復習をする!
翌朝、マシューは起床するなり神妙な顔つきをしていた。
ヴァージニアは彼が怖い夢でも見たか具合が悪いのかと思い、どうしたのか聞いてみた。
「……ジニー、昨日は良くないこと言ってごめんね。あれって生意気とか偉そうって言うんだよね。嫌な奴だったよね」
マシューは自分で考えて、ヴァージニアをバカにしたのは悪い事だったと理解したようだ。
「ちょっと威張りたかったんだ。もっと色々出来るんだって、ジニーに言いたかったんだ」
「そっか……」
「ジニーはちゃんと僕のこと見てくれてるのにさ。格好悪いよね」
マシューはまだ子どもだが、きちんと感情や状況の整理が出来る。
そして答えを探せられる。
大人でも訳が分からなくなって放置してしまう人だっているのに、すぐに解決に向かえるのは凄いことだ。
「マシューは自分で気付けたんだから偉いよ」
「僕はもっと慎ましく生きるよ」
「う、うん……」
マシューは反省したのはいいが、どうやら深刻に考えすぎている。
「マシュー、今まで通りでいいんだからね?」
「あんな傲慢染みた奴は良くないよ」
マシューは唇を噛んで悔しそうな顔をしている。
彼は髪の毛をまだ整えていないので、それも相まってかなり迫力が出ている。
「そこまで厳しく考えなくて平気だよ」
「むぅ……」
マシューは納得していないようで眉間に皺が寄っている。
「ほら、今日はヨーグルトにドライフルーツを入れたよー」
ヴァージニアはマシューの気を紛らわすために必死だ。
彼の険しい表情が少し和らいだので、ヴァージニアは彼の目の前にヨーグルトを持って来て見せつけた。
「……もっと入れて」
ヴァージニアの企みは成功したようだ。
今日は昨日マシューが本で覚えた内容を復習することになった。
マシューはノートに色々と書き出した。
「紋章魔法はどこに書いてもいいんだよね。ってことは体に書いてもいいの?」
「うん。刺青を入れている人もいるんだって。特殊に配合された墨を使うらしいよ」
マシューはふむふむと言いながらノートをとっている。
これは教科書には載っていない内容で、ヴァージニアも人が話しているのを聞いたのだ。
「この国にはあんまりいないけど、何処かの国だとそういう部族の人がいるんだって」
「何処の人?」
ヴァージニアが知らないと言うと、マシューはノートに不明と書いた。
「……紋章魔法は紋章を書いたら通常は一回しか使えないけど、刺青とかの特殊な方法だと何回も使えるんだよ」
「特殊って何?」
マシューの目つきは鋭い。
「本とかカードとか、だったかな?あー、後は魔法円も紋章魔法の一種って言う人もいるよ」
魔法円は魔法円で独立していると言う人もいるし、生き物の収斂進化のようなものだと言う人もいる。
「へぇ。思ったんだけど、本とカードを使ったらジニーも攻撃魔法使えるんじゃないの?」
「それがですねぇ、そう思ってやってみたら駄目だったんですよぉ~」
子どもの頃から攻撃魔法が出来ずに困っているヴァージニアがやらないはずがない。
散々やったが無理だったのだ。
攻撃魔法を発動させるのに必要な魔力が足りないらしい。
わざわざ本やカードに記すのだから、簡単な魔法のはずがないのでそのせいだ。
「そっか、簡単な攻撃魔法のも作ればいいのにね……」
マシューはヴァージニアの喋り方から、彼女が今まで必死にやったのを察したらしい。
「そうだねぇ」
そもそも本やカードの束は嵩張るし、これらは魔力を持っているのでそのまま持ち歩いていると転移魔法を失敗する。
(通常時ならいいけど、戦う時に魔力を遮断する袋からいちいち取り出していたら時間かかるし……)
その間に魔物や魔獣にやられるだろう。
「紋章に魔力を帯びながら触れると発動するって書いてあったけど、どういうことなの?」
「指とか筆記用具とか杖とかを魔力で覆うんだよ」
実際にやってみた方が分かりやすいので、早速やってみることにした。
ヴァージニアは汚れてもいいようにマシューのノートではなく、いらない紙に紋章を書いた。
「雫を書いて丸で囲めば水の魔法だよ。で、こうする」
ヴァージニアには他人の魔力やオーラは見えないが、自分なら感覚で分かる。
「おお!」
ヴァージニアが右手の人差し指で紋章に触れると、そこを中心にじんわりと紙が濡れた。
