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不時着!


(うわぁっ!)


 ヴァージニアは渦に吸い込まれ、どこかの地面の上に落下した。

 幸い、硬い岩場ではなく柔らかい土の上であったし、地面に近い高さで放り出されたので彼女はほぼ無傷だった。

 だが、手と膝を少しついたので僅かながら痛みはあった。


(これだけで済んでよかった。さてと……)


 ヴァージニアは冷静に状況判断しようと努めた。

 本当だったら嘆き悲しみたいし、ここはどこだと慌てたいし、マシュー達が無事に逃げられたのか知りたいが、彼女は一度深呼吸して暗くなり始めている空を見上げた。


(ここは風が強いし、空が近い気がする。どこかの山頂付近かな?)


 風が強すぎて目を瞑っていないと目が痛んだ。

 ヴァージニアは現在地を知るために、風に飛ばされないよう草を掴みながら山を登り始めた。

 現在地の確認なら地図を見ればすぐに解決するのだが、今は風が強いので鞄を開けたら中身が吹き飛ばされる可能性があるのでこの手段をとった。


(この草はなんだか柔らかいなぁ……。そう、例えば動物の毛みたいな……)


 ヴァージニアは不思議に思いながらも、草を鷲掴みして急いで山を登った。

 早くしないと彼女の魔力だけでは周囲を照らせず、ここがどこなのか確認出来なくなるので可能な限り手足を動かした。


(それにしても、なんか地面がうねうねと動いているような?いや、気のせいかな?)


 それに加え、定期的に音が聞こえてくるのだ。

 例えるなら何かを扇ぐような、風を切るようなそんな音だ。


(いや、大きな生き物が羽ばたいているような……)


 ヴァージニアはもう一度自身の手元の草を見た。

 どんな土の色だろうかと草をかき分けて見たが、細い草に覆われていて上手く見えない。


(うーん、少し抜いてみよう)


 ヴァージニアが草を引っ張って見るとズボッ簡単に抜けた。

 例えるなら換毛期の動物のようにだ。

 ヴァージニアは子どもの頃に近所にいた、犬の方のマシューの毛を抜いたのを思い出した。


(……うーん)


