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とにかく逃げろ!!


 強風が収まり、とうめいは伸ばしていた体をスージーを掴んだまま元に戻した。

 スージーは飛来物に何度も当たってしまったため、全身が傷だらけでぐったりとしている。

 そんなスージーをとうめいが包み込むと、スージーの体についた傷が治っていった。


「スージーッ!」


 エミリーが駆け寄って来てスージーをとうめいごと抱きしめた。

 とうめいはぐにょりと変形した。


「とうめい、ありがとうね。うっ……」

「!」


 とうめいはビシッとポーズを決めた。

 おそらく、どういたしましてと言っているのだろう。

 とうめいはポーズを決めた手?をそのまま伸ばし、エミリーの涙を拭いていた。


(魔力を摂取してる!)


 とうめいの手?からはエミリーの涙が確認出来ないのですぐに吸収したと思われる。


「ヴァージニアもブラッドもありがとう……」

「無事でよかったです」


 ブラッドはフンとだけ言った。


「ムードを壊して悪いが、ケヴィンが大気が乱れていると言っているから天気が崩れるだろう。今すぐ帰るぞ」


 ヴァージニアは空を見たが青くて綺麗なので、雨が降るとは思えない。

 風も収まっているので、雲も流れていない。


「違う。大気の魔力の流れが乱れているんだ。嵐が来るよりまずいことになる」


 ケヴィンの顔色はまだ悪い。

 アリッサに背負われているマシューの顔もまだ真っ青だ。


「確かにここじゃ空間魔法が使えないみたい。かなりおかしな事になってるよ」


 とうめいはスージーの治療が終わったのか、ブラッドに装着されている鞍に移動した。

 鞍全面に体を伸ばして貼り付いている。


「その二人を俺に乗せてさっさと戻るぞ」


 ブラッドの背にはケヴィンとマシューが乗ったでヴァージニアは徒歩だ。

 帰りはエミリーがどこが安全か確かめながらゆっくりと進んだ。

 周囲は根元から倒れた木や折れてしまった木、それらの破片が絡まっている木などでいっぱいになっている。

 つい先ほどまでの景色とは明らかに変化していた。


「ヴァージニア、わりぃな……」

「いえ、そんな……。それより具合は大丈夫ですか?」

「二日酔いより酷ぇ……」


 ヴァージニアは飲酒出来ないので二日酔いは分からない。


「そうですか。……マシューもまだ気持ち悪い?」

「うん。頭も痛いよ……」


 マシューはどの属性も自由に扱えるということは、どの属性からも影響を受けるとも言える。


「辛いね。きっとここから抜け出したらよくなるからね」

「うん……」


 ヴァージニアはマシューの小さな手を握った。

 するとマシューの後ろのケヴィンから声が上がった。


「俺も心細いから手を握ってくれ……」

「アホか」


 ケヴィンはすぐにブライアンから小突かれた。


「ごめんねー。今の状況だと魔法で状態異常が治せないみたいなんだ」

「どの魔法も駄目だよね。梟のオリビアを呼んでも、私の陰から出て来られないって言ってるの」


 ブラッドは異変が起こる前から陰から出ていたので影響を受けていないらしい。


「ヴァージニアも転移魔法(テレポート)出来なさそうか?」

「確証はないんですけど、やったら失敗すると思います」


 ヴァージニアは他の皆ほど魔力の機微に聡くないが、これは危険だと無意識に感じている。


「そうか。二人を避難させられないか……」

「いや、出来ても多分、転移魔法(テレポート)の反動で吐くな……うっ」


 そうすれば確実にヴァージニアが被害を受ける。


「僕は今も吐きそうだよ……」

「……今更ですけど、魔力酔いってことは乗り物酔いの薬は効きますかね?」


 ヴァージニアは集合場所が魔導列車の駅だったので、もしかしたら乗るかもしれないと思い、子ども用と大人用の酔い止めを買っていた。

 二人とも列車には乗車したことがないので念のため持って来たのだ。


「効く。すげー効くって訳でもないけど、軽くはなる」


 ヴァージニアは慌てて薬を鞄から取り出して二人に渡した。

 二人は水で飲み込むと、何十分か経過したら次第に顔色が良くなってきた。


「おお、少し楽になってきた。助かった。ありがとな」

「僕も気持ち悪くなくなってきたよ」


 二人は万全の体調ではないが、かなり回復したようだ。

 ケヴィンがもう歩けるそうなのでブラッドから降りてヴァージニアと交代した。