「小さい紋章に少しの魔力だったからこれくらいだけど、大きくしたり魔力を多くすると威力が増すんだって。まぁ、これは初歩の紋章魔法だから威力が増すのにも限度はあるけど、マシューがやったら水浸しになるかもしれないから気を付けてね」
「分かった!」
マシューはヴァージニアがやったようにやってみた。
すると、ヴァージニアがやった時よりも大きく水で染みを作っていた。
「んー、手汗かなぁ?」
「違うから」
「そっか。じゃあ次は詠唱魔法だよ」
マシューは本に書かれていたらしい文章を書いた。
彼が詠唱魔法を唱えた際の威力が分からないので、文字を黙読するだけにした。
「言葉自体に意味があるのと、力がある者、例えば神様とか龍に力を貸してくださいってお願いするのがあるんだよ」
「神様がこの人には貸したくないよって時は魔法は使えないのかな?」
ヴァージニアが分からないと言うと、マシューは再びノートに不明と書いた。
「僕、唱えた人が悪い奴だったら神様は断ると思うんだよね。僕だったらそうするよ」
「それもそうだね」
神様達だって選ぶ権利がある。
そもそも彼らは気に入っている人にはすでに力を貸しているのだがら、見知らぬ人に貸してくれと言われてすんなりと貸してくれるのだろうか。
「……あ、普段から自分を信仰してくれる人だったら貸してくれるかもね」
そのために教会があるのかもしれない。
「そっか!」
詠唱するのに時間がかかるのに、神様達に断られたら気の毒だなとヴァージニアは思った。
「……そう言えば、発音が悪くて魔法が使えなかったっていうのを聞いたなぁ」
「神様に通じなかったんだね」
「そういう場合もあるかもしれないけど、私が聞いたのは言葉自体に意味がある方だよ」
「歌でも音痴だと何が何だか分からないもんね。ふふっ」
音痴と言えば、教会がある町で伝わっていた黒いサイクロプスの歌だ。
伝える人が音痴だったため途絶えそうになっていた。
(そう言えば、教会の地下の石碑はどうなったんだろう?)
石碑にはマシューがいた場所に使われていた文字と同じ文字が使われていた。
あれはとっくに解読出来きているはずだが、ヴァージニアはあえて情報を遠ざけていたのでどんな内容が刻まれていたのか知らない。
(マシューと関係していたら怖いし……。けど、一応知っておいたほうがいいのかな……)
だが、マシューやマシューの存在を匂わす内容だったら世間が騒がしくなっているはずだ。
わざわざ石碑に残すのなら重要な人物とされ、何処にいるのか探し回るだろうが、そんな動きは見られない。
(大した内容じゃなかったのかな……。けど、あんな大がかりな仕掛けで隠しておいたんだから、余程の悪戯好きでなきゃそんなわけないよね。……あ)
ヴァージニアはつい考え込んでしまいマシューを放置してしまったのを思い出した。
彼女が彼の様子を見てみると、彼は先ほどの紙に何かの紋章を書き終わったところだった。
マシューは小さく書いたのでヴァージニアからは何の紋章か見えない。
そして彼女が聞く暇もなく、マシューは紋章に指をつけた。
「あわわ、ビリビリする」
マシューは雷の紋章魔法をやっていたようだ。
以前ジェーンが見せてくれた物よりは大分小さいが、それなりの威力がありそうな雷撃だった。
ちなみにヴァージニアには静電気程度の威力にしか出来ない。
「ちょっと大丈夫?!早く指を離して!」
「うー、じんわりと衝撃があったよ」
魔力で指を覆っていなかったら怪我をしていたかもしれない。
「……これ、ビリビリ加減を調節すればマッサージに使えるんじゃない?」
マシューはジェーンが言っていたのを覚えていたようで、彼はよい閃きをしたと思い興奮気味だ。
「残念ながらすでにあるんだよ」
しかしそんな便利そうな物はすでに誰かが思いついて開発しているのだ。
確かヴァージニアが子どもの頃にはすでにあったはずだし、更にもっと前からあっただろう。
「なぁんだ。お金儲け出来ると思ったのに」
マシューはコロッケ屋以外でも金稼ぎをしたいらしい。
強かで何よりである。
「お金はいくらあってもいいもんね」
「……けどね税金が大変だよ?」
マシューが不思議そうな顔をしているので、ヴァージニアはマシューに恐ろしいものを教えた。
その後マシューはブツブツを何やら文句らしき言葉を言っていた。
マシューはドライフルーツ増し増しのヨーグルトを食べた!




