魔王様達はダンジョンを攻略するようです 後編
兵士とエスタの元に一体の鳥物と魚人族が襲い掛かる。
「エスタ様!我々の後ろにいてください!」
「エスタ様には指一本触れさせませんから!」
「カルロス……ラージス……」
エスタは自分の手を胸にあて、目を瞑る。
緑色と黄色の神々しい光がエスタの体から放出され、二人の兵士の体に纏う。
「来た来た来たぁ!エスタ様の魔術!」
「これで負けるなんてありえません!」
「……それはちょっと言いすぎなんじゃ」
大げさなふるまいにも捉えれるその行動にエスタは少し困惑しながら言葉を返す。
そして二人の兵士は迫りくる魚人族の水魔術を剣で跳ね返し、鳥物の羽の剣と兵士の剣がぶつかり金属音が鳴り響き、そのキィィィインという音が魚人族を襲った。
疲弊した瞬間を見逃さず、もう一人の兵士が魚人族に襲い切りかかる。
鳥物はその様子を見て一瞬行動が固まってしまう。
おそらくは響き渡る金属音を警戒していたのだろう。
魚人族が塵になって消えていくのを見て、咆哮を上げながら接近してきていた。
「言ったはずだ!エスタ様には指一本触れさせないと!」
魔力を最大限込め、羽の剣ごと鳥物の胴体を真っ二つにして兵士たちも俊介同様魔物討伐に成功。
「やりましたね!」
「はい!」
「……ッ!?エスタ様!」
エスタは喜んだ様子でカルロスとラージスに近づこうとするのだが……エスタの背後から一匹の鬼人が迫りくるのを目にする。
ラージスがいち早く気づき、走るのだがこの調子では間に合わない。
手を伸ばし慌てている様子を見てエスタは振り返る。
斧を振りかざし、その斧がエスタを襲おうと触れる……その瞬間。
斧がエスタの目の前でぴたりと止まり……塵となり消えていった。
ビリビリと電気を帯びているのを確認し、エスタと兵士二人は俊介が助けてくれたのだと確信する。
「けがはないですか?エスタさん」
「はい……ありがとうございます。俊介様」
優しい笑顔を向けながら近づいてくる俊介を見てエスタは少し頬を赤らめる。
(なに?この感じ……普通に助けてくれただけなのに……それなのに……)
もじもじとしているエスタを見て俊介は小首をかしげる。
「どうしました?」
「い、いえ!何でもないです!」
慌てて視線を逸らすエスタに肩を竦めるが、カルロスとラージスの方に視線を向けて安否確認をした。
「そちらは大丈夫でしたか?」
「はい!我々は大丈夫です!旦那に助けてもらわなかったら今頃やばかったです!ほんとにありがとうございます!」
「俊介殿万歳ですな!」
「……ハハハ、それちょっと気まずいからやめてくれ」
(ま……大丈夫そうだな)
俊介は頭を掻きながら軽く溜息を吐く。
そして視界の横にエスタを入れて先程の神々しい光について聞こうとするが、なんか今はそういう雰囲気じゃないので断念する俊介。
(あの聖魔術……ただの聖魔術じゃないように見えたけど、あれはいったい何だったんだ?)
あの緑色と黄色の光は持続回復の魔術だ。
だが、エスタが発動していたのはもっと光が強くそれこそ神々しいといえるものだった。
心なしか兵士たちの攻撃力、魔力量……スピードも上がっているように感じていた。
間近で見ているわけではなかったので確信は持てなかったが、エスタの聖魔術はもしかしたらとんでもない何かが秘めているのでは?と俊介はまじまじとエスタを見て……目が合う。
「ど、どうかされましたか?」
「あ、い、いえ!何でもないです!」
(やっべぇ……まじまじと見られて迷惑そうにしてるぅ……申し訳ねぇ!)
(私の顔に何かついてるのかな?いや、ついてない。え!じゃあなんで今俊介様は私の顔を見てたの!?)
エスタは自分の顔を触りながら、俊介に見られないように別の方向を見て顔を覆いながら頬の赤らみを隠す。
だが残念なことに耳が赤くなっているのは隠せず、兵士二人が微笑ましいなぁとエスタをみていた。
兵士二人に見つめられているのを感じたエスタは睨みつけるように振り返るのだが、これがまた全然怖くなく……頬を膨らませながら頬は赤く涙をうるうると浮かべていたのでカルロスとラージスは内心可愛いと思いながらも背筋をビシッとしながら……
「我々はこの先の様子を見てきます!」
「俊介様、エスタ様をよろしくお願いします!」
「はい……わかりました」
「あの二人……逃げたわね」
俊介は頭にクエスチョンマークをつけながらボソッと言うエスタの方へと視線を向け、エスタはまた慌てて視線を逸らす。
(……え。これってもしかして嫌われてる?)
