話が通じた!
翌朝、ヴァージニアが寝返りを打ったら、何やら不思議な感触の物体に接触した。
彼女の手に触れたのはツルツルで弾力のある物と、手触りのいい毛並みだった。
「ん?」
ヴァージニアは目を閉じたまま手で探ってみた。
毛がある方は小さな動物のようだ。
(この感じはスージーかな?)
ではツルツルの物体はなんだろうかと考える必要はなく、ヴァージニアにはすでに正体が分かっている。
念のため彼女が薄目を開けて答え合わせをしてみると、やはりとうめいの上にスージーが眠っていた。
「……なんで?」
エミリーのベッドの枕元にあるスージー用のクッションは空いていた。
おそらく、スージーはヴァージニアのベッドの上にとうめいがいるのを見つけてやって来たのだろう。
だが、何故この部屋にとうめいがいるのか理解出来なかった。
「んんー、ヴァージニアどうしたの?」
「おはよー」
エミリーとアリッサも目覚めたようだ。
三人が上体を起こすととうめいも気付いたようで、手?を出して挨拶してきた。
「ん、あれ?とうめいがいるよ」
「えー?部屋の鍵は閉まってるよね」
部屋の鍵だけでなく、窓の鍵も閉まっていた。
どこからとうめいが入って来たのだろうかとヴァージニアが不思議に思っていると、エミリーがとうめいの痕跡を見つけた。
「窓の下に何かキラキラしたのがある!きっと、とうめいの粘液だよ」
「!」
とうめいは、そうだと言っているようだ。
「ほんの僅かな隙間を通ってきたってことですか?」
窓は閉まっていたが密閉されている訳ではない。
人間にとっては密室だが、とうめいにとっては通り抜けられる隙間があるのだ。
「多分ね。けど狭すぎるからヌメヌメにして滑りやすくしたんじゃない?」
とうめいは粘液を出して窓を突破したのだろう。
「!」
とうめいは再び、そうだと言っているようだ。
エミリーが転落防止のため少ししか開かない窓から確認して見ると、外壁にナメクジやカタツムリが這ったかのような筋が出来ていた。
向こうの部屋の窓を突破する時に出した粘液の残りだと思われる。
他の二人も覗き込んで見てみると、とうめいが通過した道の出発地点の窓が開き、彼女達と同じように覗く人がいた。
「ブライアンだ。とうめいがいないのに気が付いたみたい」
彼は顔を引っ込めると、すぐにエミリーの通信機が鳴った。
用事は当然、とうめいが彼女達の部屋に来ているかの確認だった。
「うん分かった」
エミリーはブライアンとの会話が終わり通信を切った。
「預かっててくれだってさ」
森に行くまでとうめいを預かることになった。
今すぐマシューに届けるより森に行く時ならば、とうめいを何度も窮屈な思いをさせないで済む。
ヴァージニアがあれ以上大きな袋はあるのかと考えていると、とうめいが何かを訴えようと体を震わせているのに気が付いた。
「……!……!」
「あれ?とうめい、どうしたの?」
とうめいは昨晩男性陣の前でやったように、物を体内に入れてすぐに吐き出した。
「んー?なんだろう?」
「……!……!」
とうめいは移動し別の物でも同様にやってみた。
エミリーとアリッサは分からないようだが、ヴァージニアはとうめいが何が言いたいのか分かったようだ。
「もしかして、昨日の仕事ぶりはどうだったかって言ってるのかな?」
「!!」
正解だったらしく、とうめいはヴァージニアは飛びついてきた。
しかもかなり嬉しかったらしく、頬ずり?をしている。
とうめいは怪我の治療のために呼ばれたのだと思っていたので、出土品の回収のためだと言われた時はショックを受けていたのだった。
とうめいは想定外の仕事をさせられたのに、あまり誉められなかったので悲しかったらしい。
「よしよし……。頑張ったもんね」
「とうめいありがとうね」
「ありがとう。とても助かってるよ」
とうめいは三人から撫でて貰い満足げだ。
「けど、あの三人に気付いてもらえなかっただけで、部屋から抜け出して壁を這ってやって来るかな?」
「!!」
とうめいはヴァージニアから飛び降り、彼女のベッドの上に着地した。
そして腹?を示している。
どうやら押せと言っているらしい。
「押せばいいのね。はーい」
ヴァージニアが押すと、とうめいは昨晩の再現をしだした。
ケヴィンに腹を押されて動けなくなったのを伝えているらしい。
