偽旗の亡港
「魔晶石一つで夢が叶うはずだった——しかし、世界はいつも代償を求める。」
自由港クロスハーバーでは、海賊たちが日々、富と名声を求めて船を繰り出していた。本物の伝説の海賊船長は少なく、誰もが一攫千金を夢見ていた。
技師Hは、港の裏工房で「ニセモノの海賊旗」を完成させた。それは魔晶石を織り込んだ大旗で、掲げると周囲の船に恐怖と服従を植え付け、敵艦を一時的に混乱させる力を持つように見えた。実際は幻術と微弱な魔力で作られた偽物だった。
老海賊は旗を見て言った。これで俺の船は伝説になる。
若い船員は目を輝かせた。一攫千金だ。
商人たちは恐れ、交易ルートを譲った。
港の酒場の女は笑った。海賊たちが強くなったおかげで、酒の売り上げが上がる。
Hは工房で静かに微笑んだ。四度目のニセモノだ。これで自分の技術はさらに洗練されたと。
旗はすぐに広まった。多くの海賊船がニセモノの海賊旗を掲げ、近海は「無敵の海賊団」の噂で埋め尽くされた。略奪は容易になり、富が港に流れ込み、クロスハーバーはかつてない繁栄を見せた。人々は「この港は海の王者の街になった」と信じた。
しかし、数ヶ月が過ぎた。
老海賊は気づき始めた。旗の効果が、昨日と同じ船にしか効かないことに。
若い船員は、旗を掲げても敵艦が笑いながら反撃してくるのを見た。
商人たちは、次第に偽りの恐怖に慣れ、逆に海賊を狙うようになった。
やがて旗の幻術が干渉し合い、海全体が偽りの恐怖の霧に包まれた。船同士が互いに怯え、味方同士で争い始め、港の船は出港できなくなった。略奪は止まり、富の流れは途絶えた。
Hは最後に、旗の端に刻んだ小さな注意書きを読んだ。
「ニセモノの海賊旗を与えることはできる。しかし、四度繰り返せば、世界は本物の臆病を四重に求める。偽りの力は、重なるほど均衡を失う。」
自由港クロスハーバーは、偽りの海賊旗に導かれながら、静かに沈黙の港となった。
今ではその街は「偽旗の亡港」と呼ばれ、誰も海賊旗を掲げようとしなくなった。
「魔力の均衡は、決して保たれなかった。人間がそれを試すたび、世界は静かに、しかし確実に代償を回収した。」