エスタのその行動に俊介はかなり落ち込んでいた。
そしてエスタは誤魔かすように華麗にもものすごい勢いで鬼人を倒すリーサの方を見て言葉をこぼす。
「す……すごいですね」
「俺もちゃんと戦ってるところを見たのは初めてですけど……どっちが鬼なのかわかりませんね」
「え?初めてなのですか?」
「そうですよ……リーサともう一人城で待機している直属のメイドがいるんですけど、その二人はルーナが創ったメイドなんです」
「……そ、そうなんですね……」
ものすごい事を平気でいう俊介にエスタは理解が追い付いていない様子で言葉を返していた。
(創った?創ったって……リーサさんを?普通に人じゃん!どういうこと?)
心の中で困惑しながら戦っているリーサの方へと視線を向ける。
驚くのも無理はないだろう。エスタはリーサに助けてもらった恩人でもある。
それなのにその正体は俊介の事が大好きな変態メイド……ではなく魔王ルーナによって創られたメイドなのだから。
それが理由で嫌いになるとかは絶対にない。
ただただ驚きを隠せていないだけなのだ。
(まぁそりゃ驚くよなぁ……いまだに俺も信じれないし)
驚いているエスタを見ながら俊介も心の中で頷く。
そうこうしているうちに、鬼人の人数も減り……そろそろリーサの戦闘も終わろうとしていた。
(前衛はもう倒しきったけど……後衛の魔術使いがかなり厄介)
近接でいくらせめても魔術を避けるのに精一杯。人数も減ったとはいえ後衛の鬼人たちは軒並み揃っている。
「そろそろ、あれを出してもよさそうですね」
深呼吸をして、剣を抜く構えを取るリーサ。
「剣を……持ってないのに構えを!?」
エスタはその行動に驚き、俊介はただまじまじと見ているだけだった。
リーサは構えを取ったまま目を瞑る。当然鬼人たちはその様子を見て魔術を発動しそれを放っていた。
「……危ない!」
エスタがそう叫んだ直後、リーサの体の周りを赤い雷が覆う。
バリバリと音を立て、瞬きをする間もなく背後に回り……数体の鬼人の首を無駄なく落としていた。
「雷魔術……王級『緋雷神』」
「……王級!?」
「やっぱリーサも王級魔術が使えたか」
どんどん声がでかくなるエスタ。俊介は笑みを浮かべながらも冷汗を流しリーサの術を見て驚いていた。
(もしかしたらッて思ったけど……ここまでの奴だとは。まぁルーナが創ったメイドだしあり得るか……)
皮肉にも俊介の得意魔術である雷を使用するリーサ。俊介は苦笑しながらルーナの気まぐれかただの偶然なのかと思考していた。
「全員はやりきれなかったですか……情けないですね」
赤い雷の剣を抜いたまま後ろから迫りくる鬼人をリーサは振り向くことなくそのまま剣を逆手に持ち突き刺し……炎魔術で体全体を燃やし塵にした。
「す……すごい。最後の鬼人も見ずに倒してしまいました……」
「すみません。少し手間取ってしまいました」
「いや、よくやったよ。すげぇなリーサ」
「え?そ……そうですか?シュン様の方が凄いと思いますけど」
リーサはポカンとした様子で見て俊介は軽く頭を掻くだけしてそれ以上は何も言わなかった。
と、ようやく自分が褒められたと自覚するリーサは俊介に体を寄せて頬を赤らめながら言った。
「わたくしも……シュン様と同じく雷魔術が得意なんですよ。これってもしかして運命……」
「へいへい……今後ともその調子で頼むよ」
「んもう!シュン様ったら釣れないですね」
「釣れてたまるか」
漫才のようないつものやりとりを見せられエスタは少しもやっとしながらもカルロスとラージスが向かった方へと視線を向けた。
すると、カルロスが大きく手を振ってこちらに知らせに来ていた。
「エスタ様!俊介の旦那!階段を見つけましたぜ!」
