに強力な「完全欲望感知の指輪」を開発した。大きな魔晶石を使い、他人の欲望だけでなく、その欲望の「根源的な強さ」や「対象」まで詳細に読み取れるものだ。

「これでガルドリアは、真の意味で欲望の街になる。誰もが互いの欲を理解し、効率的に満たし合える」

指輪はすぐに普及した。鉱夫は上司の「もっと搾取したい」という欲望を感じ取り、必死に働いた。商人は客の「もっと安く」という欲望を先回りし、貴族はライバルの「権力を奪いたい」という欲望を察知して先手を打った。人々は互いの欲望を「共有」しているような心地よさを感じ、街全体が活気づいた。

しかし、数ヶ月後、異変が起きた。

欲望の情報が多すぎ、強すぎた。

指輪を通じて、他人の貪欲が洪水のように流れ込んでくる。鉱夫は皆の「金が欲しい」「休みたいのに働かせたい」という欲望に苛まれ、商人は客と同僚の無限の「もっともっと」という欲に押しつぶされ、貴族たちは互いの暗い野心に怯え始めた。

やがて、人々は指輪を外せなくなった。外せば「自分の欲望だけが満たされない」と恐れ、外しても他人の欲望が頭から離れなくなった。街は欲望の渦に飲み込まれ、誰もが相手の欲を責め合い、争いが激化し、労働は停滞し、交易は崩れた。

Fは最後に、完全欲望感知の指輪の小さな注意書きを読んだ。

そこにはこう記されていた。

「他人の欲望を知ることはできる。しかし、知りすぎれば、自分の欲望すら他人のもののように感じ、世界は貪欲の鏡像だけになる。人間の均衡は、欲望を少しだけ隠すところでこそ保たれていた」

ガルドリアは欲望に蝕まれた廃墟となった。

今ではその街は「欲望の鉱坑」と呼ばれ、誰も指輪をはめようとしなくなった。

「魔力の均衡は、決して保たれなかった。人間がそれを試すたび、世界は静かに、しかし確実に代償を回収した。」

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