「んー?ちょっと押しただけでこんなに重傷になるんだから、きっとケヴィンの仕業でしょう」
「あー!指に属性を纏わせて突いたんだ」
「!!」
とうめいは次に何かをやり始めたが、三人ともさっぱり分からない。
「えーっと、威張ってるんじゃなくて……」
「筋肉ですかね?」
とうめいはブライアンの力強さを表現していたようだ。
どうやらブライアンがとうめいに何かをくれたらしく、それが嬉しかったそうだ。
「そう言えば薬草を摘んでたかも」
「うん。グリーンスライムにあげるって摘んでたね」
とうめいの様子を見ると、とうめいの中でブライアンはとても良い人間になったようだ。
言わずもがな、ケヴィンは最下位だろう。
「とうめい、昨晩は大変だったんだね」
「!」
朝食の時間になり、三人はスージーととうめいを置いて食堂に行った。
スージーは寝ぼけながら寝心地を求めてとうめいによじ登っていた。
「三人はもう来てるよ」
朝食はビュッフェ形式なので、各々が好きな物を皿に盛り付けて食べる。
男性陣の大人二人は器用に山盛りにしているが、いつも通りなのかエミリーとアリッサは驚いていない。
マシューは彼らの真似をせず自分が食べられる量を取っているようだ。
「私達は席を取っておこうか」
女性三人は六人分座れるように、席を確保した。
幸いまだ早い時間帯だったので人が多くなく苦労はしなかった。
「ジニー、コロッケはなかったよ」
マシューは口を尖らせとても残念そうにしているが、ポテトサラダとフレンチフライを確保していた。
芋だらけである。
「マシューはもっとお野菜食べようね」
「後で取ってくるよ」
マシューは食べ終わったらお腹いっぱいと言いそうなので、ヴァージニアは野菜を多めに取った。
彼のポテトサラダと分け合うためだ。
ヴァージニアが席に戻ってマシューに提案してみた。
「えー、ジニーったら僕のポテトサラダと野菜を交換して欲しいの?んもう仕方ないなぁ。ふふっ」
マシューはヴァージニアの頼みを聞いてくれた。
ヴァージニアの作戦通り、マシューは野菜をもりもり食べた。
朝食後、ヴァージニア達が部屋に戻るとスージーととうめいは一緒に遊んでいた。
正確に言うと、スージーがとうめいの上でトランポリンの要領で飛び跳ねていたのだけだ。
「あー、おかえりー」
「!」
とうめいは助けてくれと訴えているようで、両手?を一生懸命動かしている。
ヴァージニア以外もとうめいが困っているのに気付き、スージーととうめいを引き離した。
スージーが寝ぼけていた時のようなことは起きずにすんなりと引き離せた。
「えー、もっと一緒に遊びたかったのにぃ」
だがスージーは拗ねており、人間の子がするかのように四肢をバタバタとさせている。
「……」
とうめいはヴァージニアの腕の中でアイスクリームが溶けるかのように崩れている。
かなり疲弊したようだ。
「とうめい、ごめんね。スージーを連れて行けばよかったね」
食堂に行くとき、スージーはまだ寝ていたから部屋に置いていったのだが、その後スージーは目覚めてとうめいで遊びだしたのだろう。
「……」
とうめいはまだ崩れている。
ヴァージニアはとうめいが持ちにくいのでテーブルの上に移動させた。
「あっそうだ。さっきケヴィンが昨日のお詫びにって草と花をくれたよ」
「そうそう、早起きして摘んできたんだって」
「?!」
とうめいは丸い形に戻り、三人から草や花を貰った。
いつもと違う地域の植物で味が違うからか食べる勢いが違った。
森と人がいる場所とでも種類が違うらしく、とうめいは久しぶりの食事かのように食らいついた。
「~!」
とうめいは全部食べ終え満腹になったようだ。
「スライムの食事風景って面白いね。食べてた物がなくなっちゃうんだもん」
ヴァージニアも何回見ても不思議だと思っている。
仮に体の他に内臓も透明であっても、食べ物は透明ではないので、食べ物が消えるなんてあり得ない。
しかし、スライムだとそれが起きてしまうのだ。
「瞬時に消化されてるとかかな?」
「それなら消えちゃうか。そっか」
「?」
とうめいも自分の体の中で何が起きているのか知らないようだ。
(人間で言う胃酸の酸性濃度が高いのかな?とうめいの奥深くに手を入れたら溶かされちゃったり……)
ヴァージニアは今度とうめいの中に手を入れる時は注意しようと思った。
とうめいは南国の草花を堪能した!