「階段?私達も向かいましょう」
「ああ、そうだな……リーサ、行けそうか?」
「大丈夫です!お姫様雑庫してくれたらもっと回復します」
「よし、大丈夫そうだな」
三人はカルロスとラージスの方に向かい、下り階段を目にする。
「ダンジョンだからそりゃ……下るか」
「そこはあんま関係ないと思いますよ……ですが聞いたことがあります。ダンジョンは上るより下る方が敵が何倍も強くなると……」
「そうなんですか?エスタさん」
「はい。やはりこのダンジョンは……ラビリス帝国が仕掛けたもので間違いないですね」
エスタの言葉に俊介とリーサは頷く。
突発的なダンジョンに加えて下りの階段……これはもう確定といっていいだろう。
階段を下ろうとする兵士に待ったをかけ、俊介は魔力をダンジョン全体に張り巡らせた。
(三階層のダンジョン……確かに次の階の敵はさっき戦ったやつより強そうだな。まださすがにどんな敵かはわからないけど、魔力がかなり多いのが分かる)
固唾を呑み込み、俊介は覚悟する。
そして全員の方に視線を向け……階段を下った。
「さっきよりも……禍々しいですね」
「門をくぐる前の禍々しいオーラに近づいてってるって感じだ……」
カルロスとラージスはそう言い、エスタは肩を竦めながらゆっくりと進む。
リーサはエスタの傍を離れず、いつ敵が襲ってきてもいいように迎撃態勢を取っていた。
「とりあえず、この辺にまだ敵はいないから大丈夫だ」
「ふぅ……よかったです」
(それにしても……確かに門から漂っていた禍々しいオーラと近しいものを感じるな……おそらくはこのダンジョンのボスか)
そう思考しながら俊介は先に進む。
しばらくすると、前方に敵を確認する。
「あれは……一体……」
「ゴブリンの肌に……四足歩行……それに羽も生えていますよ!?」
瞬間、その四足歩行の敵は氷魔術を発動しつららを飛ばしてきていた。
俊介は瞬時に全員に指示を出す。
「みんな構えろ!おそらくはさっき戦ったやつのごちゃ混ぜ……キメラだ!」
「キメラ!?」
(ゴブリンの肌に狼のような鋭い爪をもった四足歩行に鳥物の羽……おそらく魚人族のものだろう。鬼人の要素はどこだ……?)
俊介は炎魔術で氷魔術を相殺し、それと同時に勢いよく接近してきたキメラは自分の羽から剣を生成し二足歩行になり襲ってきていた。
その攻撃をよけ、俊介は体を回転させながら回し蹴りをくらわせる。
(固い……ゴブリンの肉体に近接特化型の鬼人……と言った所か)
「シュン様!上です!」
「……ッ!?」
リーサが大きな声を上げ、俊介は上を見る。氷魔術で生成されたものすごいデカいボールが落ちてこようとしていた。
俊介はバックジャンプで後ろに後退しながら態勢を整える。
(なるほど、術の展開も強さも……さっきより数段上って事だな)
キメラらしい攻撃をしてきた敵に俊介はにやりと笑みを浮かべながら全員に指示を出した。
「カルロスさんとラージスさんは今まで通りエスタさんを守りながら他に敵が来ないか注視してください!」
「「了解!」」
「シュン様……わたくしは……」
リーサは自分でエスタを守った方がいいと考えながらも、このキメラが強敵だと分かっていたため一緒に戦った方がいいのではという視線を送る。当然俊介も分かっていたがリーサをどうするか……そこを悩んでいた。
(確実にエスタさんを守るようにすればいいが、すぐに片して先に進みたい……)
俊介は一瞬目を瞑り、すぐに開けてリーサを見る。
「お前はエスタを守ってくれ。頼む」
「ですが————」
(……シュン様……)
俊介の真剣なまなざしを見てしまえば、リーサは何も言えない。
主を信じ、リーサは一歩引く。
「ありがとう。リーサ」
「くれぐれも……お怪我をなさらないように」