 ヴァージニアは普段からあまり歩かず、しかも足場が悪くて足に疲労が蓄積していたので助かった。


「にしても、魔物達の鳴き声がしないな。気配もない……」

「んまぁ、これだけ魔力の流れがぐちゃぐちゃになっていたら隠れているだろう」


 ブラッドは何も言わないが気が立っているようで、毛が先ほどより毛羽立っているのはそのせいだろう。

 エミリーとケヴィンは交代し、ケヴィンが安全な道を探すことになった。

 アリッサが地図と現在地を照合しながらどんどん進んでいったが、かなり迂回しているようで、なかなか町は見えてこない。

 町も安全地帯なのか不明だが、隠れられる場所があるので天と地ほどの差がある。


「そろそろ町の賑わいが聞こえて来てもいいんだけど……」


 リゾート地なので大勢の人々の声やイベントの音が聞こえてこないとおかしい。

 もしや町にまで被害が広がってしまったのだろうか。


「地形が変わったとは思えないが、草木が散らばってて視界が悪いからな……。一旦休憩して整理しよう」


 皆で山や谷、川の位置を確認してみたが、アリッサの判断は正しい。

 多分、観光客は緊急警報で屋内退避させられたのではとの意見が出た。


「結界が張られたのも考えられるかも」


 防音効果があるのも存在するらしい。

 いずれにしろ、結界が張られていたら森から出られても町の中には入れない。

 通信機も使用出来ないため町の中と連絡が取れないが、研究員がヴァージニア達が戻って来ていないのを申告してくれていれば、結界の中に入れるて貰えるかもしれない。

 日が傾きだしており考え込んでいる時間が惜しいので早々に休憩は終了した。

 ヴァージニアがブラッドの背に乗ろうとした時、ブラッドが驚いたように急に振り向いて大きな声を上げた。


「おい!何だあれ!」


 全員がブラッドの爪が指す方を見ると、空間に小さな渦が生じていた。

 ヴァージニアは最初新手の魔物かと思ったが、辺りの木の葉や枝だが飲み込まれていくのを見て、先ほどのケヴィンの言葉を思い出した。

 嵐が来るよりまずいことになる、彼はそう言った。


「早くあれから離れろ!あれに飲み込まれたらどっかに飛ばされるぞ!」


 今度はケヴィンが叫ぶと、一斉に走り出した。

 渦のすぐ近くにあったヴァージニア達より大きな倒木は飲み込まれてしまった。

 そして渦は意思があるのかと思うくらい不気味にヴァージニア達に近づいて来た。

 渦の動きはゆっくりだが、吸い込む力がとても強いので脚力の弱い女性陣は思ったように進めない。


「ジニー!」


 マシューはブラッドの背に乗っており、ヴァージニアの手を引っ張った。

 おかげでヴァージニアはブラッドに騎乗出来た。

 先頭はブラッドが行き、その後ろにアリッサはケヴィンに、エミリーはブライアンに手を引かれて走った。

 なおスージーはエミリーの鞄の中に入っているので先ほどよりは安全だろう。

 ブラッドもエミリーやケヴィンがやったように安全な場所を選んで走っているようだが、ブラッドは足を止めた。


「くそっ!」

「あ!」


 マシューとブラッドが同時に声を上げ、マシューが空中に指を指した。

 ヴァージニアには何があるのかよく見えなかったが、一点に向かって葉が流れ込んでいくのが分かった。

 たった今、渦が発生したようで、あのままブラッドが走り続けていたら飲み込まれていたかもしれない。


「ねぇねぇ!あっちは平気だよ!」

「分かった」


 ブラッドはマシューの指示に従い進路を右に変更し、ヴァージニアは声を出して後続の四人に知らせた。

 しかし変更した先でも渦が発生しようとしているのに遭遇してしまった。


「くそっ、次から次へと!」

「そんな!さっきまで何にも感じなかったのに!」


 マシューやブラッドでさえ気付けないのだから対策のしようがない。

 進む道を探していたら、四人が追いついた。

 彼らの話によると、彼らも次々に渦が発生するのを見かけたそうだ。


「どこに行くか分からないのでよければ無理矢理にでも空間魔法を使うよ」


 エミリーはおどけたように言いつつも、どこか本気で言っているようにも聞こえた。


「成功するかも分からないのにか?」

「この世界じゃない別空間に飛ばされても困るな」


 エミリーの冗談は却下され、今の段階で安全な道を選ぶことになった。




 マシューは二日酔いもどきを体験した!

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