幼女王の花都(10)
「魔晶石一つで夢が叶うはずだった——しかし、世界はいつも代償を求める。」
幻惑の花都エンヴィリアでは、魅惑の女王リリアーナが幼女の姿になったまま一年が経とうとしていた。
彼女は今、六歳ほどの美幼女の姿になっていたが、声はまだ幼く、手足の動きも時折ぎこちなかった。
頭の花冠は相変わらず外れなかった。
侍女長シルフィーナの偏愛は、日を追うごとに激しくなっていた。
朝、リリアーナが目を覚ますと、シルフィーナはすでにベッドの横に跪いていた。
「女王様、おはようございます。今日も世界一可愛らしいお姿ですね」
そう言いながら、彼女はリリアーナの小さな体を抱き上げ、頰を何度もすり寄せた。
リリアーナが「離せ」と小さな声で抵抗しても、シルフィーナは幸せそうに目を細めるだけだった。
食事の時間になると、シルフィーナは他の侍女を遠ざけ、自分だけでスプーンを運んだ。
「はい、女王様。あーんしてください。
この小さな口に、私だけが食べさせてあげられるんですのよ」
お風呂の時間は特に激しかった。
シルフィーナは他の侍女を浴室の外に追い出し、一人でリリアーナの体を洗いながら、
「この柔らかい肩、この銀色の髪……すべて私のものですわ」
と何度も呟いていた。
そんなシルフィーナの独占ぶりに、他の侍女たちの嫉妬は燃え上がっていた。
若い侍女ミリアは、廊下の陰で拳を握りしめていた。
「あの女……毎日女王様を抱きしめている。
私だって、あの小さな手を握りたいのに」
中堅のエレナは、厨房でナイフを握りながら毒づいた。
「シルフィーナ様ばかりが『あーん』をしている。
私も女王様の唇にスプーンを近づけたい。
なぜいつもあの女だけなの?」
新入りのルナは、夜の控え室で他の二人と顔を寄せ合った。
「女王様を独り占めするのは許せない。
私たちも、あの可愛らしい寝顔を近くで見たい……」
ある日、リリアーナが玉座の上で小さな声で言った。
「今日はシルフィーナ以外が私の髪を梳け。」
その瞬間、三人の侍女の目が同時に輝いた。
ミリアが真っ先に飛び出し、「私がやります!」と叫んだ。
エレナが「いえ、私です!」と押し退け、
ルナが「新入りの私が一番丁寧にできます!」と割って入った。
三人はリリアーナの銀色の髪を巡って軽く揉み合い始めた。
シルフィーナは静かに近づき、三人を優しく、しかし力強く引き離した。
「皆さん、女王様を驚かせてはいけません。
この子の髪を梳くのは、私の役目ですわ」
リリアーナは玉座の上で小さくため息をついた。
「私はお前たちの玩具ではない……」
しかしその声は幼く、三人の侍女は揃って目を細めた。
「「「可愛い……」」」
シルフィーナは満足げに微笑み、リリアーナの頭を優しく抱き寄せた。
他の三人は悔しそうに唇を噛みながら、遠くからじっと見つめていた。
今ではその花都は「幼女王の都」と呼ばれ、
リリアーナを巡る侍女たちの静かな取り合いは、毎日続いている。
リリアーナは時々、玉座の上で小さく呟く。
「……私は四天王だったはずだ。」
しかしその声は、誰にも届かないまま、
シルフィーナの優しい抱擁と、他の侍女たちの熱い視線の中に溶けていった。
「魔力の均衡は、決して保たれなかった。人間がそれを試すたび、世界は静かに、しかし確実に代償を回収した。」