「誰に言ってんだよ」
俊介は笑みを浮かべながらいい、軽く深呼吸しながら体をほぐす。
ローブを脱ぎ、そのローブは浮きながらエスタの元へ向かっていった。
「俊介様……」
エスタはそのローブを羽織り、ぎゅっと握りしめる。
「悪いな。キメラ……お前をすぐ殺して先に進ませてもらうわ」
キメラはその言葉に反応し、勢いよく接近する。
俊介は人差し指を下にして重力魔術で敵を拘束……しようとするのだが、それを無理やり突破するキメラ。俊介はそれすらも読んでいた。
バリン……
何かが割れる音がこの階のダンジョンに響き、キメラの足元に先程放っていた氷魔術が地面に散りばめられていた。
俊介は重力魔術で氷魔術を割り、地面にばらまき……その瞬間重力魔術から一転……炎魔術でその氷を溶かし、雷魔術を纏った俊介は一瞬でキメラに接近し攻撃をしていた。
キメラは溶けた水に何も反応することなく接近してきた俊介に向かって羽で攻撃をしようとするのだが……俊介は不敵な笑みを浮かべながら口を開く。
「所詮は魔物だな……攻撃が単純だ」
溶けた水が一つに固まり、キメラの腹部を貫通する。
それでも俊介を攻撃しようとするキメラ。
俊介は腹部を貫通させたぐらいでは死なないと分かっていたため、あらかじめ雷魔術を纏って接近していた。
キメラの頭部をもつようにして触れながら……俊介の体に纏われていた禍々しい魔力が雷に変換され、キメラは耐えきれず崩壊していった。
時間にして約十秒にも満たない戦闘……エスタとカルロス……そしてラージスはぽかんと口を開けて眺めているだけだった。
リーサは「これぐらい当然です」といいながらも安心。そして近づいてくる俊介に飛びつく。
「ご無事で何より!さすがですシュン様!」
「やめい!」
俊介は飛びついてくるリーサを剥がす。
「どうかしましたか?俊介様……」
「ああ、いえ……何でもないです。これでこの階は終わりのようですので最後の階へ向かいましょうか」
「わかりました」
(おかしい……ここの階に下る前はまぁまぁな数がいたはずだ……それなのに今は魔力の気配すらこの階からは感じ取れない)
俊介は次の階に向かいながら思考する。
確かにこの階に来る前……少なくとも十体ほどは確認していた。場所もだ。
それなのに出てきたのはキメラ一体だけ……俊介は一つの答えにたどり着く。
(もしかして……そいつらが合体してキメラになったって事なのか?きしょすぎだろ)
考えただけで鳥肌が立つ。
そういうことにしておこう。と俊介は考えながら左右に顔を振る。
幸いにも先頭はカルロスとラージス。そしてその後ろはリーサとエスタ。最後尾に俊介だったので不思議そうに見てくる人はいない。そう俊介は思っていたのだが……
(俊介様、やはり何かあったのでしょうか?)
エスタは俊介の今の行動に気づいており、少し心配していた。
手をもじもじとさせ視線を落とすエスタ。横にいたリーサは小悪魔的な笑みを浮かべエスタの耳元でささやく。
「(もしかして、シュン様の事が好きなんですか?)」
「……ッ!?」
変な声を上げるエスタに前方で歩いていた兵士、俊介もがエスタの方に視線を向ける。
エスタは自分に視線がある待っているのを感じ、頬を赤らめながら軽く謝罪する。
そしてリーサの方を少し睨みながら言った。
「すみません……少しからかってしまいました」
「人が悪いですよリーサさん」
「ですがその様子だと……図星のようにも思えますけどね?」
「……ッ……そ、そんなことないです」
再度頬を赤らめながら視線を落とすエスタ。
(好き?私が俊介様の事?そんな事あるわけないじゃん……いやそれは失礼だから違うけど、とにかくそれはあり得ない!ってまず、好きって何?)
