気に入ったらしい!
一週間経った。
マシューは紋章魔法が気に入ったらしく、時間がある時にチマチマと紋章を書いては、とても小さな魔法を発動させていた。
最初は初歩的な物だけだったが、そのうち独自に組み合わせだして遊びだした。
昨日から水と光で虹を作るのが気に入っているらしく、今日もやっている。
彼は紋章の大きさや魔力の加減でどのくらいの大きさの虹になるのかを実験しているようだ。
(……今日は晴れているから水だけでいいんじゃないかな)
とは言えず、ヴァージニアはマシューが気に入っているならいいかと思った。
いつしかのとうめいと一緒にドタバタされるよりかは大人しくていいからだ。
「ふぅ、虹はこれくらいにしよう。雪はどうやって作るのかなぁ?」
マシューなら自分の魔法で作れるのに紋章魔法で作りたいらしい。
「えー、雪の結晶でも書いておけば?」
「結晶ってどんなの?」
ヴァージニアは記憶を頼りに書いてみた。
マシューはヴァージニアが書いた雪の結晶のマークを丸で囲んだ。
「よーし……」
マシューは筆記用具で紋章に触れて魔法を発動させようとした。
しかし何の変化もない。
「何も起きない……。失敗かな?」
「氷の紋章で囲ってみたら?」
「やってみるね」
氷の紋章は六角形だ。
初歩的な紋章魔法は誰でも書けるように簡単な形をしているのだ。
マシューは今さっきヴァージニアが書いた雪の結晶を真似して書き、その周りを六角形で囲んだ。
「えい。……あれぇ?」
「何も起きないね」
こんなに簡単に上手くいったら、子ども達が面白がって今頃そこらが雪まみれだろう。
なのできっと難しいのだと思われる。
「僕は諦めないよ。きっとさらに丸を書けばいいんだよ。他のがそうだもん」
ヴァージニアはもしかして雪の結晶の方が悪いのではと思ったが、黙っておくことにした。
理由はそう、雪まみれにされたら困るからだ。
実は昨日、マシューが虹を作るのに熱中してダイニングテーブルと床を水浸しにしていたので、ヴァージニアは密かに恨んでいたのだ。
「よし。出来た。じゃあ早速……」
マシューは魔法を発動させようとしたが、上手くいかなかった。
「きっと根本的に間違ってるんだ!」
マシューは雪の結晶は使用せずに土の紋章と氷の紋章を使うことにしたようだ。
ちなみに土の紋章は山をモチーフにしたものだ。
土は雪の核になる塵や埃の代わりにすると思われる。
「土の周りを氷にしよう」
ヴァージニアはまだマシューに黙っていることがあった。
初歩的な紋章魔法以外は魔力量の調節も重要なのだ。
おそらく雪の魔法は普通の氷の魔法より魔力がいるのだろうが、マシューはずっと同じ魔力量で魔法を発動させようとしている。
彼が見た本には初歩的な物しか書かれていないので、知らないのだ。
(まぁ、そのうち気付くでしょう。同じように紋章を組み合わせた虹の魔法をやっているぐらいだし……。あ、ジョウロで水を撒いても虹って出来るから案外簡単なのかな?)
