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9/11

その後の二人

本日二話目です。ヒーロー視点です。


 ヒューゴが昨夜やり残した仕事を片付けて帰ってくると、部屋の中から話し声が聞こえた。休みなのに祖母を一人にしてしまい気にしていたが、祖父が予定より早めに帰ったのだろうか。

 扉を開けたヒューゴは固まった。


「おかえりなさい!」

「あら、ヒューゴ。おかえり」

「……」


 あまりにも予想外なことが起きると、人は声が出てこないものらしい。


「お疲れ様でしたー」


 そう言ってへらっと笑ったのは、ネルだった。


 ヒューゴは一度天井に目を移し、大きく息を吸うと、口からゆっくり吐き出した。それからもう一度、祖母とお茶を飲んでいたらしいネルを見る。


「それで、君は人の家で何をしてるんだ?」

「ヒューゴったら、ちゃんと挨拶しないと。ねえ、ネルさん」

 

 祖母は仕方ないわね、という顔で言った。

 ヒューゴの頭の中は忙しかった。

 一体何故、ネルが家にいるのか、祖母と仲が良さそうなのか。そして彼女は、自分達を()()()()関係だと説明したのか。


「研究所の先輩後輩なんでしょう? あなたが誰かと仲良くするなんて珍しいから、私ったら『お付き合いしてるの?』なんて聞いちゃったわ」

「……」


 安堵しかけた途端に思い切りひっくり返され、ヒューゴは一言も発することができない。


「ヒューゴさんには、とてもとてもお世話になってるんですよ」

「あら、そうなの。ネルさん、無愛想な子だけど、これからもよろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 本人を除け者にしてよろしくし合う二人についていけず、ヒューゴは再びため息をついた。



 帰宅するネルを見送ることになり、家を出た。二人の間には微妙な距離。ネルが口を開いた。


「えっと、実は、少し前にお祖母(ばあ)さんとは知り合ってまして……今日ばったり会って、ヒューゴさんのことを話したら、あれよあれよとお招きいただきまして……」


 珍しく言い淀むネルを見やると、焦ったように続けた。


「いつもお世話になってるって言ったら、ヒューゴさんが職場でどんな様子なのか聞かれただけですよ!」


 よくやったでしょ、と言わんばかりにネルは笑った。


「ヒューゴさんのこと心配してましたよ。お昼ごはんちゃんと食べてるって、言っておきました」

「そう……ありがとう」


 ヒューゴは目を逸らした。あの日食事を終えて帰ってから、ネルとまともに顔を合わせるのは初めてだった。



 備品倉庫でうずくまっていたネルを見たときはとても焦った。帰宅したあと仕事に戻り、念のため寮に確認を取り、まだ帰っていないと知って彼女の上司を探し、倉庫のことを聞き出した。そして無事でいたことにほっとした途端に、あれだ。


 出張先ではよく眠れず、仕事も上手くいかなくて散々だった。帰ったその足で研究所に戻り、残務を適当に片付けて彼女を待った。とんでもない威力の発言を残して走り去ったネルに、何か言ってやらなければ眠れそうにないと思った。


 寝不足の頭で彼女に色々と言ったことは記憶にある。でたらめなことを言ったわけではない。まぎれもなく本心だったからこそ、ヒューゴは戸惑っていた。

 彼女にどう接したらいいのか、自分が今までどうしていたのか、わからなくなってしまった。


 それにこれまで手に触れることなど何回もあったというのに、繋がれた途端ものすごく動揺してしまった。ネルの行動は予測がつかなすぎる。


 だから嫌だったのだ。関わると、ペースが崩れる。自分が自分でなくなっていく。


「あ。ヒューゴさんのお祖父(じい)さん、魔術師だって聞きましたよ! すごいですね!」


 ヒューゴはイライラした。いつもそうだ。祖父のことを知ると、皆こう言う。


「でもすごく忙しそうですよねー。ごはん食べる暇あるのか心配になりました。それに、全然会えないって、お祖母さん言ってましたよ。でもヒューゴさんがいるから寂しくないですね。よかった!」


 そんなことは初めて言われた。表情から、彼女は心底そう思っていることがわかる。


 「やっぱり魔術師を目指すの?」「君にも期待できるな」かけられてきたのは、そんな言葉ばかりだった。


 密かに衝撃を受けている間にも、ネルの口は止まらない。


「ヒューゴさんが全然会ってくれないからぶらぶらしてたら、お祖母さんに会ったんですよー」

「……」


 いじけた口調に気まずくなり、ヒューゴは目を泳がせる。


「忙しいのは知ってますから、いいんですけど。でも、その……もしかして、避けられてます? 私」


 どきりとした。図星を言い当てられたことにも、寂しそうな表情にも。ただ食事の時間をずらして研究室に篭っていただけだが、避けていたかと聞かれれば多分そうだ。

 前を向いて、ネルは続ける。


「寂しいなあ。もっと会いたいです。だって、あれから何日経ちましたっけ? ごはん、食べに行きましょうよヒューゴさん。今度、仕事の日のお昼、都合つく日教えてください」


「今日の予定は?」


 気がついたら、口から言葉が出ていた。


「え?」


 ネルは驚いている。

 ヒューゴも驚いている。本当に、どうかしている。


 しかし言ってしまったものは仕方がない。ヒューゴはネルの顔を見たまま続けた。


「ある?」

「ないです! なんにもないです!」

「じゃあ…………散歩でも」


 昼下がり。食事には中途半端な時間だ。何も思いつかず、散歩ってなんだ、と思いつつ提案すると。


「しましょう! 散歩! やったー!」 


 返ってきたのは喜びの声と、あまりにも幸せそうな笑顔で。

 ヒューゴは思わず、顔ごと目を逸らした。



 自分の些細な一言でこんなに喜ばれるのなら、悪くない。かもしれない。彼女と関わるのも。変わっていくのも。



 しかし、とにかく今は、ネルに見られる前にこの顔色を元に戻すことが、何よりの課題だ。



最後までお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました!応援してくださって、とてもうれしく、心強く感じていました。

少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。

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