頭の中がぐちゃぐちゃになるエスタ。その様子を隣からにやりと小悪魔的な笑みを浮かべて楽しむリーサ。
そして俊介はというもの……その様子を見ることなく考え事をしていたのだった。
◇
階段を下ると、一本の通路に繋がっていた。
その先にはとてつもなく大きなドアがあり、俊介たちはその場所へとついていた。
「間違いなく……ボスってやつですよね」
「おそらくは……」
「禍々しいオーラが扉を開けてもないのに伝わってきますね」
「ああ……これはかなりやべぇかもな」
間違いなく、今まで戦ってきた奴の中で強いだろう。
現界の時よりも、山の魔物たち……ガルシアという男よりも……数倍、数十倍強いと確信させる程の魔力を感じ取っていた。
全員が固唾を呑み込み、その扉を開ける。
中に入ると真っ暗だったが、徐々に炎が周りに出現し視界が良好となる。
そして……その奥には、龍族が剣を持ち立っていた。
「よくぞここまでたどり着いた」
「「「「「!?」」」」」
(喋った!?こいつ……ただの魔物じゃねぇな)
全員がそう悟り、龍族とみられるものは襲う様子なくそのまま話を続けていた。
「我が名は……アーク。龍族の生き残りだ。そして我が主の命を受け……貴様らを試させてもらう」
「龍族の生き残り……魔物じゃないのか?」
「魔物と龍族のハーフといった所か……まぁそんなものはどうでも良い」
鋭い目つきに紫色の髪の毛……かなりの手練れだ。
ただ立っているだけなのに隙が無い。
アークはギロッと視線を俊介の方へとむける。
「お前が、新しく任命された魔王……という事でいいのか?」
「ああ、それがどうした」
「そうか」
アークは一言だけ言い、一拍置く。
「お前らの中で我と戦う人物を選べ。我の攻撃から二分間身を守り……耐えきることが出来ればこのダンジョンからクリアだ」
「それなら、俺が行くしか————」
俊介が一歩、前に出ようとしたところでリーサが声を上げる。
「シュン様……もしよろしければ、わたくしに行かせてもらえないでしょうか」
「……リーサ……」
今までになく真摯にお願いをするリーサ……当然俊介は二つ返事で頷くわけにはいかなかった。
「何か策でもあるのか?」
「策はないです。ですが……この戦いはわたくしに任せてはもらえないでしょうか」
「……わかった。それじゃあリーサ。お前に任せる。」
「ありがとうございます」
俊介はリーサの圧に負け、アークと戦うことを許可した。
「魔王様ではなく、直近のメイドであるわたくしで我慢してください」
「いいだろう……それじゃあ構えろ」
リーサはアークの言葉通りに、構えを取る。
「よろしかったのですか?俊介様」
「まぁ大丈夫でしょう……リーサなりの考えがきっとあるんだと思います」
「リーサ殿を信じるしかないですね」
「そういうことです」
俊介たちは少し離れたところに身を置き、龍族のアークという男とリーサの戦いを観戦する。
(頼んだぞ……リーサ)
(頑張ってください!リーサさん!)
俊介とエスタの視線を感じ、リーサは振り向かず心の中で感謝を述べる。
(ありがとうございます。シュン様……私の身勝手な行動をお許しください)
そう言い、アークの方を観察するように見る。
(ほう……このメイド、かなりのやりてか……というより、普通の人間ではないことは確かだな)
アークは突き刺していた剣を抜き……ザッと構え、次の瞬間互いが勢いよく走り出した。
「……っぐ」
「よく守ったが……我の斬撃は受ける回数が増えていくごとに威力は増していくぞ」
「そうです……か!」
リーサの拳とアークの剣がぶつかり、すぐに弾いて攻撃を再度仕掛ける。
(この人の斬撃……風魔術でもかなり上の方……二分も耐えれるのか?)
体全体に魔力を色濃く纏わせアークの斬撃を少しで軽減させる作戦でリーサは拳を振りかざす。
リーサの猛攻にアークは剣で弾き、次第に魔力で守っていた斬撃の威力が上がりリーサの皮膚に届く。
「……っく」
「どうした……そんなものか?」
「まだまだ……これからですよ!」
リーサは声を上げながら態勢を一気に低くしアークの足を引っかけ態勢を崩す。
その隙に剣を抜く構えを取り王級魔術である「緋雷神」を発動。
「直撃したぁ!」
「さすがリーサ殿!」
(いいや、まだだ……)
カルロスとラージス、エスタは今の攻撃が当たったと確信していた……が、しかしそう簡単には決まらない。
アークは態勢を崩されながらもリーサの一撃を剣で弾いていた。
「中々のチートですねあなた……七龍賢人にでもなったらどうですか?」
「悪いが俺はそんなものに興味はない……」
(こいつ……わざと態勢を崩して守りやすい態勢に入った……今の攻撃が効かないとなると本当にここから二分間絶えないといけない……まだ三十秒も経っていないのに……!)