 ヴァージニアはそんなまさかと思いながら再び草を抜いてみたが、最初と同じ感想を持っただけだった。

 彼女の手には動物の毛にしか見えない物が掴まれていた。

 毛のような草と思いたかったが、何をどう見てもこれは動物の毛だ。

 ヴァージニアが混乱して山を登るのを忘れていると、さらに驚きの出来事が起きた。


「なんだぁ?随分と強欲な鳥だなぁ?」

「え?」


 ヴァージニアの耳に風音以外の音が聞こえてきた。

 どう聞いても人間のような声だ。

 彼女が山を登って声がした方に行ってみると、大きな目玉と視線が合った。

 この瞬間ヴァージニアの心臓は大きく脈打った。


「あ……」

「んああっ?!人間っ?!人間だっ!!いつの間に!!」


 声の主はヴァージニアに驚き身を捩らせた。

 そう、ヴァージニアが地面だと思っていたのは大きな生き物の背中だったのだ。


「ぬわあぁ、落ちるー」


 ヴァージニアは草もとい毛を掴もうとしたが掴めずに大きな生き物から落ちたが、すぐに声の主の手に掴まれて事なきを得た。

 しかし、彼女の心臓の音は速く大きくなったままだ。

 命は助かったのだが、声の主の想像以上の巨大な体を見てしまったので心臓が落ち着かない。

 顔だけでヴァージニアの身長よりも高さがあるのだ。


「んー、やはり人間だ」


 声の主は目を細めヴァージニアを上から下までじっくりと見た。

 尤も、ヴァージニアは声の主の大きな手で掴まれているので顔しか出ていない。


「はい。人間です……」


 声の主は口も大きい。

 ヴァージニアなど一口で食べられてしまうに違いない。

 目の前の巨大生物はあまり獰猛そうではないが、何が起こるか分からないのでヴァージニアの心臓はドキドキしっぱなしだ。


「人間よ、一体どっから来たんだ?」

「渦に飲み込まれてしまったんです!」


 風の音が大きいのでヴァージニアは大きな声を出した。


「渦?ああ……風の奴がくしゃみをして出来たんだろ。さっきくしゃみをしたようだからな」

「くしゃみ?」

「あいつ、何度言ったら分かるんだか……。わたぼこにちょっかい出して鼻をやられたんだろ」


 今の時期だとガマの穂には少々早いので綿花だろうか。

 だが、寒い地域だともうガマの穂が爆発するのかもしれない。

 それともヴァージニアが知らない植物なのか、それとも別の何かか。


「災難だったな。まだ風が強いだろうから人間じゃ魔法が使えんだろ」


 巨大生物はこう言ってヴァージニアを自身の首元に乗せた。

 ヴァージニアは風に飛ばされそうになったので、巨大生物の鬣にしがみついた。


「それは抜かんでくれよ」

「先ほどはすみませんでした」

「いやぁ、いつも鳥が巣に使うらしく突いて取っていくから問題ないさ」


 それでヴァージニアは強欲な鳥と思われたようだ。

 大きな体を持てるのはそれだけの力があると言えるので、声の主の毛を巣に使うなんてかなり贅沢だ。


「あの、ところで何処に行くんですか?」

「わしの寝床だよ」


 もうすぐで日が暮れるので、巨大生物も住処に帰るところなのだろう。

 ヴァージニアはいち早く仲間達の安否を確認したいし、出来れば戻りたいと巨大生物に伝えた。


「風のやつのくしゃみの中を飛べと?なんでそんな汚い事をせにゃならんのだ」

「ごもっともです!」


 ヴァージニアはそのまま巨大生物の寝床に連れて行かれた。




「ここがわしの寝床だ。狭いし何もないが風が収まるまでゆっくりしていってくれ」


 地竜は四本足でのしのしと洞穴内を歩き、ヴァージニアを案内した。

 何もないのは確かだが、狭くはなくむしろ広い洞穴だ。

 巨大生物からすると狭いのだろうが、人間の大きさだったらかなり広いと感じる。


「ありがとうございます」


 ヴァージニアは随分と人間臭いことを言うなと思いながら、座れそうな場所を探した。

 探したがないので彼女は足で石ころや枝や葉を避けて場所を確保した。


「あの、この島には人間は住んでいますか?」


 巨大生物の寝床は海にポツンとある島だった。

 上空から見た限りだと民家は見えなかったが、もしかしたら人間がいるかもとヴァージニアは淡い期待を抱いた。


「んにゃ、ここは無人島ってやつだな」

「ですよね。島の周りは崖でしたもんね」


 そう、断崖絶壁だった。

 多分二重カルデラ、あるいは二重式火山というやつだ。


「人間が食べられそうな物もあるから適当に採って食え」

「はい、ありがとうございます」


 猛毒でなければ解毒の魔法でなんとかなるだろう。

 問題は水だ。

 飲料水は残り僅かしかない。


「この島に川とか湧き水ってありますか?」

「こんな小さな島にそんなのあるかい。少なくともわしは知らん」

「そうなんですね……。あなたは水はどうしてるんですか?」


 ヴァージニアが質問すると巨大生物はパカッと大きな口を開けた。

 彼女は口から何か起こるのではと身構えた。


「こうやって朝の霧を摂取している」

「えー……はい」


 ヴァージニアは文句を言いそうになったが、布を広げておけば水が採取出来そうだと判断した。

 だがそうすると暖を凌げない。

 すでに日が落ちて肌寒くなってきているのだ。

 餓死する前に風邪を引いて体調を崩したら元も子もない。


(いや、朝にだけ布を広げればいいかな?タオルで朝露を集めるとか?)


 ヴァージニアが首を捻っていると巨大生物も首を傾げた。


「水の心配をしているが、お前は水の力を使えるんじゃないのか?」


 巨大生物はヴァージニアから水の属性を感じたらしい。


「それがですね、魔力が弱いので上手く使えないんですよ」

「んん?人間は魔力が弱いと思っていたが、その中でも弱いのか?ふむ……」

「はい。人間の中でも弱い方です」


 ヴァージニアは復唱した。

 攻撃魔法が上手く使えず、日常生活の魔法が出来るぐらいだ。


「んー。だが、変わった魔法が使えるようだな」

「え?……ああそうですね。転移魔法(テレポート)が使えますよ」


 ヴァージニアは転移魔法(テレポート)が出来るので魔導師を名乗っている。


「いやぁ、もっと別のだよ。……そうだ、あのハサミがあって貝殻を背負っているやつが得意なのだ。そうだそうだ」


 巨大生物は納得したのか頷いている。

 何かを破壊出来そうな勢いだ。


「私に力を貸してくれているのはヤドカリだそうですけど、得意なのってなんでしょうか?」

「ああ、そいつだそいつ。んで、そいつが得意なのは閉じこもったり、閉じこもったのを引っ張り出したりする力だよ」


 ヴァージニアは再び復唱したら、あることに気が付いた。

 引っ張り出すのは封印を解除するとも言えないだろうか。


(こじつけすぎかな?)


 その力があったからマシューを封印解除出来たのだろうか。


「しかしまぁ、ヤドカリの奴はケチだなぁ。貸すならもう少し貸してやればいいのに」

「ははは……」


 ヴァージニアは全くその通りだなと思った。

 思いまくった。

 沢山貸してくれとは言わないが、もう少し恵んでくれたってよかったのにと。


「そう言えば、お前さんからわしの匂いも微かにするんだよな。それで人間がいると気付くのが遅れたんだ」


 ヴァージニアが巨大生物によじ登っている時についた匂いではないらしい。


「え……。あのところであなたはどなたなのでしょうか?申し遅れましたが、私は人間のヴァージニアと言います」

「ヴァージニアと言うのか。わしらには名をつける習慣がないが、人間はわしを地竜と呼んでいる」


 ヴァージニアの目の前にいる巨大生物は人間から地竜と呼ばれていると言った。

 どうりで大きな体をしているはずだ。

 彼女は一瞬ポカンとしてしまったが、すぐに我に返って地竜と会話を続けた。


「地竜さんでしたか。私の仲間にあなたから力を貸して貰っている人がいます。それで匂いがついたのだと思います」

「なんだ、そういうことか。なら、眷属にわしの力を辿らせて仲間にヴァージニアの無事を知らせよう」

「ありがとうございます」


 ヴァージニアはブライアンがそのまま飛ばされた方が、地竜の受けがよかったのではと思ってしまったのだった。




 ヴァージニアは地竜に出会った!

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