仮面の湖都
「魔晶石一つで夢が叶うはずだった——しかし、世界はいつも代償を求める。」
王族の別邸が点在する湖畔の都市「アクアリウム」では、毎年夏になると王族が保養に訪れ、貴族たちが華やかな宴を開いていた。
技師Hは、王太子の密命を受けて「永遠の美貌の水」を完成させた。それは魔晶石を溶かした特殊な湖水で、浴びた者の肌や容姿を若く美しく保ち、老化をほぼ止めるように見えるものだった。
王太子は満足した。これで王族の威厳が永遠に続く。
王妃は微笑んだ。美しさが衰えないなら、宮廷の地位も安泰だ。
貴族の婦人たちは競って湖に飛び込み、肌を輝かせた。
商人たちは「王太子の恩恵」と称して高額の入浴料を徴収し、街はさらに賑わった。
Hは湖畔の工房で静かに微笑んだ。六度目の作品だ。王太子の望みを叶えることで、自分の技術はまた一つ進化したと。
水はすぐに街全体の湖に広がった。王太子と王族は毎日湖に入り、貴族たちは宴のたびに浴びた。街の人々は「この都市は永遠の若さと美の都になった」と信じた。湖は常に輝き、笑い声が絶えなかった。
しかし、数ヶ月が過ぎた。
王妃は気づき始めた。王太子の表情が、以前と同じ微笑みのまま固まっていることに。
貴族の婦人は、鏡を見ても自分の顔が微かに歪んでいるのを感じた。
商人たちは、美しくなった客たちが次第に感情を失い、ただ湖に入ることだけを繰り返すようになったことに気づいた。
やがて湖の水は人々の感情まで薄め始めた。王太子はいつまでも同じ言葉を繰り返し、貴族たちは笑うことしかできなくなり、街全体が美しく整った仮面のような表情で満たされた。誰も怒らず、誰も悲しまず、ただ「美しい」ことだけを続け、街の活力は静かに失われていった。
Hは最後に、水の生成装置に刻んだ小さな注意書きを読んだ。
「永遠の美貌の水を与えることはできる。しかし、王太子の血と六度重なれば、世界は本物の老いを六重に求める。偽りの若さは、感情の均衡を失う。」
湖畔の都市アクアリウムは、永遠の美貌を手に入れた。
ただし、その美貌は感情を失った人形の笑顔だけだった。
今ではその街は「仮面の湖都」と呼ばれ、誰も湖に近づかなくなった。
「魔力の均衡は、決して保たれなかった。人間がそれを試すたび、世界は静かに、しかし確実に代償を回収した。」