リーサは残り時間と圧倒的な実力差に絶望するが……アークはお構いなしに攻撃を仕掛ける。
振りかざされる剣……そして斬撃を避けるリーサ。
「……!?」
(死角からの攻撃をも避けるか……こいつ、まだ先程の攻撃の余力が残っているのか)
アークは的確に分析していた。
雷魔術の王級……緋雷神は敵に触れるごとに魔力を使用する。鬼人を倒した時は一気に七体を倒し、一体は届かなかった。
そして今、リーサの緋雷神は一度しか触れていない。先ほどの四体分の威力を使用した……つまりのこり三体分の余力が今のリーサには残っていた。
赤い雷神がフィールドを駆け巡る。
(これで少しは時間を稼ぎたいところ……)
「……いい術だ」
「……ッ」
瞬間……走っていたリーサの目の前に現れ右手を腹部に翳して斬撃を放った。
リーサは勢いよく飛ばされながらも、残りの雷を全部腹部に集中させ斬撃を緩和していた。
(これで緋雷神は使用できなくなった……わたくしの魔力量じゃ王級魔術はこれ以上撃てない)
それに加えて相手の斬撃が強くなる一方……万事休すか。
「残り一分……これをどう乗り切る?」
アークはそう言いながら剣を振り、無数の斬撃を飛ばす。
リーサは残りの魔力を全部使い雷の剣を生成させ跳ね返すのだが……。
斬撃の威力に負けて飛ばされてしまう。体もボロボロで切り傷もどんどん深くなっていく一方……。
エスタや兵士二人は見るに堪えない様子で見ていた。
俊介は右手を強く握りしめる。
「……ガハッ」
吐血しながらリーサは立ち上がる。
一体わたくしは何をしているのでしょう。
自分がどうして戦うといったのか、今でもわかっていない。
きっと、エスタに負けたくなかったのだろう。
自分のいい所を……シュン様に見てほしかったのだろう。
その結果がこれだ。
魔力も底をつき……敵の攻撃は更に強くなる一方。
どうしろって言うんですか。
体をふらつかせながら、リーサは睨みつけるようにアークを見る。
「……ッ!?」
(この娘……なんだ?先程までと様子が違う)
魔力は尽きているはずなのに、あふれ出る気。一歩でも動いたら狩られてしまう。アークはそう察してしまった。
そして、俊介もそれに気づいていた。
(集中力だけじゃない……なんだこれは?)
この瞬間……誰もが知らなかったリーサの本領を目にすることになる。
ボロボロのはずなのにものすごく軽く感じる体。そして今……リーサは笑みを浮かべる。
(すごい……わたくし……今誰よりも強いかも)
直後、緋雷神を使用していた時より早く……アークに接近する。
決して油断していたわけじゃない。が、あまりの速さにアークは驚愕しながらも剣を振りかざす。
しかし、その場にリーサの姿はなく……一瞬のうちに背後へと回り拳を振りかざす。
この時、リーサの攻撃が初めてアークに直撃した。
数メートル飛ばされ、間髪入れずにリーサはそのまま攻撃を仕掛ける。
(なんだこれは、我の斬撃も威力は確かに上がっている。それをくらいながらも攻撃をするその精神力はなんだ!)
無表情を装っていたアークの顔が、怒りを覚え表情が変わった。
「いいだろう。ここまで面白い奴だとは思わなかった……いいものを見せてやろう」
剣を鞘にしまい、構えを取るアーク。
内に秘めていた魔力を一気に開放する。
観戦していたエスタたちは今から何が起こるのか……すぐにわかった。
「まさか……これって……」
「……まさか、あいつが神王級の使い手とは……」
凄まじい気迫。地面が揺れ……壁が割れ始めていた。
リーサもその場で構えを取り、互いに見合っていた。
「今からお前には風魔術の神王級を見せてやる」
「それは楽しみですね」
あふれ出ていた魔力が風に変換され……斬撃が縦横無尽に飛び交う。
そして……見合っていた二人は走り出す。
拳を振りかざし、剣を振りかざし……互いの攻撃が当たろうとしていた。
が……その直後—————————
アークはぴたりとその攻撃を止め、リーサもそれに反応して攻撃を止めていた。
「一体……何があったのでしょうか?」
エスタは冷汗が頬を伝いながら、急に止まった戦闘を見て言っていた。
俊介はその様子を見て、安堵しながら答える。
「終わったんですよ……二分間……ぎりぎりでリーサが耐え抜いたんです」
「おぉぉおおお!さすがですぜリーサ殿!」
「すごい!リーサさん!」
リーサはアークの方へと視線を向け、口を開く。
「どうして、止めたんですか?最後の、ぎりぎりでできましたよね?」
その問いに、アークを鼻を鳴らしながら言った。
「ふん……少しおしゃべりが過ぎたな。言っただろう。我は試すと……あの最後の攻防で立ち向かったお主の行動はよかった。合格だ。」
「……なんですかそれは」
リーサはその言葉を聞いて安心したように倒れ……俊介が受け止めていた。
「ひやひやさせやがって……」
俊介はそう言葉をこぼした。