ヴァージニアがチラッとマシューを見てみると、彼は紋章の大きさを変えて試しているがまだ出来ないようだ。
「これも駄目かぁ……。はぁ……」
「休憩にしたら?」
「出来てから休憩するよ。もう少しで出来そうな気がするんだ」
多分なんの根拠もないだろう。
「そっか」
ヴァージニアは静かでいいなと思っていたら、数分後にマシューがうんうん唸りだした。
かなりイライラしているようだ。
何が起こるか分からないのでヴァージニアは彼に助言をすることにした。
「雪属性の付与の時って他のより大変だったの?」
「ちょっとだけだけね。大変って言うなら今の方が大変だよ。いつもは自分の感覚でやっているから、こういう図形とか文章とかだと上手く表現出来ないんだ」
言語化が難しいらしく、彼はまた唸りだした。
顔も険しい物になっている。
「魔力の量はどうなの?沢山使ったの?」
「ちょっと多いくらいだよ。それより雪を作るのが複雑で大変だったかな」
「そっか。ちょっと多かったんだ」
マシューはまだ気付いていないようなので、ヴァージニアは強調するように言ってみた。
「……これもちょっと多くすればいいのかな?」
マシューが新しく紋章を書いてやってみると、いくつかの雪の結晶が出現した。
「出来たぁ!」
「お、すごい!」
マシューが雪の結晶に触れるとすぐに溶けて消えてしまった。
彼は指先に残った雪だった物を見てため息をついた。
「なくなっちゃった。氷の紋章魔法なら今の魔力量だともっと大きいのが出来たのに」
マシューは唇を尖らせて不満げだ。
このままだと雪を沢山作って、また水浸しになりかねないので、ヴァージニアはおやつの時間にすることにした。
「ほら、ジェーンさんがくれたグミだよ」
様々な果物の味と形をしたグミだ。
色とりどりでガラスの器と相性が良い。
「オレンジの味がする」
「オレンジの形だからねぇ」
オレンジがカットされて房が見える状態になったのを模しているようだ。
「見た目と違う味がしたら面白いと思うんだよね」
マシューはグミを気に入ったのか次々と口に入れている。
ヴァージニアの分がなくなりそうなので、彼女も急いで食べた。
おかげで味わう時間がなくなった。
「えー?林檎の形しているのにバナナ味とか?」
「駄目かな?」
マシューは咀嚼が速いのですぐに飲み込めるようだ。
「アレルギーがある人もいるからなぁ。知らずに食べちゃったら大変だよ」
マシューは残念そうな顔になったが、体調が悪くなるのは良くないと判断したようだ。
「グミを沢山作る魔法ないかなぁ?」
「動植物を出す魔法はないんだよ。植物を操る魔法はあるみたいだけど」
「ふーん。ねぇ、なんでグミの話なのに動物なの?」
ヴァージニアがマシューにゼラチンについて教えると彼は固まった。
「ど、動物……なの……」
マシューはマスカット味のグミを持って震えている。
彼は初めのうち、強ばった顔をしていたのに、そのうち閃いた顔になった。
「わっ!とうめいみたい!」
ヴァージニアは切り替えが速いなと思った。
「形と色がそうだね。もっと透明だったら、とうめいだね」
とうめいはグミよりもっと透き通っているのだ。
それにもっとプルプルとしている。
プルプル具合だとゼリーの方が近い。
「ああー、食べられないなぁ」
「いやだなぁ、さっき食べてたでしょう」
「気付いちゃったからなぁ」
マシューはふふっと笑っているので本気ではない。
「じゃあ食べてあげるよ」
「はわわわ」
マシューは慌ててグミを口に入れた。
「んぐっ、はぁ。僕、さっき思ったんだけどね。とうめいに紋章を作って貰って、インクを塗ってはんこみたいに地面に押してくれたら、その上を歩いて連続で魔法を発動出来るよ」
確かに疑問符と感嘆符を作る要領で紋章も作れるだろう。
「んー、とうめいは柔らかすぎるからどうだろう?押し具合が難しいんじゃないかな」
「潰れちゃうかぁ。そもそもはんこなら、とうめいじゃなくていいもんね」
「沢山持ち歩かないといけないけどね」
本やカードのように嵩張って邪魔になるだろう。
更にインクも必要になるのではっきり言って邪魔でしかない。
「とうめいも大きいから持ち歩くのは大変だよ」
「とうめいは自分で移動出来るよ」
とうめいは飛び跳ねたり、這ったりして移動出来る。
だが、町中では気を付けていないと魔物として退治されかねない。
「……そんなに言うなんて、もしかしてジニーはとうめいで紋章魔法をしたいの?」
実現したら便利そうだが、とうめいにかなり負担がかかるだろう。
「マシューに話を合わせただけだよ。だって、とうめいが再現出来る紋章は簡単な物だけだろうから、初歩的な魔法しか使えないでしょ」
それならとうめいが紋章を作るより、自分で書いた方が早そうだ。
あの弾力のある体で模様を作るのは困難だろう。
「そこまで言うなんて……。現実的すぎだよ。僕はとうめいと遊べたらって思っただけだよ……」
「遊びから実用的なものになるのもあるからさ……。うん。ごめんね……」
「このグミくれたらいいよ」
ヴァージニアは最後の1個をマシューに譲った。
ヴァージニアはグミの味が混ざって分からなかった!




